なほの読書記録

なほの読書記録

I'm really glad to have met you.



作詞家としてデビューしてから55年を迎えた松本隆さんの2,000を超える作品群の中から、齋藤孝さんが好きな楽曲をテーマごとに読み込み、そのおもしろさ、すごさを紹介された書籍。


【目次】

はじめに 松本隆の世界を知る=日本語の可能性が広がる

序 章 松本隆の原風景

第一章 松本隆的「色」の技法

第二章 松本隆的「絵」の技法

第三章 松本隆的「雨」の技法

第四章 松本隆的「ガラス」の技法

第五章 松本隆的「昭和アイテム」の技法

第六章 松本隆的「大和言葉」の技法

第七章 松本隆的「糸へん」の技法

第八章 松本隆的「テンポ」の技法

第九章 松本隆的「夜」の技法

第十章 松本隆的「ことば遊び」の技法

第十一章 アルバムで味わうべき松本隆の世界 私的Best5

終 章 松本隆が描く世界~あとがきに代えて~


【感想】

松本隆さんが作詞された歌詞の一部を取り出し、空欄を埋めるクイズ形式になっており、よく聴いて知っているはずの歌詞なのに、なかなか埋められませんでした。


松本隆さんが作詞された数え切れないほど多くの曲の歌詞を、斎藤孝さんが「色」「絵」「雨」「ガラス」「夜」「糸へん」などの視点で分類し、考察された齋藤孝さんの分析力がすごいと思いました。


太田裕美さんのアルバム『手作りの画集』(1976年)を取り上げ、太田さんの声のための詞であり、太田裕美さんの歌には「松本隆の世界」の体現性があると評されていたことに、共感できました。

あらためて、松本隆さんの歌詞のことば(フレーズ)一つひとつが心地よく、メロディーと共に響きながら心に刺さってきました。


【印象に残ったフレーズ】


女性の心に届く女性像

私が教えている大学生たちを見ていても、学生時代に付き合っていたけれど、卒業を機に別れたという例が少なからずあります。そういう場合、男は女の人をずっと思っているのに、女の人は案外早く新しい人と付き合い始めることが多い。よく言われるのは、女の人のほうが切り替えが早く、「上書き」。男の人はいつまでも引きずって未練を取っておく、「別に保存」なのだそうです。

それなのに、これまで歌に描かれがちだったのは、男性が期待する「いつまでも待つ」女性像。「男が望む女」だったわけです。

多くはこうした「男が望む女」が、とくに演歌の世界で描かれ続けてきました。男の人にとっては、こういう世界を歌うと気持ちいいのでしょう。

松本さんの歌詞は違います。そこには、男にも女にも魅力的に映る女性像があります。しかもその女性像は実に多様、タイプがさまざま。それは、松本さんが、歌い手の人物や性格、声を見ながら詞を書いているからなのです。(P171)


声と人物像

声には、その人の精神、身体性が表れるといいます。声を聴いただけで、その人がどんな人かなんとなくわかりますよね。少なくとも、その人のイメージはできる。

松本さんはよく、仰います。「声がすべて」と。

松本さんにとって作詞とは、声が導く世界なのです。

依頼を受けて曲に詩をつけるだけではなく、その歌い手をプロデュースしていく感覚ですね。その歌手の運命を考えていく、と言ってもいいでしょう。

その声を、歌手本人は運命として持っています。それをどう育てたらいいのかと考える、そんな感覚です。(P172〜173)

川端文学に通じる品のよさ

太田裕美さんの『九月の雨』『木綿のハンカチーフ』『都忘れ』などでも、男性がふらふらしていて、それに対して女性は理解しているというズレを描いています。

いろいろなタイプはあるのですが、「松本ワールド」の女性に共通しているのは、二つの特徴で、その一つ目は「理解力のあるタイプ」という気がします。「理解力のある」というのは、男性に対して甘いという意味の「理解がある」のではなく、その状況を理解している、把握できているという意味です。理解したうえで、女性は彼に手紙を出すのか、出さないのかを決める。男の人を理解して、包み込むような部分もあります。(P174)

もう一点は、「品のよさ」です。松本さんは、数えきれない女の人たちを描いてきましたが、「品のよさ」はその根底で通じています。どんなタイプの女性を描いても、ある程度品がよくなってしまうのですね。それは、語尾がやさしく、言葉遣いがよいからだと思います。聴いている方がやさしい気持ちになれる。

川端康成が描く、山手の女性の言葉に近いと思います。現代は、女性でも「なの」「だわ」といった語尾を使わない人が増えていると思います。いわゆる「女言葉」をあまり使わなくなって、語尾だけで「女性だ」とわからなくなっています。ユニセックス化といえるでしょう。けれど、松本さんは、歌詞の世界にそれを残しています。

この丁寧な女言葉が、タイプは違っても、品のよさという統一感を生み出しているように思います。松本さんご自身もとても品のある方なのですね。堅苦しくはないのですが、にじみ出る品のよさと知性がある。逆に言えば、品のよさと知性を愛する人が、松本ファンなのではないかと思います。(P175)

《『松本隆に学ぶ日本語の技術』齋藤孝 著 白秋社 刊より一部抜粋》