学生の頃、先生からは、公務員が似合うんじゃない、友人からは、ずっと同じ事務所で働くタイプ、と言われましたが、蓋を開けてみれば、転職人生まっしぐらでした。

 

一度でも在籍した業界一覧:

 

メーカー(自動車部品メーカー、産業機械メーカー、化学メーカー)

商社(百貨店系列の専門商社)

運輸・物流

教育(大学)

その他(独立行政法人、駐日外国公館)

 

あれ? もっとズラッと並ぶのかと思っていたら、それほどでもなく・・・仕切り直して、豪語するほど多岐にわたる経験もありませんが、転職は無駄だったとは思っていません。

 

もちろん後付けであり、こじつけですが、一例をあげるなら


業界により、そして同業界でも会社により、使われる語彙や表現が違うことが分かった点です。廊下で擦れ違った時の挨拶が「お疲れ様」のところもあれば、「こんにちは」のところもあるというふうに。

 
新しい職場で上手くやっていくコツは前職の常識を持ち込まないことでした。仕事を教えてくれる方が力説していたのが実は「前職では非常識だったんだけどなぁ」と思いつつ笑顔でメモを取るのです。
 
お陰で、ある程度の順応性は身につきましたが、一体、職場のルールって、敬語表現って、ビジネス用語って何なんだろうと思うようになりました。
 
毎朝、電車に揺られて通勤するという生活から離れて、ようやく自分の言葉で話せるようになった気がします。だから外国語を学ぶにしても教えるにしてもビジネス○○語とは距離を置いています。
 

上から、20代の時、会社の勧めで受けた通信講座教材、当時通っていた英会話教室でもらった本、仕事での通訳業務に役立てようと買った本。

 
外国人向け日本語レッスンでも、相手が希望するなら、20年間の雑多な記憶を寄せ集めて、場面に合った例文を作ったり、経験談(失敗談も含む)を話したりするのも可能ですが、気が乗りません。
 
型にはまった挨拶、社会のルールに則った話題、過剰になる一方の敬語等々。そこに安心感を見いだす人がいる反面、日本語を学ぶ外国人が気後れする原因にもなっている気がします。
 
先月亡くなった言語社会学者の鈴木孝夫さんが、著書の中で使われていたtatamiserという言葉。「畳」が由来のフランス語です。おそらく日本通の間でのみ使われていると思われます。
 
être tatamisé(e) の形で「日本文化の影響を受けている」、「日本にかぶれている」といった意味です。
 
先週、本屋で、ざっと立ち読みしたところ、その著書の中では、外国人が日本語を話すと、物腰が柔らかくなる現象をtatamiser(タタミゼ)と呼んでいらっしゃるようでした。

ビジネス日本語は「武装」しているように思いますが、本来、日本語はもっと柔らかい言葉であって、論破するためではなく、調和が似合う言葉なのでは。

立ち読みするだけではなく、リストを片手に2時間ほどうろうろして、数冊購入しました。その一冊がこれです。リストには入っていなかったのですが、思わず手にした一冊。
 
 
本を選ぶ時、学習者の顔が思い浮かびます。これはTさん用です。
 
「このテキストを作ったいきさつと目的」を読んだ時点で、興味を持ったものの、「自然な会話」かどうか半信半疑でした。家に帰り、録音された会話を聞いてみて、納得しました。
 
日本語ってこんなに心地いい音だったんだと久しぶりに思いました。カフェで隣の会話を聞いているような懐かしい気分になったのは、そういった日常から離れているからかもしれません。
 
しかも、他のテキストで感じる、地方では使いにくいなぁと思う会話ではなく、方言や性別による違いよりも相づちの打ち方等、共通点に親近感を覚えるやり取りです。
 
これをどう使うか、いろいろと想像が広がります。ひつじ書房という出版社名も気に入りました。
 
聞いていて気付いた点、日本語での会話にありがちな場面:
 
・親しい間柄でも「です、ます調」を敢えて使う時もある。一瞬、空気が変わり、笑いが起こるのが効果的。
 
・3人の会話で、一人だけ年下なのか「です、ます調」を使っているけど、自分に問い掛ける時は砕けた話し方をして、相手に歩み寄ろうとしている。
 
・美容院の会話。擬態語が多い。これはヨガのレッスン、それに病院にも言える。
 
・就活中の学生の会話。「しゃか」と聞こえてきて、相手が「しゃか?」と聞き直し、「会社の歌」と言い換える。
 
・読書について話す同僚3人の会話。「風向き」と言おうとして、「かぜ」と言いかけて「かざ」と言い直す。
 
・ファッションについて話す同僚2人の会話。関東人と関西人の会話が軽妙で心地いい。
 
最後の2つは同僚の会話。職場もそんなに悪くないかと思い返してみるのですが、いやいやもうお腹いっぱいです。
 
会社や学校のことを考え、憂さ晴らしをしている家族の横で味わう、日曜夜の解放感。癖になり、夜更かしが止められません。