『タクジョ! 』シリーズ第三弾。
【目次】
①七月七日の新宿苑前 高間夏子(東央タクシー)
②八月八日の新小岩 三国清香
③九月九日の新馬場 安岡千冬(東央タクシー)
④十月十日の新代田 刀根和正(東央タクシー)
⑤十一月十一日の新板橋 木口真那斗
⑥十二月の新富町と新桜台 高間夏子(東央タクシー)
【あらすじ】
高間夏子さんを含め3人のタクシードライバーと2人のお客さんが主人公となる6つの短編集。
タクシードライバーの高間夏子と東央タクシーの同僚たちが、お客さんの人生にそっと寄り添いながら働く様子が描かれたお仕事小説。
大学新卒でタクシードライバーになった高間夏子は、入社7年目、29歳になり、日々前向きに仕事に取り組んでいる。女性が働きづらいと思われがちなタクシー業界で、「女性がドライバーになれば女性はタクシーに乗りやすい」という崇高な理想を胸に、時には怖い目に遭いながらも辞めずに仕事を続けている。
本作では、目次順に次のようなお客さんと出会い、会話を通してドライバーとお客さんのそれぞれの人生の過去に向き合い、あしたへの一歩を踏み出すための心の変容が巧みに描かれていました。
①雑貨店に勤め、お客さんから怒鳴られた浅田春香(23歳)
②不倫相手と別れ、終電を逃した三国清香(37歳)
③取引先へ謝罪に向かう今田克樹課長(44歳)
④転職サイトなどを運営するITサービス会社に勤める篠田萌衣(27歳)
⑤危篤の母親(59歳)の病院へ急ぐ息子の木口真那斗(35歳)
⑥戦力外通告を受けたプロ野球選手の稲田秋久(29歳)、調味料を作る会社の社員で、新しい靴が合わずに足が痛くて歩きづらい堀田慎之介(29歳)
【感想】
タクシードライバーとして、夏子や同僚たちの成長の様子とともに、人と関わる仕事への誇りや誠実な仕事ぶりが伝わってきました。
一期一会を通して、ドライバーとお客さんが共に一歩を踏み出せる光を感じることができました。
何かドラマチックな出来事が起こるという展開ではなく、等身大の日常の風景が淡々と描かれており、親近感を覚えました。
でも、ちょっとだけ意外な展開やもっと感動する部分もあったらいいなと思いました。『タクジョ!』シリーズの最新刊を読むのを楽しみに、期待していたので。
小野寺さんの作品のお約束となっている他作の登場人物・鷲見翔平さんや水村波衣さん(東京モノレールに入った夏子と同じ大学で卓球の同好会にいた2歳下の後輩)も名前だけ登場していました。
「ニュー ジーランド 」「プエルト リコ」のトリビアは、これまで意識してこなかったことなので、「へー、そうだったのか」と、意外に思い、豆知識になりました。
今回、主人公とならなかった東雲営業所の人たちも、次回作では主人公となって登場される『タクジョ!』が出されることを期待し、楽しみに待ち望んでいます。
【同期】ドライバーの神林朱穂、霜島菜由、中崎十一、採用課職員の永江哲巳、整備職員の食完輔
【先輩】ドライバーの鷲見翔平に似ている姫野民哉、道上剛造、飯尾頼昌とその奥さんのつぐ美、哲巳と結婚して今は本社の広報担当職員になった旧姓鬼塚の永江珠恵、運行管理課の貝沼岳子
【上司】元運行管理課長で現採用課長の香西宏彦、細井滋男現所長、実松御世児社長
【印象に残ったフレーズ】
高間夏子の心の中の声
お客さんが笑ってくれたので、ちょっと安心する。お客さんが笑ってくれてると、ドライバーとしても気分がいいのだ。別に、わたしと話したから笑う、でなくてもいい。ただ笑うだけでいい。思いだし笑いでも充分。笑顔を見せてくれるだけで、ドライバーはほっとする。この感じでトラブルはないだろうと、そうも思えるから。(P23)
タクシードライバーという仕事への本人の興味。周囲の理解。そして実際にその仕事に就ける環境。そうしたものが奇跡的にそろって初めて、女性ドライバーが誕生がする。ハードルはまだまだ高い。(P49)
刀根和正の心の中の声
そして小五のとき、涼星が学校で作文を書いた。課題を出されてたわけではない。何を書いてもよかったらしいが、涼星はそこで、将来なりたいもの、について書いた。涼星が持ち帰ってきたその作文を読んで、おれはひどくあせった。
タクシードライバーになりたい。
涼星はそう書いてたのだ。うれしくないことはなかったが、あせりのほうが強かった。これはダメだ、と思ってしまった。
おれは涼星に怒り、こう言った。タクシードライバーになんか絶対なるな。それは人が夢を持ってなるようなもんじゃないから。
喜ばれると思ってたわけでもないだろうが、涼星は驚いた。さらなる説明を求めてくるようなことはなかった。おれが言ったことを、理解はしたようだった。(P150)
道上剛造が刀根に言った言葉
そこまでいやいや仕事ができるのはすごいよ。
もちろん、ほめられたわけではない。今もはっきり覚えてる。そのあとはこう続いた。
お前がどんな気持ちで仕事をしようとそれはいい。いやいやドライバーをやってるんだとしても、それはそれでいい。ただな。この仕事と真剣に向き合ってる子を、いやな気持ちにさせるな。
この仕事と真剣に向き合ってる子。高間夏子さんのことだった。大学新卒で東央タクシーに入った子だ。当時は二十代前半だった。今はもう二十代後半。それでも若いが。
あの姉ちゃんはな、女神だぞ。女性客にとってもタクシー業界にとっても女神だ。そんな子を、おっさんのつまらないグチでいやな気持ちにさせるな。内側から足を引っぱるな。(P152)
刀根の心の中の声
これはあとになって聞いた話だが。
涼星を乗せたとき、高間さんは、タクシードライバーになりたいの?と尋ねたという。
うん、と涼星は答えた。
すると、高間さんは言ったそうだ。
それはすごくうれしい。でも涼星くんはまだ小学生なんだし、今から決めちゃう必要はないよ。
今は、絶対なる、じゃなくて、第一候補、ぐらいにしておいて。決めちゃったら、ほかのものが目に入らなくなるから。
それを聞いて、ほんとに女神なのかもな、とおれは思った。(P157)
堀田慎之介の言葉
夏子:「ソースって、今でも新しいのが出るんですか」
慎之介:「出る出る。ソースという枠のなかでいろいろやっていかないとね。動かなくなったら、その会社はもう終わりだから。社員だってそうだよね。たぶん」(P278)
夏子の心の中の声
すべての道がローマに通じてるのかは知らない。が、すべての道は、昨日からつながって、明日へとつながる。二十九歳にもなれば、そのくらいのことは知ってる。明日の道を思い描きながら、わたしは今日の道を行く。
ドライバーは常に前を見る。でも後ろにも気をつける。前を向いたまま、バックミラーで後ろも見る。死角は直接目視もする。そんなふうに運転する。やっていく。堀田慎之介さんのソースではないが、タクシーという枠のなかでやれることはいろいろあるはず。ならばやっていく。動いていく。(P282)
わたしはこれからもタクジョ。たとえ全力で走りまわれないような歳になっても、走れないなりの全力で東京の街を走りまわりたい。(P283)
《『タクジョ!あしたへの道』小野寺史宜 著 実業之日本社 刊より一部抜粋》
