「単なる貿易だ。馬車に乗り、向かっていたはずなのだが、連絡が途絶えた。パイン連邦国にも知らせたが、まだ到着していないとのことだ。」


「…なぜ、そのようなことに、、、」


すると翔様は、ちらりと窓の外に視線を移した。


「この雪の降る季節だ。このように王都が晴れていたとしても、郊外は分からない。」


翔様の言葉に、思わず息を呑んだ。


…行方が分からなくなったのはいつから?

荒れた天気のせいで行方が分からなくなっているのであれば、一刻も早く助けに行かなければ。

猛吹雪であるのなら、気温が大して低くないとはいえ、凍えるように寒いはず。


「助けに行かないのですか?なぜそのような迷った表情を、、、」


「同じように行方不明になったらどうする?連絡手段は手紙しかないんだ。」


「まさか見殺しにするとおっしゃるのですか?!そんなの、有り得ないですよ!」


「分からないから待つだけだ!」


互いに気持ちが昂り、口調がきつくなってしまう。

堪えるようにして袖を強く握った。


…こうしている間にも、パイン連邦国に向かった方々は寒さに苦しんでいるかも知れないというのに…。


貴族の方たちだって口を開かず、なぜ僕ら2人を眺めたままでいるんだ?


…それなら、、、


「私が捜しに行きます。」


この広い玉座の間に、自分の声がやけに大きく響いたような気がした。


「…何を言っている。」


ようやく翔様が玉座から立ち上がった。


「誰1人助けに行こうと口を開かないのであれば、声をあげる私が行けばよいだけのこと。」


「そんなこと許す訳が無いだろう。王妃がみすみす命を捨てに行くようなことを…。」


「王妃だからこそ、です。
政治に一切関与していない王妃が死んだところで、この国は痛くも痒くもない。」


「ダメだ。
…お前、国王の命に逆らうのか?」


「私にその言葉は通用しませんよ。国王と王妃は、対等であるはずです。結婚しているのですから。」


「、、っ、」


翔様が初めて、焦るような表情を浮かべた。


「そもそも初めから命を捨てにいくようなことだと考えてはなりませんよ。
…死にません、私は。」


「………、、、お前には何を言っても無駄だな、潤。」


諦めたようにため息をついた翔様を見て、貴族の方たちは驚いたように顔を見合わせた。


…そういえば和也さんがおっしゃっていたっけ。

「あの方は、決めたことは基本曲げない方なのに」

って。


「…馬と馬車をひとつと馭者を1人…、馭者は誰か衛兵を。それからお前の側近の…雅紀と言ったか。そいつと官僚の1人…智さんを連れて行け。」


「えっ、」


翔様に突然名前を呼ばれ、声をあげた…、、、智さんという方。


まさか名指しされるとは思っていなかっただろう。

途端に申し訳なくなる。


「あ、あの、、貴族の方は、、、」


関係ない。

そう言おうとしたのに、


「いい。連れて行け。
智さんは官僚の中でも知識が豊富だ。どんな時でも柔軟に対応してくれるだろう。
…ほら、行くならさっさと行ってさっさと帰って来い。もちろん"生きて無事に"、な。国王からの命だ。いいな。これだけは言うことを聞けよ。」


「……ありがとうございます、翔様。」


ぺこりと一礼してから、その場を足早に去った。


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