「っ、」
生徒たちは作業に集中しているとはいえ、先生間でのボディータッチは普通に考えたらおかしい。
「櫻井先生、」
強めの口調で牽制すると、残念がって僅かに唇を尖らせた。
「…松本先生、ちょっとお話いいですか?」
生徒に聞こえない程度の声量で耳元で囁くと、そのまま教室を出て行ってしまった。
…ついて来い、ということなのだろう。
翔くんが出て数秒経ってから、俺も教室を後にした。
ーーー
S side
足音で後ろから潤がついて来ているのを確認しつつ、この階の隅っこの空き教室へと歩みを進める。
ガラガラと引き戸を開けて、放置されている硬い木製の椅子に腰掛けると、同じくらいのタイミングで潤も教室に入ってきた。
「なんの用事でしょうか、櫻井先生。」
「いいよ敬語なんて。俺らしか居ないし。」
「学校では敬語を使うって約束したはずです。」
「……。分かりましたよ。」
こういうとこ、潤はきちんと守る。
「…学校でこうしてきちんと喋るのはいつぶりでしょうか。」
「………着任式の日以来かと…。」
「そういうの、きちんと覚えていらっしゃるんですね。」
家では、
「学校で全然喋れない。」
なんて不満も漏らさず、、、というか、そういう話もしなかった。
「やっぱり教師の仕事って楽しいけど忙しいですね。こうして松本先生と喋れる時間すらも取れない。」
「それは、まぁ…教師の仕事はブラックって言われてますけど。。。」
「…ずっと寂しかったんですよ。松本先生と一緒になるためにこの学校に来たのに。」
「…。
で、ですから、本当になんの用事で、、っ、!」
恥ずかしそうに頬を赤く染めると、ダラダラと長ったらしい前置きを終わらせるかのように声を大きくした。
そしておもむろに立ち上がり、松本先生…潤の質問に答えるようにして、その体を抱き締めた。
じんわりと伝わる体温。
抱き慣れたこの体を、何度も何度も確かめるようにして、手のひらでゆっくりと撫でる。
肩に顎をのせ、すぐ横にあるほんのり赤くなった耳にふーっと息をかければ、ピクリと体が跳ねた。
「だっ、ダメです、、離してください櫻井先生、!」
ドンドンと俺の背中を叩くが、絶対離してやんない。
「嫌です。そのためにこんな空き教室まで来たんですから。」
「っ、」
「敬語もちゃんと使ってますし…ね?」
肩に顎をのせていたのをやめ、抱き締めていたのもやめ、代わりに両肩を優しく掴んで向かい合った。
「覚えてます?松本せんせ。ここ、僕と先生が番になった教室ですよ?」
あの日の思い出が突然ブワッと蘇る。
…昨日のことのように覚えている。
大好きで大好きで堪らなかった先生と番になれたあの日。
俺が他人のΩのヒートにあてられてラット起こしちゃって。
とりあえず学校行って相葉先生のとこに行って。
しばらくベッドで寝かされていたら、相葉先生が付き添いながら連れて行かれたこの、、、4階の隅にある空き教室。
ここで、松本先生と…。