道は再び真っ暗になり、高さは5mほどある細い石造りの廊下に変わった。
だがそれも50mほどすすむと終わり、再び広間のような部屋に出た。
「隊長、広すぎて何も見えません」
先頭を行くリクが言う。
「リクそこ、燭台がある」
ソラがライトで指したところに、松明を灯す台があった。リクが小型のバーナーを取り出して火を灯すと、ぼぅっと音を立てて火がついた。
すると、燭台から伸びていたレールのような樋に火が燃え移り、樋を伝ってみるみるうちに部屋全体の燭代に燃え移り、広間を照らし出した。
幅は10mほど。奥行きがとても広い空間だ。壁面は表で見たような見事な彫刻で埋め尽くされ、部屋の中央に伸びる道を挟むように、数十対の形の違う鎧が並んでおり、その足元には夥しい数の骸骨が転がっていた。
「うっわ、こりゃまた…」
キールが思わずつぶやく。空間の醸し出すオーラが尋常ではなかった。
「ここは…近いです。卵の部屋まで」
リリィが確認するように言った。
「わかるのかお嬢ちゃん?」
「伝承には、ウェドリムは少年が攻め入った国の兵士の肺と心臓を欲したと言います。王となった少年は言われたとおり、敵兵の肺と心臓、それを納める鎧を持ち寄らせたそうです」
「こっ、この鎧が、まさかそのあの心臓や肺を…」
リクが声を上ずらせて言う。
「多分そうです。そうさせた理由は分かりませんが、強い怨念を持って死んだ兵を、自分を守る番兵にしようと考えたとも言われています」
「おーおー見てみろ、そこらじゅう仏さんだらけだ。呪いの番兵は仕事してるようだな」
「へ、へんなころ言わないでくだしゃいよ隊長ぉ」
「なに噛んでんだリク。さっさと行くぞ。へんなものに触るなよ?ガストンで先を確認しながら進め」
キールの呼びかけに、リクはこたえない。
「復唱しろリク」
「はひ!?あ、りょ、了解です…」
リクはライフルの先端で床をなぞりながら、一歩一歩進んでいった。
慎重に進んでいるせいか、なかなか広間の終わりが見えない気がした。両脇に佇む鎧たちが、彼らを睨んでいる気がした。
「っくしゅ!」
リリィがかわいらしいくしゃみをした。
「どうした?」
ソラがたずねる。
「ごめんなさい。なんかここ寒くて…」
「そういえば…」
確かに吐く息が少し白むほど、その広間は寒かった。
カリッ
小さな物音がした。皆が反射的に足を止め、止めそこなったリリィがソラの背中にぶつかった。
「わっ!ど、どうしたんです…」
「しっ!」
言葉をさえぎるソラ。見るとキールもリクも周囲に意識を尖らせている。
カリッ ガサガサ…… カツン
音は次第にはっきり聞こえてくる。ソラは刀を抜いた。
「何!?なんなんですかぁ!?」
「静かに。伏せてなお嬢ちゃん」
ガシャン!!
と、彼らの右にあった鎧が倒れた。ソラたちはとびあがるように身構える。そこにはうつぶせに倒れた鎧があるだけだった。
「んだよ、驚かせやがって…」
キールがサーベルの柄をしまったその時、ガシャンという音と共に、鎧の脚が立った。
脚で立ったのではない。両足が不自然な形に真上に上がったのだ。
「「ひぃ!」」
リリィとリクが同時に声を上げた。
鎧は両腕をつき上体を起こすと、脚を関節とは真逆の方へ曲げ、蜘蛛のような姿勢になった。
「なっ!?なんだこりゃ!?」
ガシャン!!ガシャン!!ガガガガ…!
