著者の50のエッセイと大橋歩の銅版画101点のコラボレーション。雑誌「anan」の好評連載が一冊に。しみじみ、ほのぼの。あなたの心にすとんとしみる、久しぶりのエッセイ集。
内容「BOOK」データベースより
村上春樹は代表作「ノルウェイの森」「海辺のカフカ」「1Q84」etc...と長編作家のイメージが付きまとうのだけど、発表されたばかりの「女のいない男たち」のように短編も素敵だし、翻訳家としての一面もあるなど実に多才な作家である。作家たるもの読者との関係が全て、だから全力を注いで執筆に臨んでいるという著者は、(得意ではないとの理由もあり)メディア露出が少なく作品こそが全てといったタイプの作家さんである。多くの場合において作者が何を考え何を思って物語を描いたのかを読者自身が考え廻らさなければならないので作風を楽しめるか楽しめないかは読者に委ねられているといっても過言ではないだろう。それでいて多くの読者を惹き付けてやまない村上春樹なんだけど、私自身が何故村上作品が好きになったのかを思い返したとき・・・「海辺のカフカ」のホームページ上での読者からの質問に村上春樹が答えるQandAを纏めた「週刊カフカ」を読んだ時からファンになったのでした。そこには村上春樹が読者からの質問に事細かに回答しているのだけど、その全てがクスっと笑えるユーモアを交えながら“ほんわか”とした空気に包まれて丁寧に書かれていたのです、悪意とまではいいませんが曲解を用いて質問したり敢えて難解な用語を用いて質問する読者に対しても優しく理解し易い内容に置き換えて返答したり、時には自らの譲れない部分を明確にしたりと、とても人間性豊か受け答えをされており魅了されたのでした。作家のヴェールを剥がすというのは村上春樹の趣旨からは逸脱した行為かもしれませんが、コレほどの有名人です、ちょっとぐらい読者は作家の人間性を知ってみたいと思うのが性ってものではないでしょうか?そんなこんなで、今作「村上ラヂオ」はまさにうってつけの作品であると言えます。
女性向け雑誌「anan」で連載していた村上春樹エッセイ集。私は「anan」が週刊である事に驚いたのだけれど当時は毎週村上春樹の作品が読めるのならば購入してみたいって思った読者もいたのではないだろうか?好きな作家のエッセイやコラムを読むためだけに雑誌を買うって読書家もごく稀なんだろうけどもいるんだろうな(私もそんな経験があるぐらいだし)。エッセイってことなので、村上春樹自身が思ったことや感じている事が書かれている・・・面白い!確かに作家特有の視点や独特のセンスを持ち合わせている思考によって形成されている内容なんだけど、過度でも軽度でもない絶妙な共感を感じてしまうのは何故なんだろう?意外に古風な一面や、社会化という点ではローテクとも感じ取れるのだけども不思議と古臭い印象を感じる事もなく人間の根本的な部分の大切さを感じてしまうこの妙味。作者自身が言うように型にはまったり決め付けを極力排除したエッセイは肩の力を抜いた姿勢が伺える、車でいうところのニュートラル?な状態とでもいいましょうか・・・以後前進するも後退するも可能な極めて順応しやすい構えをもって物事を見ているなと感じました。多くの読者が“ゆる~い”“まったり”といった感想をあげていますので、この空気感は是非味わってみて損はないと思います。僕が「週刊カフカ」を読んでからより一層村上春樹作品が好きになったと同じく、本作品を読んだ上で過去やこれからの村上春樹作品を読んでみると一層の深みを味わう事ができるのではないでしょうか?小説はあまり読まないって人にもエッセイ集なのでオススメできます。ちょっと身近に村上春樹が嫌いなんて人がいたら、物語でなくエッセイを読んでみては?とアピールしてみるのも一興かもしれません、それでも駄目な人はいるんでしょうけどね・・・
「村上ラヂオ」では大橋歩さんによる版画が各エッセイ毎に2枚収録されています、シュールでいて毒気のない挿絵は作品に彩りを与えてくれているかのようで、毎回話題と挿絵を楽しみに読み進める事ができます。絵本って訳ではないですが、文字だけでなく視覚情報として心にのこる作品といえます。




