受付のカウンターには、2つの記事がセットになったものが3種類、裏返しに置かれていた。「厳選されたものばかりです。ここから2種類選んでください。」

 

と言われ、両端の2種類を選択。別室に連れて行かれる途中、それぞれのタイトルを見て、どっちにしようかと考え、論を立てやすいほうを選んだ。

 

各記事のテーマは、le revenu universel(ベーシックインカム)と la garantie d’emploi(就業保証)。部屋には別の受験者がいて、私は離れた席に座り、1時間の準備を開始した。

 

試験勉強中、一度として結論まで辿り着けなかった口頭表現の準備。まず、各記事の段落ごとに要点をメモしていく。書きながらproblématiqueとdéveloppementを考える。

 

次に、出来上がった各記事の要点メモを眺めて、planを作っていく。何とか3つの論点とそれを裏付ける具体例も盛り込めたが、問題提起、論点の並べ方や分け方が二転三転…。

 

1時間が経過し、面接官2人がいる部屋に通された。仏検1級の2次試験も同じ会場だったが、まるで雰囲気が違った。というのも、選択したテーマの番号を伝えると、

 

机の上に突っ伏し、顔を見合わせた面接官は、同時に大きい溜息をついた。一体、何のコントが始まるのかと私が怪訝に眺めていると、1人が説明してくれた。

 

なんと朝から受験者全員が同じテーマを選択。「そろそろ他のテーマのスピーチを聞きたかった。」と安堵している様子だった。勝負に出て良かった!

 

ちなみに私が選択しなかったテーマはles langues régionales。言葉を仕事にしている私には興味深く、経済の話よりも身近な話題だけど、論を展開させにくいと思った。

 

時刻は14時半を回ったところ。「じゃあ、始めてください。」と促され、introductionから型に従って、発表を開始した。

 

↓テキストの文章を参考にしつつ、自分が発音しやすいように(とちらないように)作った型。これに従い、ところどころアドリブでintroductionを終えてdéveloppementへ。

 

J'ai construit mon exposé à partir de deux articles dont les titres sont ____ et ____.

 

Ils sont tirés du (Monde) et de la (Croix).

 

Ces articles abordent ____ , c'est-à-dire, ____.

 

Après la lecture, la question qui m'est venue à l'esprit, c'est : ____.

 

Dans mon exposé, tout d'abord, nous verrons ____.

 

Ensuite, nous passerons à ____.

 

Enfin, nous réfléchirons à / sur ____.

 

 

<développement>

 

 

Pour conclure, nous pouvons dire que 

____.

 

A mon avis, ____.

 

問題提起は「le revenu universelとla garantie d’emploiは両立可能か」とし、それぞれの定義と現状→コロナや環境問題等その背景や要因→今後の展望→結論(両立できる)に持っていたと思う。

前回書いたように気が付けばノンストップ(もちろん言い淀みや言い直しはあり)で10分も一人語り。時々、メモ用紙から視線を上げると、2人とも必死にメモを取っていた。

 

てっきり1人はメモする役、もう1人は受験者の様子を観察する役かと思っていたので、試験中にもかかわらず感激。AI化に逆行する試験。価値がある試験だなと。

 

ところで、発表中、なぜかrémunérationがうまく発音できず、4回以上は言い直した。そのしつこさ、1人の面接官に凝視されるほど。結局、salaireで代用したが、減点の対象にならなかった模様。

 

発音しにくい単語や使用しにくい表現を避けるのは、言語学では「回避(そのまま!)」と呼ばれ、コミュニケーション上の戦略とも考えられる。半ば意識的に試験で実践!

 

もう一つ。帰宅してから気付いたのは発表中、何度となく舌打ちをしていたこと。あの時、私はフランス人になりきっていた。日本の面接では減点対象になることも戦略となり得る。

 

↓舌打ちするのはフランス人だけではないけれど。

 

最後に「これは加点された。」と思った瞬間。面接官からの質問に対し、覚えたての une société d'assistés(労働意欲を喪失し、社会保障制度等に頼り切っている社会)を使うと、2人同時にメモ。分かりやすかった。
 

そんなこんなで2日目の口頭表現では満点を頂けた。半年ほどの試験勉強の総仕上げではなく、今までの仏語学習(28年分)の集大成と言うのは大げさだが、一区切りにはなったと思う。

10代後半に出合って以来、仏語には何かと助けられてきた。日本という主張しづらい社会、日本語という主張しにくい言語で生きる上で。これについては別途、自分の考えをまとめよう。