「俺やっぱ無理かも、、、今日みたいなことだけで、もう耐えられないし…。」


「…。」


「俺が知らないことがあるのが嫌だ。潤は俺のなのに。ずーっとモヤモヤする。なんで俺が知らなくて、他の誰かは知ってるんだろうって。
…もうずっと、潤のこと軟禁しておきたいよ。潤のこと知ってるのは、俺だけでいいから。」


…菊池に「家帰ったら言っとくよ。」なんて言ったけど、こりゃ相当重症だな。


「…翔くんさ、、、」


掴まれていた手首をゆっくりと下ろし、じっと彼の顔を見つめた。


「俺のこと軟禁したら、自分の夢叶わないよ?だって、俺と同じ学校に勤めるんでしょ?」


「そう、だけど…。」


「俺だって翔くんと一緒に仕事したいよ。せめて翔くんがちゃんと学校の先生になるまではお仕事させて?翔くんが先生になったら、軟禁でも監禁でもされて構わないから。」


「…潤、、それ自分で何言ってるか分かってる…?」


ここでようやく翔くんが少しだけ笑ってくれたので、とりあえずホッとする。


「ふふ、分かってるよ。
でもさ翔くん。周りとの関係を断ち切ることなんて出来ないのは分かるでしょ?この仕事やってる訳だし。」


「…それは、まぁ、、、、、」


拗ねたようにまたそっぽを向いてしまった。


「翔くんが知らないことがあるのは仕方ない。実際俺だって翔くんの知らないことたくさんあるし。」


「…。」


「どこかで線引きはしないといけないんだよ。」


わしゃわしゃと目の前にある頭を撫でてやる。

こういうところはまだまだ子供だからさ、ちゃんと諭してあげないと、いつまで経っても納得してくれなくて、不貞腐れたままなんだよ。


「…ほら、明日も早いでしょ。」


そうして、彼の背中を押した。


ーーー


嫉妬していつもより若干唇が尖り気味の翔くんだけど、、、


日が経つに連れて、翔くんの周りには生徒が集まるようになっていた。

一体どんな授業展開をしているのかは分からないけど、他の先生よりも年が近く、さらには少年のようなノリを持つ翔くんに、みんな惹かれていったんだと思う。

まぁ翔くん…誰が見ても魅力的な人だし、、、

あと顔の良さ。

ここって男子校だけど、共学だろうと女子校だろうと男子校だろうと、顔がいい人のところに人は集まりやすい。


…翔くんが人気者になって、面白くないのは俺だけだ。


ここんところ、社会科準備室にも来てくれなくなったし。


やっぱり菊池がいるからかな。

あれだけ諭したのに、まだ嫉妬しているんだろうか。


「最近しょーくん全然来てくれないっすね。あんなに大口叩いてたのに、来たのは結局あの1日だけじゃないっすか。」


やはり菊池も同じことを思っているらしい。

俺のせいかな〜、なんて1人でブツブツ言っている。


実際になんで来てくれていないのかは、本人にしか分からない。

菊池への嫉妬心なのか、それとも単に忙しいだけなのか。


けど、家でも口を利いてくれることが少なくなったから、正解は前者だろう。

分かりやすい翔くんのことだ。

すぐ態度に出る。


…俺だって翔くんが生徒の人気者になって嫉妬してるのに、、まるで自分だけが勝手に嫉妬してると思って態度に出すなんて…。


「…ずるい。」


「へっ?」


突然ポツリと呟いた俺に、菊池が驚いたようにこちらを向いた。


俺だって本当は言いたい。

声を大にして言いたい。

翔くんは俺のモノなんだから、そんなに仲良くしないでよ、って。


…結局このモヤモヤは解消されないまま、翔くんの2週間の教育実習は終わった。




ーーー