恋は魔法のようさ(5)最終話

 

 

  「ピッチ、どうしたの・・・? ちょっと待ってよ・・・」

  マリーはあわててリードを引き寄せようとしますが、ピッチは止まりません。

  どんどん走って、やっと止まったかと思ったら、今度は一歩も動きません。
  どうやっても動かないので抱き上げようとして、ふと周りを見ると、そこは

  ショウの家の前でした。

 

  今までショウの家の方向にはなるべく行かないようにしていたのに。

  どうして・・・?


  マリーは呆然とそこに立ち尽くしました。
  すると、突然玄関のドアが開いて、ショウが出てきました。

  ショウもマリーがいるとは知らずに出てきたので、二人ともビックリして
  ただ立ち尽くしたままでした。

  それでもショウがやっと我に返って言いました。

  「やあ、マリー。元気そうだね。犬と散歩?

  犬を飼ったなんて知らなかったな。
  ボランティアをやってるんだって?上位成績者の名前も見たよ。
  何だか不思議でサ・・・、最近魔法にかけられたようにマリーのことが

  気になってたんだ・・・」

  「えっ!?魔法・・・? 気になってた・・・??」

  「そうさ、マリー。

  俺に魔法を使ったんじゃないのか? 
  魔法の研究してたもんなあ・・・」

  ショウは笑っています。

  マリーも笑いながら応えました。

  「使わないわよ、そんなの・・・」

  それは、今まで離れていたことが嘘のように二人の間の距離が縮まった瞬間でし

  た。


  マリーは思いました。

  もしかして魔法って、誰の心の中にもあるんじゃないかと。
  

  それは優しさや思いやりや暖かさが、努力や情熱が、目にはみえない魔法の力に 

  なって、相手の心を変えることが出来るんじゃないかと・・・。
  
  相手が笑ってくれたら、自分も笑うし、自分が怒っていたら相手も怒った

  ような態度に出たりすることも魔法の力ように思えました。


  そうだとしたら、

  心に持っているこれ以上の魔法はないのかもしれないと。

 

  ショウとのこれからのことはまだわからないけれど、

  マリーは気持ちがスッと軽くなりました。

  

  自分が頑張ってきたことでショウの気持ちを動かせたことが不思議にも思えて、

  更なる心の魔法があったのではないかと思わずにはいられませんでした。

  

  
                                  

                                                         完

 

     恋は魔法のようさ(4)                  


  「マリー 最近すごいなあ・・・」
  ショウは張り出された期末試験の上位成績者の名簿の中にマリーの名前を見つけ

  てつぶやきました。
  マリーに関しての色々な話も伝わって来ていました。
  生徒会の役員もやっているし、町をキレイにする運動に加わっているとか、時間

  があるときは、孤児院の子供達の面倒を見たり、お年寄りへのボランティアをし

  ているらしいのです。

  ショウは、全然マリーに会ってないことに気がつきました。
  あの変なジュースを持ってきた日以来、何ヶ月も過ぎていました。

  今どうしているのだろう?

  少し前までは、意識することなく二人でいることが普通のような状態でした。
  一緒に勉強もしたし、ケンカもしたけど二人の関係を何も考えることなく過ごせ

  ていました。

  でも、いったいいつマリーと離れてしまったのかさえショウには解らなくなって

  いました。

  思えばあの頃のマリーはいつもキラキラと輝いていて、そこから魔法の粉が振り

  まかれているかのように、そしてその粉は全て自分の中に吸収され自分も輝いて

  いられたような気がしました。


  仔犬のピッチを散歩に連れて行ってたマリーは、夕焼け空を見ていました。
  ショウから遠ざかっても、ショウへの想いは消えない・・・
  流れてゆく茜雲は子供の頃ショウと見た夕焼け空を思い出させるばかりでした。
  この想いはどうすればいいんだろう?

  親友のメアリーやジュリアに相談しても気持ちが上向くことも出来ず、答えの見

  つからない疑問に今日も心は沈んだままでした。

  すると、ピッチが突然走り出して、マリーは引っ張られてしまいました。
 

 

 

 

 

続く

 

     恋は魔法のようさ  (3)                  


  「マリー、好きなヤツがいるのなら、ちゃんと気持ちを伝えろよ」
  そう言ったのはジョージでした。

  学校で行われている華やかなダンスパーティーの会場でのことです。
  沢山のカップルがダンスをしたり、楽しそうにおしゃべりをしたりしています。
  ショウの周りにも数人の女の子達がいました。もちろんリンダも寄り添っている

  ので、とてもそんな中にマリーが入れる場所はありません。

  遠くからショウを見つめるだけで精一杯でした。
  一瞬、ショウと視線が合ったような気がしましたが、彼の表情は何も変わりませ  

  んでした。

  会場を賑わせていたギターやドラムの音がふいに止んでパーティも終わりに近づ

  きました。

  「気持ちを伝えて、ダメならダメでいいじゃないか・・」
  ジョージはマリーのショウへの気持ちを思い慰めるように言いました。
  そんな彼もまたマリーへの想いは届かないままでした。
  でも彼はマリーの幸せを願ってパーティーでのパートナーに誘いました。
  マリーは、ジョージの気持ちに感謝しながらも、一筋の涙をぬぐいました。

