「…お迎えにあがりました。ここまで遠路はるばるお疲れ様です。」
「えっと………。」
「私、ブロッサム王国国王の側近の、和也と申します。」
「…わざわざいらっしゃってくれたのですか。王都からここまでは遠かったでしょう。」
「翔様の命ですので。」
「、、、しょう、様、が、」
自分が結婚する相手の名前すらも知らなかった。
王の名前は"翔"と言うらしい。
「…関所に兵がいるとはいえ、ここから王都までの郊外は変な輩も多いだろうというお考えで。」
…冷たい人だと聞いてはいるが、そんなことまで心配してくれていたのか。
「……噂通り、美しくて可憐な方ですね。国王も民も、きっとお喜びになると思います。こんなに素敵な方が王妃となってくださることに。」
「そんな、、、」
恥ずかしくなって目を伏せる。
噂…、、、噂なんて飛び回っていたのか。
結婚が決まる前までは、ただの国家権力者の息子として、表に立つことなんかなく、普通に暮らしていただけなのに。
「では、早速参りましょうか。
こちらの馬車に乗り換えてください。2時間もあれば郊外を抜け、王都に辿り着くでしょう。」
そうして、僕と雅紀、加えて和也さんが共に馬車に乗り込むことになった。
ーーー
「…国王である翔様は、一体どのようなお方なのでしょうか…。」
堪らなくなって口を開く。
和也さんが翔様に使えて何年になるのかは分からないが、それでも側近は側近。
その辺から耳に入ってくる噂よりも、よっぽど信憑性が高いだろう。
「やはり、気になりますよね…。
ご自身の目で確かめることが尤もかと思いますが、、、でも、耳に入ってくる噂通りの方で間違ってはいないかと。」
「…。
そう、なんですね、、、」
やはり冷酷な方なのか。
分かっていたことだが、改めてそう聞かされると気持ちがどうも浮上しない。
「…心配で心配で堪らないんです。果たして私みたいな者が、強国である隣国の王妃にふさわしいのか。…翔様には、もっと…素敵な方がたくさんいらっしゃるのではないかと。」
「………国家権力者の方々が数多くいらっしゃる中から潤様を推薦したとお聞きしましたが、こちらでも候補者様の顔写真を並べ、翔様に選んでもらったのですよ。誰を娶るのかと。その際、パイン連邦国から誰が推薦されているのかはお伝えしていません。何も知らない状態で、翔様には選んで頂いたのですが、、、
…翔様も潤様をお選びになったんです。何度もこの方で良いのかと聞きましたが、譲りませんでした。
……翔様自身も潤様を選んだのですから、なにもそれほど心配する必要はないように思えます。真っ向から否定なんてことはなさらないと思いますよ。」
「それでも、私が翔様に見合わないような者だったら、、、だって、翔様は見た目だけで相手を選んだということですよね?どんな人なのかも分かっていないのに。」
「…潤様、ネガティブが過ぎますよ。
見合わないような者だったら、見合うように努力すればいいだけのこと。潤様も翔様もまだお若く、時間もたっぷりあるんです。最初から完璧でいる必要なんてありませんよ。」
口からどんどん溢れていく言葉に我慢できなくなったのか、とうとう雅紀が口を開いた。
雅紀に言われたことがあまりにも妥当で、思わず押し黙ってしまう。
「…雅紀さんのおっしゃる通りです。焦る必要はありません。我々だって急かすつもりはありません。まぁ、様々なマナーに関しては、早めに覚えて馴染んで頂くことを望みますが…。
とにかく、、王宮にはたくさんの人間が居るので、何でも頼ってください。」
両側からそう言われ、これ以上なにも言い返すことが出来なくなってしまった。
ーーー