『春にして君を離れ』 アガサ・クリスティー | ほんとなかよし

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だったらいいな・・・

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。


内容「BOOK」データベースより


アガサ・クリスティーといえばミステリーの女王と呼ばれる超一流の推理小説家である・・・だが本書「春にして君を離れ」には殺人事件はおろか犯人や刑事といったミステリーに必要な要素は一切登場しない・・・英国中流階級に属する一人の女性の物語、母として妻として女性として理想の道を歩んできたジョーン・スカダモア、遠く離れた東洋の地で一人自分を見つめなおす時間が訪れる。彼女が気づいた本当の自分とは!?多くの読者に恐怖と憐憫の感情を与えた心を描いた小説。衝撃のラストも必見である。


女性の半生や一生を描いた作品は数多くあれど、この小説ほど赤裸々に醜く半生を振り返る作品はそうはないだろう・・・アンチヒロインと表現され、結末に対しても批判的な意見や感想をもたれる事が多い主人公ジョーン・スカダモア、物語序盤から他人を見下し自らは常に高尚だといわんばかりの言動が続く、他人からの忠告は一切耳を傾けず自分の意見は微塵も間違いを疑う事は無い、夫には夢である農場経営を断念させ稼業でる弁護士として身をすり減らしてまで働かせるし、我が子には自分の気に入った友だちしか遊ばせない徹底的な過保護ぶりで相手の意見等はお構いなしなのである、いわゆる典型的な自己中心的な女性なのだ。彼女は自らが気がつかないだけで愛する夫を初め周囲のあらゆる人から距離を置かれている・・・その精神的な孤独感から読者は物語に怖さを感じたり、哀れみを感じるようである。

ここまで酷くはなくても、全ての妻であり母である女性ならば心の片隅に抱える闇なのではないかとの意見も多い、その闇を払拭する機会が訪れたならば人は改心できるのだろうか?と問われているかのような物語は女性だけでなく様々な人に自分というものを見つめる怖さを与えているようである。“自分探し”という価値観があるが、自らの負の部分を見つめる勇気は果たしてあるだろうか?そんな事を思わせる作品である。


ジョーン・スカダモアを憐れで悲しい人という言うのが最適な表現なのでしょう、自己中心的だと言い周囲の注意をしなかった人間や環境のせいにする事が一般的な読み方なんだろうと思います。ただ、彼女が過去を回想し自分の真の姿に気がつく場所が遠く離れた東洋の地である事はなにか意味があるのではないでしょうか?もしかすると西洋の、ひいてはイギリスの社会が彼女のような孤独な精神を生み出しているとは考える事ができないでしょうか?物語終盤にさらに異国であるロシアの婦人との出会いが描かれている場面があります・・・そこでまた違った価値観の人と出会う事にも意味がある。しきりにロシア人の女性は英国風の考えだと連呼するのです・・・私たちがジョーン・スカダモアに対して抱く哀しさや憐れみなんかも所詮我々の価値観でしかないのではないだろうかそんな事を深く考えさせられる作品。

時代は第二次世界大戦突入直前の物語、ヒットラー率いるドイツと激しい戦争に向かう前のイギリスで産み落とされたジョーン・スカダモア・・・彼女が戦争下でどう生きたのか?語られる事はない物語のその後が凄く気になりました。アガサ・クリスティーの心をえぐる作品で貴方は何を思うでしょうか?



春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティー
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