アニメ「W3(ワンダースリー)」の第1回の演出は漫画との整合性を取るために

手塚さん自ら担当しています。で、手塚さんは漫画でも2回、このワンダースリーの

3人が地球に派遣されて真一少年と出会うまでを描いています。つまり手塚さんは

都合3回、このくだりのシチュエーションを描いたわけですが、見比べるとマガジン版と

サンデー版では若干、地球に着いてからのワンダースリーと星光一真一兄弟との

出会いの段取りが異なっています。マガジン版の流れの方がアニメ版には近く

なっているようです。

実はこのあたりで手塚さんは(私も)ミスを犯しました。物語は真一少年の視点で

進んで行きますが、真一少年は偶然に実の兄の光一が国際スパイであることを

知る一方で、相前後して宇宙からのスパイであるワンダースリーにも偶然に

出くわしてしまうのです。なにしろ手塚さんですから力技でなんとなく納得

させられてしまいますが、ちょっと不自然な偶然の連続です(笑)

ワンダースリーが地球で秘密裏に平和を守るフェニックスの活動に着目して、

その構成員の一人であるF7号(星光一)を追跡していて弟の真一少年に

出会うような流れをちらと挿入していればこの不自然は防げたのですが、

天下の手塚治虫が3回もこの作品の立ち上げを描いていてついぞその整理を

付け切れなかったということです(笑)

このミスで一番苦しんだのもどうも手塚さんだったようで、ご本人がサンデー版

単行本のあとがきで「ワンダースリーと星光一の関係がどうもしっくりいかなくて

苦労した」むね書かれています。
手塚さんはシリーズ全体の収拾も付けなくてはならない立場ですから大変でしたが、

いっぽうアニメのスタッフの方はかなり自由に好き勝手をやっていましたから

そういったことまで気に掛けている者はいませんでした(笑)

シリーズ後半になると脚本執筆陣もかなり増えてきて、中には相当にフリーダムな

脚本を書く人もいました。筆頭格はなんといっても唐十郎さんあたりでしょうか(笑) 

当時唐さんは既に前衛的な舞台作家として頭角を現していた存在でしたが、なにしろ、

あの唐十郎が子供向けアニメの脚本を書いていたのです。

正直チーフディレクターとしてシリーズの中で浮いてしまわないように苦慮した
覚えはあります(笑)


このアニメのオープニングの原画を引き受けてくれたのは大塚康生さんでした。
ところが、息子の言うところによればそのことが一つの事件、「ベレット事件」として
語られているというのです。
ベレットとはいすゞから発売されていた車で、スポーティな乗用車として当時人気の

あった車種でした。
(実は私もこの数年後にベレットを買っています)

ボッコの原画の担当は当時結婚して引退されていた中村和子さんに特に

お願いしたと書きましたが、
中村さんの旦那さんは広告代理店から虫プロに役員として加わられていた

穴見薫さんであったのでそのようなお願いも出来たのです。

で、このときたまたま穴見夫妻がベレットを買って、それを大塚さんが見て

羨ましがって試乗させてもらい、勢い余ってぶつけて壊してしまったと。

そのお詫びで大塚さんが「W3(ワンダースリー)」の
オープニングを描くことになったというオハナシのようで(笑)
ベレットにはGTと呼ぶスポーツクーペがあって、後年私が買ったベレットも

GTでしたが、車やメカ好きで知られる大塚さんが夢中になるくらいだから

穴見家のベレットもきっとGTだったのでしょう。

しかし、チーフディレクターであった私の憶えているところでは、「!?…そんなことも…

あったっけ?」
くらいのものなのです。別段、そんな事件はなかったとか、そんなことは知らないとか、
そういうことでもなく、そういえばそんなこともあったかもしれないという程度の軽い感じ。
なるほど、今から見れば当時、東映動画の社員であったはずの大塚康生が唐突に

虫プロ作品の原画を引き受けたのにはなにか相応の理由があったはずだという

考えももっともなのですが、しかし、実際には当時の現場の雰囲気はもっと

軽いものだったのです。

大塚さんは東映の現場アニメーターのリーダー的存在でありましたし、
現に中村さんも私も酒井一美も東映出身であるように、虫プロにも東映出身

アニメーターはごろごろいましたから別段、大塚康生が虫プロのスタジオを

うろうろしていても「大塚さん!? なぜあなたがここに!?」なんていう雰囲気ではなく

「おや大塚さん今日はどうしました?」くらいのもので、もしかしたらベレットの件で

穴見さんに会いに来た大塚さんを捕まえて私あたりが「ついでに」書かせてしまった

ものかも知れません。(よく憶えてはいません・笑)


先にちらと書いた通り、主題歌の作詞は「ドルフィン王子」からの流れで

北川幸比古さんにお願いしました。
しかしこの歌の作詞家はテロップやJASRACの登録の表記では「北川幸比古」

のみですが、実はもう一人いるのです。それはこのブログを手伝ってくれている

息子です。

実は間奏部分の歌詞の「宇宙語」の部分は2月に生まれて数ヶ月を経過し、

口から「言語の素」を発するようになっていた息子の発言を「採録」

したものなのです(笑)
北川さんが前半まで作ったところでアイデアに詰まってしまい、作曲の

宇野誠一郎さんと3人でアタマをひねっていた時に、ふと息子が発し始めていた

「コトバ」を思い出し、それをそのまま歌詞にしてしまったというのが真相です(笑)
(当人記:「W3(ワンダースリー)」の主題歌はもちろん子供の時から知っていますが、

この話はこの件の打ち合わせで初めて聞きましたw)


そんな感じで「ドルフィン王子」同様に万事「みんなでわいわいと」作り上げていったのが
「W3(ワンダースリー)」だったわけです。