>オリジナルフルアルバム

>タイトル:6×9=53

>アーティスト:KAN

>リリース日:2016年 2月 3日

>記事作成日:2023年 11月 23日






久しぶりに聴きました。


KANさんが、お亡くなりになったそうで。

がんを公表以降も、割といつものノリでツイートしたりなさっていたので、まさかこんなに早くこんな事になるとは…。


存在自体が洒落みたいだった、面白おじさん(笑)。湿っぽい文章は、似合わないよな。




『Listen To The Music(Deco☆version)』

“まさにKANさん”な、穏やかで軽やかなポップチューンからスタート。“KANさんと言えば『愛は勝つ』”的なところは正直あるけど、『愛は勝つ』みたいな前のめりなメッセージソングよりも、ぼくはこの曲みたいな柔らかで気さくで自然体な曲のほうがKANさんの軸足な気がしています。


『胸の谷間』

このタイトルで、こんなにかっこいいイントロが流れ始める意味が分からない(笑)。いや、こんなにカッコいい曲にこんなタイトルと歌詞を乗せるほうの意味分かんないのか。「胸のたっにっまぁ〜♪」のとこのメロディやアレンジとか、めっちゃかっこいいじゃないですか。何でわざわざこの言葉を充てるの⁉︎(笑)。しかも、すげぇカッコいいから口に出して歌いたくなっちゃうしさぁ。


『ポカポカ陽気の日曜日がいちばん寂しい』

佐藤竹善さんとのコラボ曲。

フォークソングっぽさと、でもぼくはどちらかというとフォルクローレのテイストを強めに感じたかも。歌詞にも出てくる、サイモン&ガーファンクル的というか。どちらにしても、ある種鬱屈した“負のエネルギー”を感じる曲。

歌詞が、結構重たい。曲タイトルが、歌詞の主訴を端的に表しています。でも一方で、貝類のくだりには“らしい”ユーモアもあって。


『安息』

あったかさと切なさが50/50の、ピアノバラード。

作詞は、盟友・桜井和寿。このアルバムを購入したきっかけはこの曲だったんだけど、初めて聴いた時、クレジットを見ないで聴いてもこの曲がソレだと分かった。水が合うというか、すっと馴染む感覚があったんですよね。桜井さん、ミスチル以外の“課外活動”の時にはミスチルテイストを外してくる事が多い気がするんだけど、この曲は、ミスチルの曲でもおかしくない歌詞だと思う。桜井さんがミスチルオーラを解き放って作詞しても押し負けない強さが、KANさんのメロディにはあったんでしょうね。


『どんくさいほどコンサバ』

“どんくさい”と“コンサバティブ”は両立し得ない気がしたけど、歌詞を読んだら何となく分かっちゃう不思議(笑)。トリッキーな表現を使いがちなKANさんですが、でもどの曲も歌詞カードを読めば「なるほどね」って腑に落ちるんですよねぇ。コンポーザーとしての魅力は言うまでもないけど、リリシストとしての才能も凄いですよね。常にユーモアがまぶしてあるし。


『scene』

爽やかで軽快なポップロックチューン。

仮タイトルは『全力箒星』なんだそうです…00年代のミスチル楽曲の構造と、スキマスイッチの歌詞のテイストを組み合わせて作ったそうな(笑)。なんて高尚な遊びなんだろう。スキルとセンスに乏しい人がやったら、ただのパクリやトレースになってしまう方法。それが一切そうなっていなくて、ちゃんとオリジナルなのが、KANさんの実力の証左。

ミスチルもスキマも好きな身からすると、分かりみしかない。確かに00年代のミスチルは、硬派なロックスタイルやちょっと趣味が強く出てニッチな雰囲気が強まった時期を経て再びど真ん中のポップス回帰してきた時期だったから、『箒星』をはじめとしてこの曲のような瑞々しさ溢れるキャッチーな作風のものが多かったですよね。歌詞は、アツい想いを独特な例示も織り交ぜながらロジカルに説明するスキマ感が的確に盛り込まれていたと思うし、綺麗な日本語の中に上手いバランスで喋り言葉や崩した言い回しをを混ぜて親しみやすさを出すという表現的な巧さもちゃんとあったと思う。

