人工授精やフリーセックスによる家庭の否定、条件反射的教育で管理される階級社会――かくてバラ色の陶酔に包まれ、とどまるところを知らぬ機械文明の発達が行きついた“すばらしい世界”!人間が自らの尊厳を見失うその恐るべき逆ユートピアの姿を、諧謔と皮肉の文体でリアルに描いた文明論的SF小説。
内容紹介より
ジョージ・オーウェル「1984年」とともに英国ディストピア(反ユートピア)小説の傑作と呼ばれる作品、題名はシェイクスピアの戯曲「テンペスト」に登場するミランダの台詞“O brave new world”を引用している。作品の世界は高度に文明化・機械化発展した社会、母体を必要とせず量産的・階級的に瓶詰めとして誕生する生命、酒や宗教といった恍惚の感覚ですらソーマという薬品一つで何時でも何処でも得られる人類は最早望むものは全て手に入り、手に入らないものは望みすらしない。世界唯一にして絶対の原則は社会を安定し続ける事のみである、機械文明による圧倒的全体主義国家は非現実的なのに何故かリアルに身近に感じてしまうのは何故か?我々が求めるユートピアとは何かを極限追求した一冊。名作「1984年」が再び脚光を浴びたのは村上春樹著「1Q84」でしょう、並び称される「すばらしい新世界」が村上春樹著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の中で登場した事からファンの間では必見の作品となっているかもしれませんね、そもそもこの「すばらしい新世界」は他の作品でも登場します。
一つ前に記事にしましたジェフリー・ディーヴァー「ソウル・コレクター」でも登場しています、ハックスリーもしくはハクスリーの名前も他作品で度々登場する事から読書家の人にとっては馴染みのある作品名、作家名ではないでしょうか?「すばらしい新世界」の舞台である超文明社会は、SF小説ではお馴染みの設定ではありますが・・・19世紀後半ごろ誕生したSF小説が20世紀前半になり爆発的普及した当時に描かれ今に残る作品である事から当時センセーショナルを巻き起こした作品である事は間違いがありません。ある種の理想郷を築いた人類ですが人間の尊厳や意義といった多くの代償の上に世界が成り立っています、それを象徴する意味で(作中で古いという理由だけで)淘汰された価値観の代表としてシェイクスピアの戯曲(詩)といったものが登場します、詩から人間的な何かを感じ取る事ができる文明に取り残された野蛮人の男の台詞一つ一つが読者の胸に残る事になるでしょう、この作品の素晴らしい点はそういった相対的な価値が衝突葛藤する作品となっています。物語の終幕には様々な意見が登場するかもしれません、個が何から存在しえるのか人間存在を社会といった観点から描ききった傑作作品。それが「すばらしい新世界」社会が個人を管理する世界が描かれた作品は多い、「1984」「すばらしい新世界」はその手の作品の先駆けとして評価の高い作品だけども、現代でも似たテイストの作品は挙げればきりがないだろう・・・伊坂幸太郎「ゴールデン・スランバー」、東野圭吾「プラチナ・データ」も言ってみれば管理社会の悲劇を感じる作品である、この手の作品に共通していえる事は圧倒的な社会に個人がどう立ち向かうか?という点であろう。多くの作品の結末が社会を打破したり打開策を見出していない点にも注目したい、敗北や絶望のままに物語が終る事も多いし、良くあるケースでは社会そのものから逃亡や脱出する幕引きが多いのである。これは末期状態の国家から亡命者が出る事に似ているのではないか?空想の世界ではあるが我々の身近な社会がこうなった時に我々はどうするのだろうか?そんな思いを描きながら読んでも面白い一冊。
関連リンク ´д`)つ 1984年
