「ホントにここ、なんにもないですね…。」


雅紀が小窓の外をちらりと覗いて、ゆっくりと息を吐く。


雅紀の言う通りだ。

雪原のど真ん中。

なんにもない。


「でも、、、我々がここで止まってしまっては、今行方が分からなくなっている方たちは……。」


動ける者が動かないと。

そう言おうとした手前で、雅紀が口を挟んだ。


「なにをおっしゃっているのですか、潤様。」


「…しかし、、、、!」


「天候が落ち着くまでここに居ましょう。視界も悪いですし、今動いたら我々の身にも危険が及んでしまいます。どちらにせよ、馬も動けないことですし。」


「、、、」


反論したいのは山々だったが、2人から強く言われ、黙り込むしかなかった。


ーーー


明け方。

2人と馭者がまだ眠っている中、1人、こっそりと馬車を降りた。


明け方とはいえ、冬のこの時間帯はまだ夜のように暗い。

雪も変わらず降っていて、風も強く吹いているが、、、


自分の身を案じるよりも、行方知れずの方たちの身を優先したい。


「、、さむ、、、、、」


降り積もる雪と、相変わらず強く吹く風。

足が新雪にズボズボと埋まり、非常に歩きにくい。

その上、風のせいで、強く踏ん張っていないと雪の上に倒れ込んでしまいそうだ。


目を凝らしながら辺りを見渡し続ける。


って…あれ?

なんか、奥に馬車のようなものが見える気がする。


「…!」


もしかして。


そう期待した瞬間、視界がぐらりと歪んで、回って、体が動かなくて…。


ようやく自分が雪の上に倒れ込んでしまったことに気付いたところで、突然瞼が重たくなり、目の前が真っ暗になった。




ーーー




雅紀 side


「王妃がいらっしゃいません…!」


智さんの絶望したかのようなその言葉で、目を覚ました。


「え、、、?」


まだ覚醒しきっていない目で隣を見ると、居たはずの潤様の姿はない。


「嘘、…なぜ…!」


慌ててクッションに手を当てて温もりを感じようとしたが、残念ながら冷えきっていた。

ということは、居なくなったのはかなり前、、、


「こんな雪原の中で山賊に連れ去られるなんてことはないはず。どちらにせよ、無理矢理に連れ去られそうになれば、声を上げるでしょう。
恐らく、1人で外に、、、」


思わず頭を抱えてため息をついた。


…今思えば、智さんが

「もう休みましょうか。」

って言った後、不服そうにしていたっけ。


「早く捜しに行きましょう。
馭者の方はここで待機していてください。」


智さんがテキパキと冷静に馭者に伝えてから、馬車を降りた。


外は雪がチラつき、強かった風はもう止んでいる。

天候はかなり回復したらしい。


智さんと一緒に、新雪に足を取られながらも進む。


…ったく…、自分の立場がどれほどのものになったのか、考え直して欲しい。

パイン連邦国にいた頃とはもう違うんだから。


今は行方不明の方を捜していたのに、なんで潤様を捜す羽目に、、、

もう、、、人一倍正義感が強くて、すぐに何でもかんでも突っ走るんだから…!

潤様のばーか!!!


「…あ、、」


内心ブツブツと文句を言っていたら、智さんが隣で小さく声を漏らした。