アルトに関しては都内ではまだライブで使ってないけど、7月の西日本ツアーでは持参して、数曲吹く様にしていた。Keyやサウンドが変わると、同じスタンダードでも全く違った感じでアプローチ出来るし、長いツアーで毎日ほぼ同じ曲を演るレコ発だとアルトのお陰で演奏に飽きてしまうのを防げる。Keyが変わるのでファンクションを元にコード進行を組み立て直す必要が有るので良い頭の体操にもなる。

マウスピースはずっと「マウスピース・カフェ」の「エスプレッソ」と言うのを使ってて特に不満は無かった。適度に籠った音色で落ち着いた感じ。

ところがツアーの終盤、故郷の明石でのアルトの演奏を聴いた大学の大先輩から「音色が良くない!」とダメ出しを戴いてしまった。この歳になって、こういうダメ出しを戴く事は滅多に無いのだが、それはキャリアを積んだプロに対する気遣いや忖度である事は重々承知しているし、その先輩が長年に亘り生演奏やレコードでジャズを聴きまくってる上での進言だという事も心得ているので、そのアドバイスを無下には出来ない。

東京に戻り、テナーのトナリンがメインのマウスピースとなり、ライブでの評判も良くなる中、アルトでもトナリンが吹きたくなって来た。テナーの方は前回書いた通り、名古屋のテナー奏者・宮前氏から安く譲って頂いたのだが、アルトをネット上で探した所、まず5万円は下らないし、下手すれば10万を越える物さえ有る。フリマやネットオークションを検索する日々が続く。

しかしある日、とあるフリマサイトに2万6千円程で売りに出されてるのを発見!しかもグレートネック期(’40年代半ばのレアアイテム)!値下げ交渉可能とあり、更にサイトのキャンペーンで今なら千円引きとある。ダメ元で2万3千円で交渉。すると、ものの数時間で了承されてしまった。2万2千円であのトナリンが買えてしまう!

落ち着け自分!と言い聞かせる。これまでレコード購入時にも、何度も安いレアアイテムに手を出しそうになり、よくよく調べてみると詐欺サイトだったなんて事も有ったじゃないか!実際に宮前氏から生徒さんが騙されて金だけ払わされてモノが送られて来なかった…って話も聞いたとこ。また自分のマッピの写真が詐欺サイトに転用されてたとも言っていた(なので写真にテキスト入れました)。

そこで、シリアルナンバーで検索掛けてみると…


出て来る出て来る。(urlを随時変えてる可能性が有るので表示できない可能性有り) もう、このマウスピースは僕が持っているので決して買えませんよ。騙されない様に。

さて次は、この出品者の方を信用するか?…と言う問題になる。基本ネットで楽器系は買わない主義の自分としては、石橋を叩いても渡らないほど慎重だ。この方のフリマサイトでの評価は大変高く99%が満足。一人だけ不満を書いてたが、それは全くアテにならないもの。楽器系の突っ込んだコメントも有り、確かに楽器系を色んな方々に安く譲ってらっしゃるご様子。

続いてこのフリマサイトの保証システムを調べた。このサイトは出品者とトラブルが有った時は当事者同士が話し合い、それがまとまらなかった時は審査の上、お見舞い金がサイトから支払われるという仕組み。しかも、お見舞い金は1万円までとなっているため、もし今回トラブルになった場合は1万2千円を諦める覚悟が必要だ。

しかし、これを逃すとこんなマウスピースに2度とお目に掛かる事は無いだろうし、こんなお値段で手に入れる事も無いだろう。清水の舞台から飛び降りる気持ちで(ちょっと大袈裟?w)購入ボタンを押した。その後、出品者の方とメッセージボックスでやり取りをしてみたら、素早く返信して頂いたり、かなりちゃんとした方だというのを理解した(色々疑ってごめんなさい)。発送も素早かった。

しかし、現物が届くまではかなりドキドキした。希望の時間通りに宅配便が僕に小包を手渡した。う…か、軽い!当たり前か。小さなプラスチックの塊だし。中からマッピケースが現れ、その中から現物が現れた。




間違いなくトナリンだった。フリマでも、詐欺サイトでも写真に穴が開くほど見たトナリンだ。(出品者様に再び感謝)

ご覧の通りクラックも入っており、補強のためシャンクリングが既に装着済みである。


先端の方にもクラックが入っている。


が、これはもう詐欺サイトの方でご丁寧に説明してあるので確認済みだ。


ご丁寧に有難う。でも、サイトの会社概要を読んだらとてもデタラメで信用出来なかったよ。販売元の会社さんも勝手に名前使われて迷惑してんだろうな。

さて、早速試奏してみた所、理想的な音が出た。シャンクリングがしっかりハマっている為、テナーのよりは若干硬めの音質だが、今まで柔らかい音質だと思っていた「マウスピース・カフェ」でさえ吹き比べてみると攻撃的な音質に感じてしまう。あとは僕自身がこのマウスピースに如何に順応出来るかどうかだ。

さて、心配ごとの一つであるトナリン独特のクラックだが、何とか処理して安心して長く吹き続けたい。そこで、接着剤を色々ネット検索した。かなり勉強した結果、プラスチックを「溶接」する液体がある事を知り、購入してみた。
「アクリサンデー」の接着剤。これは、水の様にサラサラな成分で、ひび割れに即座に染み込み、プラスチックを溶かして溶接するもの。

YouTubeで使用方法を勉強したが、かなり難しいらしく、付属の注射器はボタボタ溢れて殆ど役に立たない事も学んだ。違う場所が溶けてしまっては元も子もない。まずはマスキング。


本番前にリハーサル。 YouTubeにも有ったが、筆を使って塗装する事にした。
この様に極細筆でひと塗り。先端は音に影響するのでこれだけにしておく。シャンクの方は結構奥までヒビが入っているので、テーブルが割れない様にする必要が有る。よって少し念入りに。

本番は、揮発性が強く、確認はされていないが発癌の可能性も無くはないそうなので、マスクと手袋と眼鏡を着用し、風呂場で換気扇フル回転で挑んだ。


一晩置いて試奏してみた。音に問題なし!これから毎朝、スタンダード練習したり、C譜をトランスポーズする練習が楽しくなりそう。再び出品者様に感謝。

基本的に、自分自身のスタイルとはトランスクライブや最新の理論を自分で学び取る事で生み出して行くものだけど、楽器から学ぶ…という事も往々にして有る。特にトナリンのサウンドだと、レスター・ヤングの様なオールド・スタイルのフレーズが心地良い。最近、レスターばかり聴いて彼の奏法を自分のエッセンスの一つとして取り込みたいと思う様になった。トナリンを手に入れるまで思ってもみなかった事である。

アルトだと、やはりパーカー…となる所だが、僕の場合、ベニー・カーターやジョニー・ホッジスなど更に古いスタイルも取り込めたらなぁと思う。吹いてて、そんな気分にさせてくれるトナリン。今月は買い物が多くて金欠では有ったが、まさに「安い買い物」であったと思う。