なほの読書記録

なほの読書記録

I'm really glad to have met you.


結婚詐欺師に翻弄された50代の熟年女性たちの悲惨な末路が描かれた、7つのエピソードから成るイヤミス小説。


contents


Episode 1 パワーカップルの末路

Episode 2 ニュータウンの末路

Episode 3 おひとり様の末路

Episode 4 女子高生(JK)の末路

Episode 5 嫌な女の末路

Episode 6 復讐の末路

Episode 7 初恋の末路


【主な登場人物】

作家の近田朝美(結婚後 石塚朝美、50歳)、フリーライターの東三条景子(旧制 秋沢)、雇われ編集長の田端睦代(還暦間近)の50代熟年女性3人と女子高生・さくら(17歳)の合わせて4人。


【あらすじ】


婚活サイトで出会った外資系の企業で働いている男性・石塚孝道と結婚し、憧れのタワーマンションに引っ越して1年がたった朝美は、いきなり孝道がY県にある高級住宅地「ハワースの丘」にある家を購入すると言い出したことに驚く。

朝美は結局、孝道に2000万円を騙し取られたが孝道とは別れ、「ハワースの丘」に転居しないですんだ。


ほどなくして、睦代と「おひとり様同盟」を結んでいたフリーライターの秋沢景子が玉の輿婚で結婚し、白金の高台のマンションで暮らすようになった。しかし、景子は夫・東三条 護の健康上の理由から、Y県にある高級住宅地「ハワースの丘」にある中古物件の家を購入(1300万円)して移住することになる。


ハワースの丘は平家の落人の伝説があった場所で、ハワースの丘そのものが呪われているとも言われていた。


また、29年前の平成8年に、八王子市で家族5人が惨殺された「バレンタインデー一家5人殺害事件」の犯人は未だに捕まっておらず、迷宮入りしたこの事件の容疑者が「ハワースの丘」に住んでいるといった噂もあった。


当時、容疑者として疑われたのは、ある3人家族(両親と高校生の息子)の中の高校生の息子で、その子はすでにハワースの丘のほぼ中央ある公園「プチパーク」で首吊り自殺をしていた。


そんな中、ハワースの丘で殺人事件が起こる。ハワースの丘3-21の増井智也(49歳)、美知子(48歳)夫婦が刃物で切り付けられ殺害された。


さらに、破輪洲駅前のビジネスホテル「ハワース・イン」で遺体が見つかるなど、第二、第三の事件が「ハワースの丘」で発生する。


一連の事件の裏に潜んでいる真相とは......。


【感想】


読みはじめると、今回もいつの間にか真梨幸子ワールドに引き込まれていて、ページを捲る手が止まらない、ぶっ飛んでいる展開でした。


過去と現在の殺人事件が巧みに絡み合い、伏線が巧妙に張り巡らされ、そして終盤のどんでん返し。


主な登場人物の、50代の熟年女性たち3人は結婚詐欺師に翻弄されますが、私自身は真梨幸子さんの巧みな文章構成に翻弄されてしまいました。


イヤミスはあまり好きではないのですが、ついつい新刊が出ると思わず手に取ってしまう一冊でした。


余話・ニュータウン「ハワースの丘」について】


P28にある近田朝美夫婦の転居先に関して「八王子の先のY県破輪洲市(はわすし)にある「天界のニュータウン」と呼ばれる高級住宅地「ハワースの丘」は、バブル景気に沸く1986年にG不動産が企画し、破輪洲山を造成して開発して1995年に街開きとなった。100万平方メートルの敷地内には住宅の他に公園、小学校、商業施設、病院などがある」と記述されています。この「ハワースの丘」は、
山梨県上野原市にあるJR中央本線の四方津(しおつ)駅から斜行エレベーター又はエスカレーター4基に乗って100m上った山の上の住宅地「コモアしおつ」をモデルにしたように思いました。


「コモアしおつ」は、青木建設と積水ハウスが中心となって1987年に山を造成して開発し、1991年に販売が始まり街開きとなった広さ80万平方メートル、標高340mにある住宅地で、「天空のニュータウン」「山梨のマチュチピチュ」「トカイナカ(都会・田舎の造語)」と呼ばれています。


ちなみに「コモアしおつ」は、宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」の冒頭部分で主人公の少女一家が丘の上の住宅地に引っ越してくる場面のイメージ画像となっています。また、バラエティーなどのテレビ番組や、鉄道漫画「鉄娘な3姉妹」「小さな鉄のメロディ」「ギャル鉄」などでも紹介されています。


P29に記述されている「最初の計画では、最寄り駅である破輪洲駅とニュータウンをモノレールで結ぶ計画であったが、バブル崩壊で頓挫。その代わりに駅と直結した斜行エレベーターが設置されている」といった件りの部分は、相次ぐトラブルでモノレールは廃止となり、現在はJR中央本線の猿橋駅から垂直エレベーターで110m上がった丘陵上にある住宅地「パストラルびゅう桂台」の要素を合わせ入れたように思いました。


「パストラルびゅう桂台」も「天空のニュータウン」と呼ばれ、山を造成して開発した広さ73万平方メートル、標高440mにある住宅地で、「コモアしおつ」のある上野原市の少し先の大月市にあり、清水建設とJR東日本が中心となって開発し、1997年に分譲が始まりました。


「コモアしおつ」は北側の「彩萌ファーム」付近から北方向の、「パストラルびゅう桂台」はエレベーターホール付近から北西方向の眺望と街の景観が素晴らしいです。


「コモアしおつ」にある料理店「桜扇」は、どの料理もとても美味しいので、おすすめします!