道を挟んでいた鎧が次々に倒れ、皆あり得ない姿勢で起き上がり始めた。
「いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!???」
リクが嗚咽のような悲鳴を上げる。鎧たちは鉄のきしむ音をがなり立てながら、四人の周りを取り囲んだ。
ソラとキールが向きを変え、リリィを囲むような体制を組む。鎧たちは不規則に、しかし確実に彼らとの距離を縮めていた。
「数が多いな、戦力が大したことなきゃいいんだが…。リク、お嬢ちゃんを頼むぞ?………おいリク、復唱しろ!」
背後のリクに怒鳴るキール。返事をしたのはソラだった。
「あー…隊長。私がリリィを守る」
「馬鹿言え、お前が切り込んでこいつら片付けなきゃ…」
「言いそびれていたんだが…リクはその、この手のやつが駄目なんだ…」
「……あの、この手と言いますと?」
「だから…呪いだとかお化けだとか……」
「…………えぇっと、お嬢ちゃん。今そこのガキはどうしてる?」
「それが…さっきから石みたいに固まっちゃってて……」
キールはでかいため息をついた。と、一体の鎧がソラに覆いかぶさるように襲い掛かった。
「くっ!!」
刀で受け止め押し返すソラ。体勢を崩した鎧に切りかかるが、関節を無視した動きで避けきった。
それを合図に鎧たちが次々に襲いかかってきた。
「ひゃあああああああ!!!」
突然リクが金切り声を上げ、手にしたアサルトライフルの引き金を引いた。が、狙いも何もない出鱈目な掃射が当たるはずもなく、銃弾が不規則に広間を跳ね回った
。
「あぶねぇっ!おいリクやめろ!撃つな!」
「わーっわーっわーーーー!!!」
リクの耳に届かない。
「この馬鹿……おいソラなんとかしてくれ!」
「了解」
と、ソラはリクの頭をこちらに向けて抱き、その豊満な胸の谷間に押し付けた。
「ふきゅ」
リクは幸せそうなうめき声を上げ、糸が切れたようにだらんとだらしなく座り込んだ。
「これでいいか?」
「な、なんか腹立つ上余計使い物にならなくなったな。しゃーねぇ、作戦変更。ソラ、二人を抱えて伏せてろ」
「まさか隊長…!」
「あぁ、久々に本気出す。巻き添え食うなよ?」
「…合図をくれ」
「おう」
そう言って、キールはサーベルを抜いた。だがそれはサーベルと呼ぶにはあまりに小さくか細かった。まるで布団叩きだ。
「ちょっ…そんなんで戦う気!?そんな棒っ切れ、素手のほうがましじゃないの!?」
リリィが抗議する。が、キールは視線を外さない。先刻までのお調子者のような物腰からの変貌振りに、リリィはおもわず閉口した。
「3」
キールがつぶやくように言う。
「2」
鎧たちが一歩詰め寄る。
「いちっ!!」
ソラがリリィとリクを突き飛ばすように倒した。次の瞬間、ジュウッという甲高い音が響き、リリィの鼻をあの焦げた匂いがくすぐった。
恐る恐るリリィが頭を上げると、鎧たちのほとんどは胴の辺りから真っ二つに切り裂かれ、その切り口が青白い炎を上げて燃えていた。
キールはまるで空振りしたバッターのような格好をしていた。そしてその手にはあの布団叩き…とはまるで別物の、巨大な光る剣が握られていた。長さは3mを優に越えている。
鎧たちはガラガラと耳障りな音と、青白い炎を立てて地に伏した。
「くそ。何匹か斬り損ねた。調整間違ったな」
歯痒そうに柄の根元をいじるキール。白く光る刃はその都度大きさを変えた。
「なに…それ??」
リリィが目を丸くする。
「あぁこれ?プラズマサーベル」
「うそ!?そんな大きさのプラズマなんて……発電所みたいな設備がなきゃ出せないわ!?」
「詳しいじゃねーかお嬢ちゃん。だけど言ったろ?うちには一流がそろってんだ」
得意げに語るキール。剣はキールの背丈ほどになっていた。
「さて、残りを片付け…なんだありゃ?」
見ると、燃え盛る鎧の中で何かがうごめいていた。それは炎に焼かれて苦しんでいるようだった。
「隊長、あれグンタイムカデじゃあ…」
ソラに言われ、キールがぽんと手を叩く。
「あーなるほど。よくできてるなぁ」
「え?ど、どういうこと…」
ソラは切っ先でその虫を刺し、リリィの前に突き出した。
「ひっ!」
「グンタイムカデ。地方によってはイワシムカデとも呼ばれている。数百匹の群れを作って自分を大きく見せることで、外敵から身を守っている。上に向かって立ち上がるように広がることも出来るから、幽霊と見間違えられたり、悪霊の変化といわれることもある」
「低温になると動きが鈍り冬眠状態に入るからな。この部屋が寒いのを利用して鎧に詰め込んで突っ立たせて、盗掘者が燭台に火をつけて暖めちゃうと動き出すようにしたってわけだ。いやぁ、古代の知恵だね。さて、残りを片付けて先へ進むか」
「え?で、でもムカデなら無視して進んじゃっても…」
リリィが言う。キールは顔を向けずに答える。
「補足。こいつらは肉食で、群れ一つで中型犬くらいなら捕って喰っちまう。こんだけいれば俺たちくらい十分で完食だな。というわけなんだがリク、そろそろ目ェ覚めたか?」
答えたのはリリィだった。
「さっきからゼリーみたいに溶けちゃってます」
「だめかー。仕方ない。ソラ、二人抱えて先行け。こいつらは俺が片付ける」
「無茶だ!数が多くてとても一人では…」
キールは淡々と返す。
「復唱しろ」
「……了解」
ソラは踵を返し、リクを肩に担いでリリィの手を引き、広間の奥へ走り出した。
「ちょっ!ソラさん!本当にあの人置いて行っていいんですか!?」
「隊長命令だ」
「でもっ、まだ鎧はたくさん…」
「いいんだ。多分隊長は、リミッタを外す気だ」