「、、、、、花などの植物が好きだと聞いた。」


そう目を逸らしながらおっしゃった翔様が連れてきてくれたのは、広い庭園である。

この季節、雪がうっすらと積もり、咲いていない花の方が多いが、逆に寒さに負けず強く咲き誇っている花もある。


パイン連邦国では見たことのない花がほとんどで、寒空の下、思わず目を輝かせた。


「綺麗…。」


雪と花の濃淡、、、この寒さの中でも狂い咲く力強さ。

冬に咲く花には、そんな良さもある。


「…にしても、私が植物が好きだなんて、いつの間に…。」


屈んで花に積もった雪を軽くほろいながら、背後に立つ翔様に声を掛けた。


「、、、別に、たまたま耳にしただけだ。」


…たまたまって、、、

そんなはずないだろうと、内心笑みを浮かべる。


雅紀に聞いたのかな。

でもあの2人が話す様子なんて想像つかないけど。


…特に雅紀なんて、まだ翔様にビビり散らかしているだろうから。


でも、僕のことを少しでも知ってくれようとしたことには変わりないだろうか。


、、、不器用な方だな。

直接聞いてくれれば、お互いの関係も深まるというのに。


「…にしても、素敵な庭園ですね。我が国では見たことのない植物がたくさんで、色んな花へ目移りしてしまいます。」


「これから春になり、さらに夏になるともっとたくさんの花が咲き乱れる。」


「ふふ、楽しみです。」


「花は毎日見せる姿が違う。好きなタイミングで来るといい。」


「…!
はい、ありがとうございます!」


振り返ってみると、目を逸らして遠くを見たままだ。

…きっとその感情は、"恥ずかしい"っていうものなんだろうけど。


「…ほら、寒さで頬が赤くなってきている。早く中へ入るぞ。」


ふんわりと頬に手を寄せてきた翔様が短くそうおっしゃると、僕の手首をギュッと掴んでズンズンと歩き出した。


冷たいけど温かい、翔様の手からじんと伝わる体温。

強く掴みすぎているのか、次第に痛くなってきたが、このように手を強く掴んでくださることも中々ないだろうと思い、なにも言わなかった。


ーーー


「潤様ー、翔様との関係はどんな感じですかー?」


私が翔様に嫁いでから一ヶ月とちょっとが経った。

雅紀も僕も、ここでの暮らしにかなり慣れてきた頃である。


今は久しぶりに自室にて雅紀をお茶に誘った。


「関係って、、、」


…雅紀は翔様のご病気のことを知らない。


翔様の様子を見ていると、あまりベラベラと人に話して欲しそうなものではなさそうだからだ。

雅紀ぐらいには言ってもいいのかも知れないが、まだその一歩が踏み出せていない、といったところか。


夜はちょっとずつ翔様に感情のことをお話しているが、それ以外で翔様とお話する機会はほとんどない。


なんと言っても翔様は、絶対王政を執るここブロッサム王国の国王だ。

官僚の中心となって政治をしなければならないから、かなり忙しいだろう。


それに比べて自分は政治に関わることなんて出来ないから、庭園で花をじっくり観察したり、書庫の本をのんびり読んだり、、、


「…雅紀が期待しているようなことなんてないよ。翔様はお忙しい方なんだから。」


「んー、そうなんですかー。…まぁ、そうですよね、、、ちょっと残念…。」


「雅紀はどうなの?」


「私ですか?
そうですね…かなりいい感じにはなってると思いますよ?和也さんが何でもイチから教えてくださるんです。元々潤様に仕えて長いですし、物覚えはいい方なので。」


ふっ、とドヤ顔をした。