東の空が微かに白んできた。キールたちは寺院に向けて、夜通しジャングルを進んでいた。
ソラがGPSで現在地を確認しながら先頭を行き、後の三名が一列に続く。
「ソラちゃーん、そろそろじゃなーい?」
キールが疲れた声で言う。
「そうだな、GPSだとこの辺りなんだが…」
辺りを見渡すソラ。
「お姉ちゃん、水の音がしない?」
リクに言われ、皆が耳を澄ます。確かに微かな水音がする。
「沢が近いんだわ。このあたりに…」
リリィが水のにおいを探る。と、風上を指差した。
「あそこ!森が開けてます!」
確かにジャングルの木が、視線の先で一瞬なくなっているように見えた。一行は向きを変え、その方を目指した。
突如景色が開け、巨大な穴のような沢が姿を現した。
大きさは野球場ほど。深さは20mくらいだろうか。筒状の穴の底に一本川が流れ、彼らから見て右手の壁面に、確かに寺院があった。その岩盤をそのまま掘って建設された、荘厳な石窟寺院であった。
柱や壁に施された半獣人の彫像は、長い年月を経て苔やひび割れに覆われているものの、その迫力は翳ってはいない。
「伏せて!」
突然ソラが小声で叫ぶ。皆一斉に姿勢を落とし、キールはリリィの頭を押しつぶしながら伏せた。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「あそこ、寺院の入り口」
見ると、そこには人影らしきものが動いている。キールは双眼鏡を取り出して覗いた。
「いるいる、多分ゲリラの仲間だな。人数は二人、武器はチェリブルグ。見張りに置いていかれたか?他の連中は中かもな」
リリィはいよいよ顔を青くした。
「どうしよう、もうウェドリムの卵を手に入れたかも…」
ソラが尋ねる。
「入ってすぐ見つかる場所においてあるのか?」
「いいえ、言い伝えでは卵を盗掘者から守るため、寺院の奥深くに封印されているといいます。途中には罠も仕掛けてあると…」
「いいいいい」
リクも青ざめた。トラップの恐ろしさは彼もよく知っていた。キールも聞く。
「トラップの詳細は?」
「ごめんなさい…そこまではわかりません。でも名のある盗掘者が何人も帰ってきていないという言い伝えは…」
キールはそれだけ聞き、思案をめぐらせた。
「朝になったばかりだ。暗くなるまで待っていられねぇ。卵を手に入れて出てくるところを押さえるわけにもいかん。お宝が手に入った時点で調査団は用済みだ。何をされるか分からん。仕方ない、突っ込むか」
「どうやって?」
リクが聞く。確かに周囲には、この渓谷に下りられるような道は無い。
「奴らが使った梯子か何かがあるはずだ」
キールは再度双眼鏡を覗く。確かに縄橋子が壁面に下がっていた。だが
「あったあった。やつらから丸見えの位置だな。あれじゃあ降りてる間にズドンだ。リク。今の得物(装備)は?」
「マークトウェイン33と、ガストンα-556です」
「ハンドガンとアサルトライフルか。あの二人を狙撃できると思うか?」
「もうちょっと近くにいければ」
「よし、射程範囲に移動しろ。ソラ、縄梯子の上に移動して、連中の気をそらしてやれ」
「了解」
リクとソラが姿勢を低くしたまま移動する。
「あの子に狙撃させるの?無茶よ!?」
「声がでけぇよお嬢ちゃん。言ったろ?うちは一流が揃ってんだ」
こともなげに答えるキール。リリィはそれでも信じられなかった。自分より小さな、幼さすら残る男の子に、この状況の打破を任せたというのか。
やがて無線が入る。
『こちらリク。位置につきました』
『こちらソラ、準備よし』
「はじめろ」
キールが答えると、縄梯子の上から石が音を立てて落下した。ソラが落としたものらしい。入り口前の見張りがそちらに目をやり、ゆっくりとその場を離れる。
パンッ! パンッ!
軽い破裂音が二回轟き、見張りが糸の切れた操り人形のように倒れた。
『クリア』
「上出来。あとで飴買ってやるぞリク」
『子ども扱いしないでくださいっ』
「ソラ、先に下りて周辺を確保しろ。リクはその場でバックアップ。俺たちは今から下へ向かう」
無線でてきぱきと指示を出し、キールは立ち上がった。だがリリィはその場に座り込んでいた。
「どうしたお嬢ちゃん。置いていくぞ?」
「…えぇ」
始めて人が死ぬところを目の当たりにし、ショックを受けていた。しかも引き金を引いたのは…。