人は見かけによらぬもの。本も然り。
「表紙がちょっと・・・」と言いながら相手がこのテキストを差し出した時、さほど強く反応しなかったのは耐性がついたということか。
↓初級レベルの定番『みんなの日本語』。そのイラストにカルチャーショックを受けたあの頃。
レッスン開始当初、本人の希望はビジネス日本語の特訓だった。ロールプレイを中心にしたテキストを驚くべき速度で学習し、終わりが見えてきた頃、相手がポツリと言った。
「次はアカデミックな日本語はどうかなって思っていまして。」
確かに学術的な論文を書いたり、学会で発表したりするには日本語を論理的に組み立てる能力が必要だと思う。それがビジネスの交渉にも役立つという考えか。
私は、この仕事をする前、わけあって10年も大学事務をしていた。主に大学院や研究所を転々としていたので、学士止まりにもかかわらず、アカデミックな雰囲気だけは知っている。
あの独特な雰囲気も、埃っぽい書類の山も、(笑える程度なら)変人たちも嫌いではない。ズレた話を元に戻そう。
このテキスト、『日本語で考えたくなる科学の問い』は日本語教育の専門店で勧められたものらしい。大学(院)生向けのテキストのようだが、社会人が読んでも面白い。
最初の問題提起は:
グループに分かれた争いを人間はいかにしてやめられるのか?
以下、引用させていただく。
人間は、国、性別、文化の違いに応じて様々なグループを形成しており、グループ・アイデンティティ(集団への帰属意識)に心や行動が大きく左右されています。近年の研究では、くじ引きでランダムに作られたグループへの「単なる所属」であっても、グループ内での「身内びいき」が生じることがわかってきました。このことから我々は、何を学ぶことができるでしょうか。
これを読んで、どう思うか相手に聞くと、意外な反応が返ってきた。この課のキーワード「身内びいき」は日本的だと思うという意見。
私はといえば、移民を受け入れてきた国々(この方の国も含む)で繰り広げられているであろう「身内びいき」を想像した。
そして、今後、外国人頼みになる日本へのヒントをこのユニットまたは相手から得られるかもしれないと期待した。でも、相手は日本の会社で働いている外国人。
その視点で意見を述べたというわけか。初回は様子見しながら他にも質問してみた。意外に話してくれる。今日もいろいろお聞きしよう。
4年に1度の「イベント」も開始されていることだし。
↓
追記:
予想は的中。当時、現地で働いていた。2016年の選挙の様子を教えてもらうことで相手の立場も分かった。政治や宗教は注意を要する話題だから導入にも神経を使う。
でも、アカデミックな世界ではこういう話題も語り合えると思う。研究者や学者というのは知識があるだけに言葉を選ぶ傾向があるというのが私の印象。もちろん例外もいた。
表紙を外したほうがしっくりくる。
以下は上巻<文化と社会篇>の目次:
Lesson1 グループに分かれた争いを人間はいかにしてやめられるのか?
Lesson2 「多文化共生」は寛容な社会を作るのか?
Lesson3 人はなぜ「うわさ話」が好きなのか?
Lesson4 グループ討議はアイデアの生産性を高めるのか?
Lesson5 テクノロジーは思想や文化とは無関係に発展するのか?
Lesson6 人工知能はどこまですごいのか?
Lesson7 スポーツで「地元チーム」が勝ちやすいのはなぜなのか?
Lesson8 芸術はどのようなメカニズムで人の心を動かすのか?