難問の多い料理店 結城真一郎 | なほの読書記録

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8月28日、29日のニュースで、注文していないのに集合住宅にウーバーイーツの大量の置き配が。

ノックしないでという指定で空き家に大量の商品が。
といった謎のデリバリーについて、報道されています。


第三者による一方的な大量注文の可能性に加え、盗難されたクレジットカードの動作確認との見方もあるようです。


本書の第5話がまさにそういった案件についての謎解きの話でした。

因みに本書ではその犯人は大家と同じ集合住宅の住民。
ネタバレしてしまうので、その理由は伏せておきます。



​【概要と感想】

6話の連作短編集。


六本木にある奇妙奇天烈な料理店(ゴーストレストラン兼探偵屋)の美男子なオーナーのもとに、隠しコマンドの「ッツ盛り合わせ、煮、ムヤンクン、な粉餅」(なぞとき)の注文が入ると、これは探偵業務の依頼。


オーナーは、ビーバーイーツの配達員を実働部隊として活用し、配達員に宿題(関係者への聞き込み)を出して調査を行わせる。


配達員はアルゴリズムに基づき選定されるため、依頼案件ごとにそれぞれ違う人物となる。


貧しい男子大学生、勤めていた会社が倒産し求職活動中の中年男、昼はスーパーでレジ打ちをしているシンママ、ライター業(ミステリー作家)の中年男、売れるお笑い芸人を夢見る男が各話で登場する配達員。


配達員から報告された内容を基に、オーナーが依頼者から注文を受けた摩訶不思議な謎について推理し、配達員に「試食会」という場で筋の通った真相(解答例)として解き明かす。


依頼者は、「汁物まこと」という店のラインナップに追加された『合言葉』を冠したメニューを注文すると解答を知ることができる。

つまり、真相を知る者

そのメニューの料金がそのまま本件の成功報酬となる。


オーナーは、真実は別のところにある可能性もあるが、依頼者が求めている真相と欲(依頼者自身の空きっ腹)が満たされる、整合性が取れている一つの解釈を眼前に差し出す。



テレビドラマになりそうな謎解きのストーリーで、理屈抜きに「知りたい」という欲(空きっ腹)が満たされ、楽しめました。


【印象に残ったフレーズ】


好奇心というのは、おそらく神が人間に授けた最も崇高にして危険な欲求に違いない。

悲しいかな、人間というのはとかく知りたがる生き物だ。
理屈抜きに「知りたい」と思ってしまうのだ。
わからないことを忌避し、納得のいく説明を求めてしまうんだ。



かの偉大なるピカソだって、初めからゲルニカみたいな絵を描いていたわけではない。揺るぎない基礎があるからこそ、初めてそれを崩すことができるのだ。


結婚とは、ある意味二つのが統合されたようなもの。風土も、慣習も、何もかもが違う両国は、それでも更なる繁栄と幸福を求め一つになる。その過程では当然摩擦も生じるし、だからこそ幾度となく交渉のテーブルにつき、互いに折り合える条件を探る必要があるのだ。



子供のいる家庭というのは、いわば常に窓が開いた家みたいなものだ。そこからひっきりなしに厄介ごとが舞い込んでくるため、夫婦がその対応でてんてこまいになる。雨や枯葉が吹き込んできたり、虫や小鳥が舞い込んできたり。ああでもない、こうでもないと対処しているうちに、ささいなすれ違いや喧嘩など二の次、三の次。とても息つく暇などないが、そのかわり空気が淀むこともない。



《「難問の多い料理店」結城真一郎 著 集英社 刊より一部抜粋》