  その夜のマリーの頭の中は、ショウのことで一杯でした。
  自分の気持ちを伝えるというのは、どんなに難しいことでしょうか。


  マリーのそばには、仔犬のピッチがピッタリとくっついていました。

  媚薬はまだ効いているのかもしれませんが、可愛がってもいたので、魔法なのか
  本当の愛情なのか、はっきりとは解らなくなっていました。

  あの日、ショウに媚薬を突っ返されてから魔法の研究もする気になれず

  たとえ魔法で相手の気持ちを振り向かせたとしても、魔法は魔法・・・
  いつか効き目が切れてしまう時が来るかもしれません。
  そう思うと、今の自分にはショウの心を自分にむけさせることは

  無理なのだと思いました。
  悲しいけれど、ショウのことは諦めよう・・・
  そんな思いが押し寄せてきました。

  それからのマリーは、ショウを忘れるかのように、勉強に打ち込みいつも優しく

  笑顔でいることに努めました。
  そして、ジョージとも少しだけ付き合うようになりました。

  けれど、ジョージには解っていました。
  マリーがショウを諦めきれないことを・・・

  でもジョージは、いいと思いました。
  ほんの少しでもマリーの役に立つのなら、それでいいと・・・。

 


                        

  「ほら、あそこ!見て・・・」 リンダがショウに言いました。
  リンダの言う方向を見ると、そこにはマリーが立っていました。
  二人のいるカフェの窓から見える公園の舗道で、落ち葉を蹴るように、つまらな

  さそうに立っているマリーが・・・。
  すると、真っ赤なスポーツカーがやって来たかと思うと、マリーを乗せて走り去

  りました。
  それはジョージの車でした。

  「あの子、ジョージと付き合ってるのね。パーティーの時一緒だったものね。

  私はてっきりショウのことが好きなのかと思っていたわ」

  「そんなことないさ・・・ただの幼馴染みなだけだから・・・」

  そう言ったもののショウの心には、ちょっとだけ疑問が浮かびました。

  今まで、マリーが誰かと付き合ったことなんて、あっただろうか・・・

 

  そんなショウの表情をリンダもまた不安そうに見つめました。

 

 

 

                                               続く

 

     恋は魔法のようさ  (2)                  


  「早くこれをショウに飲ませなくちゃ・・・」
  土曜日の午後、完成したばかりの恋の媚薬をキレイなビンに入れたマリーは、

  ショウの家に急ぎました。
  ベルを押すと、すぐにショウが出てきました。

  「やあ、マリー、どうしたの?」
  「これを作ったから、ショウに飲んで欲しくて・・」
  マリーはそう言うと、ピンク色したビンをショウに差し出しました。

  「へぇ~~~、綺麗な色だなあ・・・。それで、これは美味しいの?」

  突然訊かれたマリーは、返事に困りました。
  この媚薬は相手に飲ませる物・・・
  ショウに飲んでもらうことだけを考えていて、当然味見などしていません。

  それでもショウは蓋を開けて、飲もうとしてくれました。
  「何だか、変な臭いだぜ・・・」と言いながらも、ひとくち口に含んだのはいいの

  ですが、飲み込むことは出来ませんでした。

  「うへぇ~~~!!苦いよ!!これ・・・
  何なの一体??変な物を作るなよ。だいたい味見もしないでオレに飲ませような

  んて、無理なんじゃないの?君が飲んでいいよ」

  ショウはビンをマリーに突っ返すと、さっさとドアを閉めてしまいました。

  ショウの言うことは、最もでした。
  失敗の上に更なる失敗です。ショウに嫌われたかもしれません。

  マリーはガッカリして、家に戻る途中の道路脇の土の上に、ビンから媚薬を捨て

  ました。
  少しだけ泡になって、その場に水溜りのようになりましたが、やがて土に沁み

  むはずです。
 

  空を見上げると綺麗な夕焼けでした。
  茜色の雲を見ながら、ショウとはこれからどう接していけばいいのだろう・・・

  と思った時、足元でピチャピチャと音がしました。
  何だろう?と思って見ると、どこから来たのか1匹の仔犬が、捨てたその媚薬を

  舐めていました。

  マリーはビックリしましたが、人間じゃないものね。犬なんかに効くはずない  

  わ・・・と思ったのもつかの間、その仔犬はマリーの傍にピッタリとくっついて

  来ました。
  なるべく離れて歩こうと、あっちに行ったり、こっちに行ったり、戻ったりもし

  ましたが、仔犬は離れる様子はありません。

  良く見ると、首輪もついていないようでした。

  マリーは知らん顔していましたが、とうとう家までついてきてしまったので、

  家族の承諾を得て飼うことになりました。

  「ピッチ」と名付けたその仔犬の面倒は当然マリーがみることになり、餌の用意や

  トイレのしつけなどで急に忙しくなりました。

  その夜、マリーはまたショウの夢を見ました。

  「人の心はそう簡単には動かせないさ・・・」


  ショウがそう言うと、背を向けて去って行ったのです。

  それはマリーの心に深く突き刺さり、朝の目覚めを一層だるくさせました。                                    


 

