「…え、二宮さんもこっちですか?帰り。」
「……えぇ、まぁ、、、」
俺が先に店を出ると、二宮さんも俺の後ろを着いて来ているようだったので、思わず振り返った。
二宮さんがバツが悪そうにそっぽを向く。
「俺、まっすぐ行ったところにあるマンションなんですけど、、、」
「僕はそのさらに先です。」
…二宮さんと帰り道が一緒だなんて、、、結構嬉しいなぁ。
だって、その…まぁ、、、"気になる人"だし…?
出会ったばかりで二宮さんのことは何も知らないけど、神様は味方してくれているのかも。
こんな、奇跡みたいなことを、、、
とは頭で思いつつも、お互い気まずい時間が流れてしまう。
どうにかしてもっと距離を縮めたい。
でも、一体どうすれば…。
「…二宮さんは、恋人、とか、居ないんですか…?」
せっかくのクリスマスにこんな話。
…けど、やはりこれしかない。
俺だって、、潤くんのこと二宮さんに話したし、聞いたっていいでしょ。
まぁ、クリスマスにバイトしてるくらいなら、答えはきっと…。
「居ませんよ。」
スッと、まっすぐな言葉が返ってきた。
「じゃないと、こんなバイトしてません。」
「…ですよね、、、
き、気になってる人とかは…、」
「特に。」
…チャンスは十分ある。
やっぱり神様は俺の味方だ。
このせっかくのクリスマスに、どうにかしてあやかりたい。
…"せっかくのクリスマス"、自分で思った言葉が、頭の中でさらに反芻される。
…去年潤くんと別れてからは、最悪のクリスマスだの、厄日だの、散々に言ってきたが、二宮さんという素敵な方が目の前に現れた今、クリスマスというものをポジティブに捉えることが出来ている。
クリスマスのあるこの季節って、こんなに素敵な季節なんだなぁって。
…明日、明日だ。
二宮さんはどうか知らないけれど、俺のバイトは明日まで。
二宮さんと会えるのも、明日だけなのだ。
だから明日、なにか二宮さんにグイッと近づけるように…。
ーーー
翌日の夕方。
心を踊らせながら昨日と同じケーキ屋さんに行くと、そこに期待していた二宮さんの姿はなかった。
「あれ。。。」
もうバイトの始まる20分前で、既に来ていたっておかしくないのに。
「あの、二宮さん今日居ないんですか?」
恐る恐る店の店主に声を掛けた。
「………あぁ、今日二宮さんには隣駅の方の店に行ってもらってます。あっちにはサンタ役の人居ないらしくて、急遽お願いしたんですよ。」
「あ、、、そうなんですね…。」
そっか、、、
神様は俺の気分を高めた後に、ドン底に突き落としてくるのか。
去年も…、そして今年も。
俺、つくづく恵まれてないんだなぁ…。
真っ赤なサンタの衣装が憎たらしくって、唇を噛み締めながら、仕方なく帽子を被った。
ーーー
…やはり昨日に比べてしまうと、街中の盛り上がり方は一目瞭然で。
不特定多数の人に声を掛けながらケーキを売るけれど、隣に二宮さんの姿がなければ、出るはずの大きくて元気な声も出なくなってしまう。
笑顔なんてなおさら無理で、こんなんじゃきっと二宮さんに、
「笑顔!」
って怒られちゃうんだろうなぁって。
…隣駅なんて別に行けない距離でもないけれど、、、
あ…じゃあ、行けばいいのか。
だって行けない距離じゃないんだから。
二宮さんとのこれからのきっかけを掴むには、もう今日しかない。
そう一度でも思ってしまったら、どんどん心の中でその思いが強くなって、、、
店内の様子を伺いながら、こっそりその場を離れた。
ーーー
「…はぁっ、はぁ、!っ…。」
星が空に浮かんでいた昨日とは違い、今日は雪がチラついている。
そんな中、人混みを掻き分けながら、夢中で走るサンタが1人。
周りから見たらかなり滑稽で、面白いんだろう。
視線が痛いほど突き刺さるけど、まだ…二宮さんとは何も始まっていないから、
自ら声を掛けなければ、何も始められないから、
このままじゃ、終われないから。
「好きです。」
なんて今すぐに伝えなくていい。
連絡先を聞けるだけでも、二宮さんの家の場所を知るだけでもいい。
俺がまた、二宮さんに会える理由を手に入れることが出来れば、それでいいんだ。
ーーー
「…え、、、相葉さん…?」
駅から駅まで何分走ったのかは分からないけど、でも、目の前には目をまんまるにして驚いている二宮さんが確かにいる。
「な、なんでここに…?バイトは、、、」
「…二宮さんに、会いに、来たんです…、もう、会える機会、ない、ですし…、」
「なに、言って、、、」
「…これからも、俺と会ってくれるきっかけをください!お願いします!」
腰を深々と曲げた俺は、傍から見たらプロポーズをしているようで。
…二宮さんの表情はこちらからは見えない。
でも、ふぅ、と息を吐いたのが聞こえた。
「そんなことわざわざここまで来て言わなくったって…。
、、、もちろんですよ。」
上から二宮さんの優しげな言葉が降り掛かってきて、俺は勢いよく顔を上げた。
「やった…!!!よかった、、、!」
安心しきった俺を見て、二宮さんが顔を綻ばせる。
「…あっちのバイト、大丈夫なんですか…?」
「……あー、、、はい!大丈夫でしょう!」
そうだ、勝手に出てきちゃったけど…。
まぁ…怒られるだろうけど、どうせ今日で終わりだし、今後に影響することはない。
「…なんだか、ケーキの上の苺みたいですね。」
「え、、、?」
二宮さんが突然言った言葉に、首を傾げる。
「赤いサンタが、真っ白な雪の上に突っ立ってて…。」
「…あぁ、、、!」
そうやって笑う二宮さんを見て、思わず見惚れてしまう。
やっぱり、自然に笑った顔が、1番素敵なんだって。
そして、先程まで全力で走って来て乱れた息を整えて、、、
「…メリークリスマス!」
…どうかな?
俺の元にもサンタさんから、"二宮さん"っていう素晴らしいプレゼントが届いたようだから。
終
ニノさんのソロ曲「メリークリスマス」の歌詞のストーリーを元にお話を書かせてもらいました。
実は「あの日のメリークリスマス」の雰囲気もちょこっとだけ入れてました。
(潤くんと別れて、次のクリスマスでもまた思い出して…、とか、「愛してる」って言いたかった…とか。)
「メリークリスマス」、この曲特に好きなんですよねぇ。
こんな歌詞、ニノさんにしか書けないし、ニノさんにしか歌えない!
この話書くためにずっとリピートしてたんですけど、
"なんかケーキの上の苺みたい"
っていう歌詞は何回聴いてもすごいなぁって思えます。
相葉くん、素敵な1年を!!!