仏語学習の記録として「読む習慣を①」の続きを書くつもりだったのが、今週の日本語レッスンで学習者の指摘にハッとし、寄り道することにした。

 

この機会に自分と各言語との関係を考えてみよう。私は複数の言語と付き合っている。浮気ではなく、それぞれに対して本気。ただ英語との関係や距離だけは未だに掴めずにいる。

 

英語:人気者だけに敬遠してしまう相手。

社会人になってから英会話スクールに通ったり、TOEICを受け続けた20年。45歳で英検を初受験し、準1級だけは取得したものの、その後が続かない。

 

中国語:一歩踏み出せずにいる片思いの相手。

去年、HSK(中国語検定)の一番下のレベルを取ったきり。明後日、初オンラインレッスンを控えている。遂に一歩踏み出す!

 

仏語:良くも悪くも人間くさい長年の相棒。

30年近くの付き合いだからそれなりに知っている。40代に入り、ようやく仏検1級とDALF C1に挑戦し、ともに一発合格。

 

日本語:常にそばにいる空気のような存在。

今後も外国人と関わっていくために仕事の道具にすることにした。通信講座で日本語教育をかじり、試験に合格。以来、興味が尽きることはない。きっと一生。

 

今回は日本語について…と書いた時点で読まれなくなる。私も外国かぶれだったから人のことをとやかく言えない。外国人の視点で母語を見る楽しさを知ったのはほんの6年前のことだし。

 

空気のような存在だった母語の特徴が外国人の指摘によってあぶり出される。これほど面白いことはない。今週も「なんで?」「でも…」をぶつけられ、困惑と快感を味わった。

 

 

日本語レッスンではテキストを複数使うこともある。切り替えるほうが緊張感を持って取り組んでくれるし、四技能のうち苦手なものを集中的に対策することもできる。

 

相手の希望があれば、それを使い、特になければこちらが選ぶ。で、時々、途中で間違えたことに気付く。左のテキストを選んだのは相手がJLPTを受験することに同意したから。

 

ところが、半分ほど進んだところで受験する気がないことを知った。試験対策なので普段読まないような内容や文体も含まれる。何とか最後まで読み終えたのが先月だった。

 

読解は語彙や漢字の勉強にもなるし、情報や意見交換を通して話す力をつけることもできる。だから日本語を「読む」という習慣は継続させたい。相手の関心を考えてみた。

 

夜更かしするほどの読書好き。普段は母語である英語で小説を読んでいる。一度、友人(同じく英語が母語)と日本語の小説を読み合ったけれど、途中で挫折したそうだ。

 

そこで日本語レッスンで小説を読むことを提案し、読みたいものを選んでもらうことにした。利用したのは他の学習者に教えてもらったサイト。JLPTのレベルで検索できる。

 

 

私にとってレッスンで小説を読むのは初めての試み。今回に限らず、提案した後、どうしようかと考えることはある。20代の頃、仕事帰りに受けていた英語のレッスンを参考にした。

 

 

同僚3人と先生でカフェのテーブルを囲み、小説を順番に音読していく。その後、先生が語彙や表現を説明してくれるというもの。身についたかはどうかはともかく、ただ楽しかった。

 

2024年に戻り、相手が選んだのはこの小説だった。

 

以下、裏表紙のあらすじより

 

あたしは中1の黒沢花美。新しい自分に生まれ変わろうと中学受験したのに、すべて不合格…。小学校と変わらない人間関係。部活には入りそびれ、家ではパパとママがケンカばかり。もう、こんな毎日いやっ!あたしは家を飛び出し、カフェを営む叔母さんの家へ。そこには、見ず知らずの男子が暮らしていて…。居場所をさがしてもがく花美の恋と友情の物語、スタート!

 

 

外国人による口コミにも読みやすいと書かれていた。でも、外国人にとって日本語は外国語。語彙や表現の質問に答えられるように事前準備が欠かせない。

 

それが、実際のレッスンで相手に質問されたのは全く想定していないことだった。例えば、主人公が中学受験の不合格を知った場面にこうある。

 

「えっ!」

小さく声をあげる。思わず、体が固まった。

 

質問①:なぜ「あげる(現在)」と「固まった(過去)」が混じっているのか。

 

続いて、ネットでこっそり合否を確認した後、主人公の心情が次のように描かれている。

 

よかった。きょうはパパもママも、うちにいなくて。そばでなぐさめられたら、かえってつらくなるから。

 

質問②:漢字があるのに、なぜほぼ平仮名で書くのか。

 

①に関しては、臨場感や躍動感を出すため。「~た」が続くと、単調で、まるで小学1年生の作文のようになるから。

 

②に関しては、作者の好みの問題。そのページ全体の漢字、平仮名、片仮名のバランスを考えているのだと思う。

 

と答えた。①②の両方に言えるのは、文法や文字の決まり事を敢えて崩すにはセンスが必要であり、そのセンス(感覚)は同じ母語話者でも好き嫌いが分かれるということ。

 

しばらくは「なんで?」「でも…」攻撃が続きそうだ。このやり取りを通じて相手の母語(英語)には存在せず、日本語に存在するものに気付かされる。この仕事、やめられない。

 

こちらの準備の隙を突く質問。準備通りにレッスンが進まないからこそ戸惑いがあり、笑いが生まれる。そこを理解してくれる人たちがいる。連休明けのレッスンは無事終了した。