先輩後輩とか、そういうのを関係なく他者の音楽を研究して分解・再構築しようとする辺り、ミスチル桜井さんと似すぎ(笑)。


『ブログ!ブログ!ブログ!』

急に、テクノポップ(笑)。テクノポップの雄、Perfume(というか中田ヤスタカプロデュースアーティスト)から爆発的に広がった、オートチューンをゴリゴリにかけた歌声…それを多分、地声で再現してる(笑)。オートチューン的なぶつ切りの歌声を、これ“歌い方”によって再現してますよね…⁉︎(多少のオートチューンはかけてるのかもしれないけども)。   なんて男だ。サビのキメのところに、ボーカルとユニゾンでシンセが重なる辺りにも、非常に中田ヤスタカみを感じるし。

本当にユーモアのある人って、常識を兼ね備えてるものですよね。何が常識かを分かっているからこそ、そこからの比較としてのユーモアが冴える。KANさんという方がそういう方だというのがよく分かる歌詞。「タイトルは『ご報告』」のブログに、ファンが何を思うのか。「3年間」という期間に、ファンが何を思うのか。ちゃんと分かった上で、その悲哀の奥にある可笑し味をいい感じにフィーチャーしている。


『桜ナイトフィーバー〜Album version〜』

前曲からブランクレスでこちらの曲へなだれ込む。

この曲も、打ち込みのシャープな音が印象的なデジタルチューン…なのに、急に派手でゴツいギターリフが入ってきたりして。ちなみにギターはTRICERATOPSの和田唱さんなんだそうな。

桜ソングは世の中に数多あれど、桜の気持ちを歌った歌はそうないと思う…しかも、桜ソングという存在に一石を投じている(笑)。着眼点が違い過ぎる。


『寝てる間のLove Song』

落差が凄い(苦笑)…こちらは、優しいバラード。ピアノ一本で展開する、とても“身近”な曲。隣ですやすや眠る君への、愛の歌。これはもちろん、恋人や奥さんを想いながら聴いても良いんだけど、ぼくはどちらかと言うと子どもを想いながら聴いています。そして、そうやって聴くと、ほぼ泣きます。


『ロックンロールに絆されて』

馬場俊英さんとのツインボーカル曲で、〆。力強いバンドサウンドは、だけどコッテリではなくさらりと聴ける軽やかさで溢れている。音的には、馬場さんの作風に近いかもしれないですね。

もちろん、ギター少年だったすべての人に共感をもたらす曲だとは思うけど…でも同時に、KANさんと馬場さんの私小説的な側面も強いのだろうなという歌詞。




そんな、計11曲。


一言で“遊び心”と言い切ってしまうには、あまりにも切り口が多角的でバリエーションが豊か。ともすると、とっ散らかり過ぎてどういうアーティストなのか掴めなくなってしまいかねない程のレンジの広さなんだけど、でもそうはならずにちゃんと“KANらしさ”みたいなものが感じられるから驚きです。毎作品そうでしたが。


KANさんを思い出そうとすると、夏目漱石だったり、武将だったり、サンバダンサーだったりして、悲しくならないんですよね(笑)。多分、KANさんの思うツボ。

ご冥福をお祈り…なんかしなくても、きっと既に空の上で陽気にやっている事でしょう。楽しんで!


KANさんに、♾️ Mental Point!






お気に入りは、

#03 『ポカポカ陽気の日曜日がいちばん寂しい』

#04 『安息』

#06 『scene』

#09 『寝てる間のLove Song』






この作品が好きなら、

・『COSMOS』/寺岡呼人&Golden Circle of Friends

・『Heart to Heart』/槇原敬之

・『re:Action』/スキマスイッチ

などもいかがでしょうか。