第二次世界大戦下のイギリス。夫に先立たれた一人の老ピアニストが出会ったのは、一羽の傷ついた小雀だった。愛情深く育てられた雀のクラレンスは、敵機の襲来に怯える人々の希望の灯となっていく―。特異な才能を開花させたクラレンスとキップス夫人が共に暮らした12年間の実録。世界的大ベストセラーの名作
内容「BOOK」データベースより
サブタイトルの「人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯」。 クラレンスとは、生まれてスグに巣から落ち絶体絶命の危機から救い、愛情をもって育てたイエスズメの名前である。鳥獣学者顔負けの観察眼と考察力によってユーモアを交えながら語られる12年と7週と4日間の夫人とクラレンスの物語。
育てるとの表現は間違いかもしれない、古今東西人間と動物が共生する物語は数多くあれど、本作品ほどに両者が対等に書かれている作品は少ないと思います。 人間と動物の物語で、よくあるパターンとして人間とペットのお話・・・お涙頂戴系に多いのですが、これはペットが期待される以上の行動を起こす事で物語にインパクトを与え、感動を呼び起こす手法。基本的には愛情が介在してはいるものの両者が対等な立場かといえば人間の都合よく扱われている事が多いですね。 次に多いのは動物が人間以上の存在として登場し活躍する物語です、これは昔話やファンタジーに多い傾向にあります。人間に対する自然からの警告や啓示といった意味合いで動物が登場するので、時に人間よりも尊大な動物が登場することになります。
さて、「ある小さなスズメの記録」はどうでしょうか?愛情や絆といった観点から見れば先ほどのよくあるパターンに該当しそうな感じもするのですが、この物語はノンフィクション作品と銘打つだけに、極力感情を煽るようなエピソードなどが除外されています、鳥獣学者顔負けと表現しましたが・・・スズメを人間とは異なる種として尊重した上での観察記録がこの物語には描かれています。例えばピアニストであるキップス夫人の影響で歌を奏でるようになり、戦時下の民衆に夢や希望を与えたなんて感動のエピソードを中心に描くだけで感動動物物語が生まれるはずです・・・ですが、そんな華やかなエピソードを描きつつもスズメの晩年の老いていく姿を克明に描いている、死を前に生命の限り奮い立つ姿を描いている。生老病死という生のサイクルを、スズメの一生を見事に描いた作品であると言えます。この圧倒的なまでの記録は、愛や絆といったものを超えた作品を生み出したのでしょう。だからこそのベストセラーと言えます。
第二次大戦下を経ている物語というところもポイントですね、戦争といえば人くくりに絶対的な嫌悪感をもって捉えられることが多いです、特に平和な時代であればあるほど、だけどもその状況下でこれほどまで文字通り小さな命を大切に思って書いた作品があるのだという事に胸が救われる思いですね。たとえ人はどんな状況下に置いても命を慈しみ尊ぶ心を保つことが可能であると勇気を与えてくれる気がします。クラレンスが戦時下の人々に希望を与えたように、本作品は世界中の人々に希望をもたらしているのではないでしょうか?とてもすばらしい作品。
文藝春秋 (2015-01-05)
売り上げランキング: 31,199
