翌日。

昨夜散々に愛された気だるいその体をベッドから起こした松本は、隣に櫻井の姿がないことに気づいた。


もう起きたのだろうか。


腰の痛みに耐えつつ、フラフラと立ち上がってリビングへ向かえば、ベランダで煙草を吸っている櫻井の姿が目に入った。


自分は下にスウェットを履き、上にはなにも着ていないが別にいいやと思い、ベランダのドアを開けた。

こちらに背を向け、景色を眺めていた翔さんが、驚いたようにこちらを見る。


「…おはよ。」


「おはよ、、、って、上、着ろよ。」


「いいよ。寒くないし。」


「そういう問題じゃなくて、」


途中で言葉を紡ぐことをやめた翔さんが、上に羽織っていた薄いカーディガンを、上半身裸の僕に掛けた。


「誰かに見られてたらどうすんだよ。その身体。俺のもんなんだから、誰にも見せられるわけないだろ。」


「…。」


風邪をひいてしまうか、ひいてしまわないかの問題じゃなくて、翔さんにとっては僕の身体が他人に見られてしまうか、見られてしまわないかの問題らしい。

手際よくカーディガンを掛けてくれる、 The・彼氏感をバンバン出してきてもらったら、こっちが惚れに惚れてどうにかなってしまいそう。


しかも"身体を見られたくない"、っていう理由が俺をなんでも独り占めしようとする翔さんらしい。


「…ありがと。」


やっぱり僕は、この人のこういうところが好きなんだ。

遠距離にもなると、そのことがだんだん薄くなってしまっていたけど。


「Stormダンススクールダンス講師、大野智、二宮和也。」


「…え?」


「調べてた。こいつら?」


…翔さんには名字しか伝えていない。


「えっと……。」


「こいつらだろ?」


「、、、うん。」


「流石に顔写真までは載ってねぇか。…あ、こいつは?経営者兼オーナー…?相葉雅紀って奴。」


「そ、その人はなにもしてないから!」


「ふぅん。
じゃ、早速行くよ。」


「へ?…どこに?」


「決まってんだろ。」


ーーー


「2人のとこだよ。」


さっきそう言った翔さんは、隣の席でハンドルを握っている。


まぁ…そりゃ牽制してくれるのはありがたい。

まだまだこの先2人に関わる機会はあるし、ここで翔さんから直接圧をかけてもらわないと、また僕は2人に流されてしまう。


ん…?

そもそも牽制って何をするんだ?


「こいつは俺のもんだから、手ぇ出すなよ?」

「何調子乗ってんだよ、おーのさん、にのみやさん?」

って?

…翔さんなら全部有り得る。


運転席の翔さんを横目で盗み見るけど、何を考えているのかなんて、分かりそうにもない。

恋人だからって、テレパシーなんか使える訳がないし。


「…ここだよな?」


車をご丁寧に駐車場に駐めた翔さん。


さっき起きたばかりと言っても、時間は既に11時ぐらいだったし、この時間なら2人は居てもおかしくないと思う、けど…。


早速車から降りた翔さんの後を慌てて追う。


翔さんがどんな表情をしているのかは、こちらからは分からない。


なに、考えてるのかな。

あんまり、これから変なことはしないで欲しいんだけど…。