【ざっくりとしたあらすじ】
主人公は前作の「クスノキの番人」で、クスノキの番人となった直井玲斗。
本作では眠ったら記憶が消えてしまう中学生の針生元哉 君が登場します。
彼は脳腫瘍の摘出手術後から記憶障害を発症し、まるで掟上今日子さん(西尾維新さんの小説の主人公)のように、朝を迎えるたびに記憶がリセットされるようになってしまいました。
玲斗と元哉は「スター・ウォーズのエピソード7以降が嫌い」という同じ感想を抱いており、スター・ウォーズの話題を通して意気投合し、親睦を深めていきます。
しかし、元哉の病は進行し......。
【感想】
目頭が熱くなる、とても心温まるストーリーでした。
27 (P244)と31(P283)の[明日の僕へ]以降ラストまでは、読んでいて思わずウルっときてしまいました。
そして、人生において大切にすべきことは何なのか、あらためて考えさせられました。
大切なのは今を生きてるってこと。
生きていれさえすれば、何でもできる。
今こうして生きているだけでとても幸せなこと。
自分が今を生きることができていることに感謝をして、今を大切に、周りの人たちを大切に生きていくこと。
記憶がなくなって自分のことを忘れたとしても、相手は自分のことを忘れずに覚えていてくれる。
そして、相手との思い出は消えずに残り続け、何度でもさらによい思い出を上書きしていくこともできる。
刑事課刑事一係長の中里警備補、詩集を作る早川佑紀奈もいい味を出していました。
続編が出れば、玲斗と中里、佑紀奈との絡みが再び楽しめるのではないかと思いました。
次回作が出ることを期待しています。
【心に残ったフレーズ】
27 [明日の僕へ]
「未来なんていらない。この先、何が起きるかなんてどうでもいい。知らなくていい。大事なのは今だ」(P245)
30 【女神の言葉】
「何年経とうが、どんなに未来へと進もうと、人はいつだって迷い続け、道を探し続けるのです。将来への不安が消える日など永遠に来ないのです。あなただけではない。誰もがそうなのです。でもそれでいいのです。人には、未来を知るよりも大事なことがあります」
「未来を知るよりも大事なこと、それは、今がどうかということです。あなたは今、生きています。豊かではないかもしれません。でも、生きています。病に苦しんでいるかもしれません。でも、生きています。食べ物があり、眠るところがあり、夢見ることができます。それは誰のおかげでしょうか。あなたひとりだけの力によるものでしょうか。そんなことはないはずです。何が今日のあなたの生を支えているのかを考えてみなさい。ご飯の元になる穀物を作る人、獲物を捕る人がいなければ、あなたの食卓に料理が並ぶことはありません。羊の毛を編んだり、布に綿を詰めて縫い合わせてくれる人がいなければ、あなたの寝床は冷たいままです。生きている限り、あなたはそれらのすべてに感謝すべきなのです。昨日までのことなど振り返らなくていいのです。あの時に、ああしていればとか、あんな風にしなければよかったと悔いることに意味はありません。それらはすべて済んでしまったことだからです。同じように、明日からのことを案じる必要もありません。これからどうなるかとか、どうすべきかなど、考えることに意味などないのです。それらはまだ起きていないからです。大切なのは今です。今、健全な心を持っていられるのなら、それで幸せなのです。今のあなたが存在することをありがたいと思い、感謝しなさい。そうすれば昨日までのことなど気にならず、明日からのことも不安ではなくなります」(P280〜282)
31 [明日の僕へ]
未来についてあれこれ考えるなんて馬鹿げたことだ、と。
そんなものはどうだっていいんだ。大事なことは、今、好きな人たちと一緒にいて、自分が生きていると実感できるなら、それで十分に幸せなんだと思えることなんだ、と。(P284)
【玲斗の言葉】
「人生で最も楽しかった思い出を、また作ってあげたらいいじゃないですか。どうして今夜が元哉君の人生最高の日だと決めつけるんですか。それは明日かもしれない。明後日かもしれない。そんなこと、誰にもわからない」(P306)
《「クスノキの女神」東野圭吾 著 実業之日本社 刊より一部引用》