翔様がおっしゃった通り、まずは雅紀に事情を説明した。

もちろん驚いてはいたけれど、嫌な顔ひとつせずに了承してくれた。


雅紀が和也さんにも説明してくれて、諸々の準備を手伝ってくれた。

それから、、、


「…智、さん。」


翔様がわざわざ名指ししていた智さん。

…。

…、、、、、


「…申し訳ありません。私のわがままに巻き込んでしまって。」


「王妃が謝らないでください。
よいのです。国王がおっしゃった通り、早く行って早く助けましょう。」


智さんがにっこりと微笑んだ。

ふにゃりと笑う智さんは、とても人当たりがよく、優しそうな顔をしている。


いや、"そう"っていうか、僕に付き合ってくれていて、実際優しいのだが。


ーーー


ある程度の物資を馬車に積んで、数十分後には王都を出発することが出来た。

和也さんや貴族の方たちが見送ってくれたが、その中に翔様の姿はなかった。


ーーー


大した広さもない馬車の中に、僕と雅紀、智さんが3人。

それから外で馬に乗る馭者の方が1人。


…捜索にここまで来ている訳だから、1人ずつ交代で馬車の小窓から外を見渡し続ける。

まだ王都からそれほど離れていないからか、この辺は比較的天候もよく、視界がひらけていた。


「…この季節、ブロッサム王国からパイン連邦国まで、普通に行けば半日で着きます。一体どの辺りで行方が分からなくなったのでしょうか、、、」


「出発前にパイン連邦国に手紙を送り、協力してもらうようお願いしました。私の名前もありますし、すぐに動いてくれるでしょう。」


「流石王妃。仕事がお早いですね。
…ですが相手は敗戦国…、王妃が考える通り、そんなすぐに動いてくれるでしょうか、、、?」


「大丈夫です。父は見殺しにするような人じゃありませんから。」


「…父?」


智さんがそう首を傾げたところで、あっと口を噤んだ。


そうだ。

僕がパイン連邦国出身ってことは、翔様と和也さんぐらいしか知らないんだった。


「…智さんぐらいになら言っても大丈夫だと思いますよ。」


失言してしまった、と、視線を彷徨わせる僕に、雅紀がボソッと耳元で囁いた。


「そうか、、そうだね、、、
…実は私、父がパイン連邦国の重人の1人で、、、、、」


隠していた事実を、大まかに話し始めた。


……


「そうだったんですね。それであれば期待してもよいでしょう。」


「ブロッサム王国側と、パイン連邦国側から挟むように捜していけば、必ず見つかるはずです。」


…そう胸を張って言ってから、数時間が経った…。


ーーー


じーっと外を見続けているが、出発した当初と比べると、かなり天候が悪い。

視界も悪く、数m先までしか見えない。


風も強く、雪も横殴りだ。


「酷い雪ですね、、、」


視界の悪さに目を細めながら呟いた。

すると突然、馬車が止まってしまった。


「え、、、?」


「………すみません、馬が動かなくなってしまって、、!」


馬に乗っていた馭者の方が、小窓から叫ぶようにして言った。


…動物だって気まぐれだし、こんな天候の中ずっと歩いていて疲れるし…。


「ここで休みましょうか。しばらくは動けないでしょう。」


智さんの落ち着き払った声と、強い風の音が、馬車の中を満たした。


ーーー