「違う、翔。お前はうち専属の教育係に指導してもらうんだ。」


「え…?でも友達はみんな学校へ行くって、、、」


「お前は他とは違う。それは分かっているだろう?」


「…えっと…。」


「そもそも外で友達なんか作るな。どうせここで引き剥がされるんだから。」


「…。」


父に言われたその言葉。


今思えば、自分が国王となっていずれ友達と会えなくなるんだから、そもそも友達を作るなという父なりの優しさだったのかもしれないが…、

その頃の俺にしてはただの毒の刃でしかなくて。


町で知り合い、ほとんど毎日遊んでいた仲のいい友達には何も言えないまま、俺は王宮から出ることがなくなってしまった。


ーーー


徹底された教育は、幼い俺にとっては苦しいものだった。

最初は礼儀正しい立ち振る舞いから、乗馬、水泳、弓道、拳闘、武術の訓練。

実践的なもの以外にも、様々な国の語学、読み書きに算数などなど。


自分から何かを言い出して意志を示すよりも先に、父が完璧に作り上げた道を歩いていくことの方が早かった。


だから俺は何も言わず、何の欲も示さず。

もう俺の人生は既に事細やかに決められているんだって。


もうかなり早い段階で、そのことに気付いてしまった。


自分を出したって何にもならない。

なんなら叱られてしまう。


そのことで心がどんどん縛られて、結局なにも分からなくなってしまった。


国王となり、ようやく少しは自由になれると思ったら、一体なにが自由なのかも分からない。

思えば、潤がここへ来る前の俺のどうしようもない横暴な態度は、父に似ていたのかも知れない。


潤は、なくしてしまったパズルのピースみたいなもののような気がする。

俺の中で失われていたものが、あいつが来たことで少しずつ戻り始めている。


…あのはっきりとした意志を感じさせる瞳。

あんなに自分の意志を出すなんて、俺には出来なかったことだ。


自分の意思も、感情も、全部出してはいけないって分かっていたから。


だから、両親が船での不慮の事故で死んだって、よく分からなかったのが事実だ。

自分を塞ぎすぎて、何も分からなくなっていたから。


両親が死んだ直後に、カズが王宮にやって来て側近となった。

そうだ…、、、カズは俺がおかしいことにすぐに気付いたんだ。


ニコリとも笑わない、口を開けば横暴な態度ばかりをとる俺を、無理矢理医者に見せた。


…何も感じていない俺を変だと感じてすぐに医者に見せたカズは、今までの側近とは違って変な奴だと思った。


どこへ行っても何をしても冷たい態度をとる俺を、カズはよく叱ってきた。

自分が悪いとは何にも思っていなかったけれど、、、


でも、酷い人生が潤と出会ったおかげでようやく変わってきた。

だから早く起きて、「翔様。」って俺を見て微笑んで欲しい。

お前に淡く抱き始めているこの感情の正体も分からないままだし。


「チッ…早く起きろ、潤。国王の命だぞ…。」


震える声で呟いて、温かいその頬に優しく口付けるのだった。


ーーー