2年前も今も仕事に時間を費やし、頭を悩ませ、それらを帳消しにしてくれる喜びを味わっています。最近、頭を悩ませているのはLさんとのレッスンです。

 

知識はお持ちなのですが、運用能力が少し…というよりも心理的なブレーキがかかっているようです。その抵抗は日本の会社に勤めているからでしょうか。

 

いずれにせよ、私の役目は相手の質問に的確に答えることです。それにしても質問が細かく、しかも奇襲の連続。というのは言い訳で私の力不足です。今晩は挽回なるか。

 

今日のレッスンは右のプリントから。JLPT N2を取得済みなのに、まさかの終助詞「ね」「よ」「よね」の使い分けの復習。

 

 

以上、2022年6月29日のブログより。あれから月日が流れ、前回、2024年2月21日のレッスンでは終助詞「よ」に関する意外な悩みを打ち明けられた。

 

↓ここに書いたように、日本人が文の最後に付ける「よ」がLさんにはラッパーのYO!に聞こえるそうだ。だから使うのをためらうのだとか。

 

 

「よ」がそんなふうに聞こえているとは今まで考えたこともなかった。こうして私はまさにインフォメーション・ギャップを楽しんでいるのだけれど、当人にとっては切実な悩み。

 

終助詞を全く使わないと、ロボットが話しているみたいに聞こえるのは相手も自覚している。それでも使えないのは、心理的な抵抗が働いているのだろうと推測する。


Lさんとのレッスンが始まったのは2022年6月下旬だった。文法の使い方や語彙の選び方のまずさのせいで、最初はその人格を疑った・・・今は人柄も分かっている。

 

ただ、第一印象も今の印象もそれほど変わらない点もある。

 

母語にないものを使うことに抵抗感が強い。だから初級で習う文法事項も納得できるまで使えないし、時間も人一倍かかる。裏を返せば、アイデンティティーを大切にしている。

 

外国の文化や言語に対して同じ態度を取る私にはよく理解できる。さらにVさん(Lさんの妻)の態度が対照的だから差が目立ってしまう。日本語運用能力に大差をつけられている。

 

過去のファイルを開くと、こんな悩みが綴られていた。

 

私の進歩について志津子さんのご意見を伺いたいと思います。個人的には、まだ難しい文章を作ろうとしすぎたり、自分のフランス語や英語の思考に近づけすぎたりしているのではないかと思っています。

 

実際、今までに自分が生まれ育った言語や文化に基づく思考を得意げに、そして自嘲気味に紹介してくれた。

 

・l'esprit critique:批判的思考

→これについてはブログに自分なりの考えを書いてみた。

 

・l'esprit de contradiction:直訳は、反論の精神。

→と書けば響きがいいが、和訳は、あまのじゃく。

 

遠回りして、ここで再び終助詞の話題に戻ろう。「よ」は、さておき、なぜ「ね」が使えないのか。そのヒントは l'esprit de contradictionにあると思う。

 

何かと同意が求められる日本語。それに不可欠なのが「ね」。Lさんは仏語の n'est-ce pas に置き換えて考えてしまう。私も仏語が初級レベルの時、多用していた。

 

でも、本人も言っていたように、この n'est-ce pas は先生や政治家が語りかける時によく使う類いのもの。日本語の「ね」に単純には置き換えられない。

 

たとえ賛成でも反対したいという厄介な l'esprit de contradiction。不和や対立を極力避け、何でも「そうですね」で済ませようとする日本語と、まるで逆の思考だ。

 

なんてことをレッスン前に書いている。2月下旬から10日間、ご夫婦で南国の楽園を満喫し、翌週は翌週で出張が入ったため、3週間ぶりにお会いする。

 

旅先は私が行ったことがない場所。相手の知らない情報を伝える時に使う、終助詞「よ」の出番だ。そろそろ準備しよう。前回のチャットボックスの内容を確認すると、

 

天気はともかく、楽しい時間を過ごしたいです。

→ 天気予報によると、曇りの日が多く、天気には恵まれないかもしれないと話していた。

 

休みを取りたくないことはないけど、休んでいる間に仕事がたくさんたまってしまう。

→ これは日本人の同僚たちの気持ちを想像した作文。外国人が率先して有休を取ることで働き方改革も進むか・・・疑問。

 

こんなふうに試験勉強で学習した文法を実際に使えるように作文してもらっている。その日は「~さえ~ば」の復習もした。

 

 

レッスンの最後に「『○○(妻の名前)さえいれば、幸せだ。』と言えますか。」と冗談交じりに確認したLさん。実際に伝えたのだろうか。あの美しく、知的で、繊細な妻に。

 

と、まあ、ステレオタイプだと知りつつ、合理的かつ情緒的なLさんは、私にとってフランス人の中のフランス人なのだ。(結婚相手、仕事相手とサンプル数はそれなりにあり)

 

レッスン後

結局、1時間まるまる旅行の話になった。天気予報は外れて、晴天に恵まれたそう。「あまのじゃく」もご機嫌で話が弾んだ。

 

「よ」の使用を促すと、少し発音の強さが気になるものの抵抗することなく「YO!」。こんな自然の中で過ごすと、心も体も解放されるのか。

 

(写真を拝借)

 

 

 

語彙リストを見れば、どんな内容だったか分かる。

 

17:58:23 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    海岸(かいがん)
18:04:21 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    公共交通機関(こうきょうこうつうきかん)
18:05:37 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    日焼け止め(ひやけどめ)クリーム
18:07:05 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    シュノーケリング
18:09:39 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    日焼けする
18:10:01 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    足の甲(こう)
18:11:45 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    水ぶくれ
18:14:01 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    熱帯魚(ねったいぎょ)
18:14:37 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    珊瑚礁(さんごしょう)
18:17:44 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    もぐる
18:21:16 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    活火山(かつかざん)
18:28:22 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    案内係(あんないがかり)
18:39:06 発信元: Shizuko 受信者: 全員:
    貧富(ひんぷ)の差が大きい

 

3週間ぶりにもかかわらず、いつもより日本語が流暢だった。


「Lさん、上達しました。」

と言うと、あまのじゃくは

「いえ、いえ。」

そこで、

「本当に上達しました!」

と伝えると、

「ありがとうございます。」

と最後は素直に受け取ってくれた。