うたう 小野寺史宜 | なほの読書記録

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I'm really glad to have met you.



「ひと」「まち」「いえ」に続く青春譚の「うたう」。

大学時代、アマチュアバンドを組んでいたメンバーの4人が各話で主人公となる連作短編集。

これまでの作品の舞台は23区の東側でしたが、今作では杉並区や中野区など西側が舞台で、私自身が子供の頃住んでいた家の最寄駅は荻窪駅だったので、とても親近感がわきました。

学生時代にプロバンドを夢見たメンバーが、バンド解散後もプロを目指したが芽が出ず、人生の岐路に立ち、それぞれが悩みながらも折り合いをつけたり最適解を見出そうとしたりしながら次の一歩を踏み出そうと前進していく姿は、青春そのものだと感じました。

ストーリー全般で、ドラマティックな展開は特になく、やや平板に感じられましたが、誰もが身近に感じやすく、親近感をもって共感しやすいストーリー展開だと思いました。


ロックバンド名が「カニザノビー」ということで、15年ほど前に読んだ、蟹座のB型の男女3人(小学校3年生の時の同級生で、シナリオライターを目指す帆村直丈、プロ野球選手の最上頼也、二人が好意を抱いていたヘルス嬢の棚田阿里)が登場する「カニザノビー」と同名でしたので、何かつながりがあるのかと思って読み進めました。

ヴォーカル古井絹枝が、好きな小説のタイトルをそのままバンド名にしようと提案したところ、バンドのメンバーの伊勢航治郎と永田正道がまさに蟹座のB型だったので、採用されたということでした。

「カニザノビー」は、一度聞いたら忘れない というタイトル名で、その響きがとても懐かしく感じました。


印象に残ったフレーズ


【古井絹枝が子供の頃住んでいた井荻の都営住宅の同じ棟に住む土橋米子さんの言葉】

「絹枝ちゃんは、もうちょっと上の幸せをつかみな。なんでも一番安いものを買うんじゃなくて、せめて一つ上のものを買えるくらいの幸せは、つかみな」