「パストラルびゅう桂台」の最寄り駅近くにある「猿橋」は、桂川の深く美しい渓谷に架かる橋で、その珍しい構造から「岩国の錦帯橋」、「木曽の桟」とともに日本三奇橋と呼ばれています。「猿橋」の景観は、甲州街道きっての名勝とうたわれ、多くの文人・墨客が訪れ、なかでも歌川(安藤)広重は猿橋の美しさに非常に感動し、『甲陽猿橋之図』を世に残しました。


どちらのニュータウンも最寄り駅から無料のエレベーターを利用して行くことができますので、中央本線に乗ってハイキングがてら、ぜひ訪れてみてください。 


【印象に残ったフレーズ】


朝美が母方の祖母から聞いた言葉

「なにごともね、山が高ければ谷も深いものなの。あなたの両親も恋愛という登山はしてみたけれど、うまく下山することができなかった。まあ、だからこそ、恋愛なんだけどね」

つまり、恋愛には遭難がつきものだと祖母は言いたかったようだ。この祖母の言葉が、なにかの戒めのように朝美の頭の中にずっとある。

結婚と恋愛は違う。

これも、祖母の言葉だ。その意味がわからずにいたけれど、今ならよくわかる。夫は恋愛対象にはならないけれど、家族として暮らすにはこれ以上の人はいない。(P15)


景子の言葉

いい歳になるまで独身貴族を貫いてきた二人が、いきなり結婚。こうなると、動機は明確だ。健康面の不調だ。あるいは、金銭的な不安。このどちらかにぶつかったとき、結婚を考える。若い頃は、惚れた腫れたで目先のことも考えずに結婚に踏み切るものだが、酸いも甘いも噛み分ける歳になってからの結婚は、目先のことを考えすぎた結果だ。つまり、その動機は打算だ。(P33)


朝美の心の声

「他人の不幸は鑑の味」。特に、成功者や富裕層と言われている者の不幸はみんなの大好物。いわば公開処刑のようなものだ。処刑される者の社会的地位が高いほど、見物人は多く集まる。(P48)


さくらと朝美と管理人の老婆の会話

さくら:「あーあ。もう、なんかどうでもよくなっちゃった。明日目が覚めたら、人類なんて滅んでいればいいのに。・・・・・・なんてね」

朝美:「私も、テスト前とかになると、よく思っていたもんよ。明日、地球がなくなっていますようにって。なんなら、宇宙ごとなくなれって。今も昔も、考えることは一緒ね」

管理人:「地球も宇宙も、なくすのは簡単ですよ。自分が死ねばいいんです。そしたら、その人にとっての地球も宇宙もなくなったも同然ですから」(P115〜116)


さくらの言葉

「もう、どうにでもなれって思った。地球なんか滅んじゃえって。そしたら、多目的ホールの管理人さんの言葉がフィードバックして。『死んだら、世界は消える』って言ってたじゃん?確かに、そうだよね。どうせこの世の中なんか、仮想にすぎない。スイッチを切れば、終わる」

この世は仮想。最新の物理学でいうところの、シミュレーション仮説だ。(P164)


睦代の心の声

男性は上下関係を好むけれど、女性は、横並びな関係を好む。だから女性は、誰か一人でも上昇しようとすると、みんなでその足を引っ張り合い、元の場所に戻そうとする。だからといって下にいる者を引き上げようとはせず、ただ「おかわいそうね」と見守るだけだ。

自分より上にいる人に対しては”嫉妬”となり、下にいる人に対しては“憐れみ”となる。(P211)


被害者の会の弁護士の言葉

「麻薬と同じぐらい、いいえそれ以上の快楽物質、それがなにかわかりますか?それは、オキシトシンです。幸福ホルモンとも愛情ホルモンとも呼ばれているものです。詐欺師やカルト教団は、このオキシトシンを巧妙に操るのです。言葉だけで。魔法の言葉があるのです。それは“愛”。どの宗教も“愛”を謳っていますよね?それが、答えです。人は、愛の前では理性を失い、暴走してしまうのです。なぜなら、“愛”はとてつもない快楽を伴うからです。愛欲も慈愛も無償の愛も、その正体は、快楽です。麻薬以上の快楽なのです」(P289〜290)

タクシーの運転手が言った近田朝美が書いた小説の中の言葉

「人生は、所詮、登山だよ。山あり谷あり。起伏が激しい山ほど、頂上に到達したときにとてつもない快感を味わうんだ。だから、今は辛抱」(P295〜296)


《『あいつらの末路』真梨幸子 著 角川書店 刊より一部抜粋》