「今朝は昨日以上に冷え込みましたが、寒くはありませんでしたか?」


「えぇ。大丈夫でしたよ。」


…なんて他愛もない話を続けながら、王宮内を一通り案内してもらった。

もちろん、こんな広い王宮を1日で完璧に覚えるなんて不可能に等しいから、分からなければその辺に居る使用人に聞けばいい、とも付け足してくれた。


パイン連邦国の重人である父の家…我が家とは比べ物にならない程大きい、このブロッサム王国の王宮は充分過ぎるくらい、見て回るだけでも楽しかったけれど。

でも、頭の中をずっと彷徨いているのは翔様の存在である。


冷静沈着、人情に欠けた淋しく哀しい国王。

そんな噂話が、翔様を知らない人の間では有名だった。


…実際の翔様は90%、その噂話と同じような方である。


だが残りの10%は違う。

…本当は優しい、それ相応に人を称えてくれる。


翔様と出会ってまだ数日しか経っていないが、僕の目にはそんな風に映った。


……だって、式でのあの口の動き………。


…けどやっぱり、どうしても分からない。

翔様はなぜ、あんなにも感情を表に出さないのか。


和也さんが以前、気になることを口にしていた。

「やはり翔様には心というものが分からないから、、、」

と。


自分なりにずっと考えてきたつもりだ。

心が分からないという意味。


「絶対王政を執る典型的な国王の形ですよ。」

そんなことも和也さんは口にしていたので、翔様は元々人と関わることがお嫌いで、人の気持ちも分かろうとしないのでは。


失礼だが、憶測でそんなことを考えていた。


でも翔様に、

「綺麗だ。」

と、さっきも言った通り、実際に口に出されてはいないが言われ、聘定式も民の前で執り行うことに納得してくれた。


翔様は1mmも人と関わりたくない、という風には思えない。

少なくとも僕の考えでは。


この王宮へ来る前の馬車の中で、和也さんに翔様がどんな方なのかお聞きした。

「噂通りの方で、間違ってはいないかと。」

…確か、そう言われたんだっけ。


でも、和也さんは本当の答えをまだ僕に言わないまま、隠し持っていると思う。


「和也さん。」


その後ろ姿に、声を掛けた。


「はい?」


「翔様のことを教えてください。私は、翔様の、、この国の王妃なのです。ここブロッサム王国を知る前に、まずは翔様という人間を知らなければ。」


まっすぐに和也さんを見つめた僕の気持ちが伝わってくれたのか、和也さんはお茶でもどうですか、と、和也さん自身の部屋に案内してくれた。


ーーー


側近と、住み込みで働く使用人には、ひとりひとり部屋が与えられているらしい。

もちろん和也さんにも、きちんとした部屋が与えられていた。


十分満足に過ごせる部屋だが、やはり僕たちのような人間と比べてみれば、その部屋は狭い。


少ない調度品ですっきりとしている印象の和也さんの部屋。

テーブルにはまだ途中のチェスが広げられている。


「すみません。こんな狭くて汚い部屋で。」


「えぇ?そんな、とんでもないですよ。…変に広いより、これぐらいの方が落ち着きます。前に住んでいたのもこのようなお部屋でしたし。。。」


そっと目を伏せた。