「…既に嫌いか?私のことが。」
「…え、、、」
再び玉座に腰掛けた翔様は、静かな声でそう告げた。
「…翔様、なんてことをお聞きするんですか、」
和也さんが横から口を挟むも、翔様の表情は一切変わらない。
雅紀も流石に翔様の発言に驚いたのか、心配そうにこちらを見てくる。
「………嫌いなわけないじゃないですか。お互いが忌み嫌いあってしまっては、これから上手くいくはずがありません。私達は、"結婚"するのです。これから一生を添い遂げるのです。そんな方を、どうして嫌いになれましょうか。」
…今のところ、翔様にはなにひとつ良い印象を抱いていない。
噂通りの方だ。
そんなことしか、頭にない。
でも、これからこの方と一生を過ごすこととなる。
嫌いになってしまっては終わりであろう。
「……流石パイン連邦国の人間だな。…清らかで美しい心だ。」
その答えに和也さんがホッとしたように息を吐いたのが見えて、気を損ねることは言わなかったのだなと分かった。
「…翔様、それから潤様もこのあとの動きについてご説明します。
お召し替え等準備を済ませ、3時間後には民の前での聘定式。それから、」
「いい。」
「え?」
これからのことは全て頭に入っているらしい和也さんがツラツラと話しているところで、遮った翔様。
その顔は相変わらず無表情で何を考えているかは分からない。
…人の話は例え側近だろうと、最後まで遮らずに聞くのが尤もなのでは。
「…いい、とはどういった意味でしょうか?」
「……そのように民の前で式をしなくてもよい、ということだ。」
「…何をおっしゃっているのですか?」
「マール丘の教会で執り行う。私と潤、側近2人。それから、特に優れた官僚数人だけで。」
「…お言葉ですが、おっしゃている意味が分かりません。
…国王の結婚ですよ?民の前で執り行わないなんて、、、何をお考えなのですか?翔様だってきちんと書物を読まれてお勉強されている方だ。今までの先代の国王は全て、民の前で一連の式を執り行っております。知らないだなんて言わせませんよ。翔様のおっしゃっていることは特異ですよ。」
和也さんの口調がキツくなった。
それはそうだろう。
正直なところ、一体翔様がどんな考えを持ってこのようなことをおっしゃっているのかは分からない。
普通であれば、聘定式は全て民の前で大々的に執り行い、皆で盛大に祝福するのが当たり前なのだろう。
だが今翔様がおっしゃっているのは、それを教会で執り行うということ。
民には知られないように。
「…カズ。この国の政治体制はなんだ?」
「…?
今そのことは関係ないかと、」
「答えろ。」
「………絶対王政、ですが。」
「そうだ。ここブロッサム王国は絶対王政の国だ。権力が全て国王に集中している。
、、、神から与えられた権力をお持ちの国王が、戦争を政略結婚で終息されたなんて、馬鹿な話だとは思わないか?こんなこと民衆に知られてしまっては、国王はそんなものなのかと思われてしまうだろう。圧倒的実力差で、完全勝利を手にするのではないのかと。」
「国としてのプライドよりも、国王の幸福を喜ぶのが民かと思いますが、、、
それに、結婚したことを民に隠すなんて、それこそ間違っていると思い、、、、、、」
…翔様の怖いほど無表情で変わらない顔が、和也さんを追い詰めたのだろうか。
和也さんはもう反論することをやめた。
「…民にはなんと説明するおつもりですか。そのようなところまできちんと考えていらっしゃるのですか。納得できるような答えを頂くまで、認めませんからね。」
…国王である翔様にここまで強く言えるのは、和也さんだけであろう。
「パイン連邦国一部が壊滅。それにより相手国から降参の申し出。…こんなんでいいだろう。」
「壊滅だなんてありもしないことをでっち上げるのですか?それに、そんな嘘はパイン連邦国の方々にも失礼かと。」
「我々が嘘をついていることなんて、民もパイン連邦国の民も知らないことだ。わざわざ壊滅状態であることを確かめに行く馬鹿な民はいない。」
「…。潤様の目の前で、よくそんなことをおっしゃることができますね。
…マール教会の司祭に確認をとっておきます。認めてはいませんが、翔様はそうでなければ動かないでしょう。
失礼します。」
表情を固くさせている和也さんの後を追うようにして、自分も雅紀と共に玉座の間を後にした。
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