 

 

                                                      続く

 

 ある物語

 これは、2005年11月頃書いて自分のHP「青空にポエム With SHOGO HAMADA」

 に記載したお話です。

 あれから20年以上経った今、20年も前だった・・・と自分でもビックリしてますが、20周年を記念して(笑)多少手直ししたりしてもう一度こちらに掲載してみます。

 

 

 

 ↓以下「」内、2005年時のコメントです。

 今もこの気持ちは同じです。

 

 「童話的な(のような)ものはかなり前から書いていました。

 が中々思うように書けず、ここ何年かは中断していました。
 それが省吾さんの「恋は魔法さ」という曲タイトルから、何故かまた書いてみよ

 う・・・などと大それた事を思いつき挑戦してみることにしました。

 読んでいただけたら幸いです。」





          恋は魔法のようさ(1)              

  

   「ダメだわ。また失敗!
   この色がピンクにならなければいけないのに・・・」

   自称「魔法研究家」のマリーは、実験がまた失敗に終わったことを嘆いていま

            した。
   ため息をつきながら、分厚い「魔法大事典」の作り方のページを最初から見直

   しました。

   作っている「魔法の薬」とは、恋の媚薬。

             片思いの相手が自分を好きになってくれるという薬です。
   アレにコレを混ぜて火にかけ沸騰して黄色になったら、ソレを混ぜて、

             溶けるまでとろ火でよくかき混ぜる。
   粘りがでたら、紅(あか)いバラの花びら三枚を入れ、花びらが溶けるまで弱火で

   よくかき混ぜ、溶けたら一度沸騰させて人肌に冷ましておく。
   裏ごしをして炎で一瞬燃やし、ピンク色になったら完成。
  
   「あ~~ぁ、たったこれだけなのに、何で出来ないのかなあ?」
   マリーは本を投げ出して、気分転換に散歩に出かけました。

   暫く街を歩いていると、向こうから見慣れた青年がやってきます。
   それは幼なじみのショウでした。
   そのショウこそ、マリーが片思いをしている相手です。
   どうしても恋の媚薬を飲ませたい相手です。

   でもマリーの目に映ったのは、ショウがマリーの知らない女の子と腕を組んで

   楽しそうに歩いている姿でした。
   マリーはあわてて、近くのショーウィンドウを覗き込むふりをして、ショウの

   目に入らないようにしていました。
   もし姿が消せる魔法があったら、それこそ使いたいくらいでした。

   それなのにショウはマリーを見つけて、声をかけてきました。


   「やあマリー、何してるの?」
   「何って・・・えっと、、ウインドウを見てるだけ・・・だけど・・・」
   「へぇ~~、君がこんな物に興味があるなんて知らなかったなぁ・・」
   マリーはウィンドウの中を良く見てみると、そこには子供向けのおもちゃや

   お人形が綺麗に飾られていました。

   「まぁ、君が何に興味を持とうと自由だけどね。
   紹介するよ。彼女はリンダ。

   これから映画に行くとこ。じゃあ・・・。」
   

   リンダという娘(こ)は軽く頭を下げたので、マリーも同じように頭を下げま

   した。

   いったいショウは何なの!!
   私の気持ちも知らないで・・・
   マリーは急いで家に帰ると、また実験を始めました。
   今度こそ、今度こそ、成功させて、ショウに薬を飲ませなくちゃ・・・

   そんな思いが通じたのか、何とか薬は最後にピンク色になりました。
   「やった!!完成だわ!!」
   これを早くショウに飲ませなくては・・・
   そう思いふと窓の外を見ると、すでに真っ暗闇でした。
   

   何時間実験をしていたのか解らないほどでしたが、安心したマリーは

   眠くもなり、そのまま机に伏せて眠ってしまいました。

   「マリー、恋の媚薬なんて無駄だぜ。
   そんなものを飲んだってオレはマリーのものなんかにはならないからサ」

   ショウの声で、マリーはハッとして目を覚ましたました。
   

   今のは何?夢?
 

   マリーは何となく気になり、作った薬を見てみるとそれは見事な黒い色に変 

   わっていました。

   「え~~~!! これは何??」 

 

   驚きで眠気も吹き飛びました。
   マリーはもう一度魔法大事典を取り出し、よーく読んでみると、下の方に

   「30分以上経つと、薬の効果はありません」と小さく書かれてあり

   ました。




                                                続く