さて、このホンダN360のCM、どうやら放映回数のわりに今に至るも
憶えていてくださるヒトの多いCMのようなのです。
なにしろ1分もあるCMなので、スポットCM(番組と番組の間に単発で流れるCM)

では流せません。いきおいホンダの提供番組内でのみの放映となります。
ところがこの時期、ホンダの提供番組には超強力な人気番組があったのです。

その名は「ゲバゲバ90分」。

正式名称は「巨泉・前武ゲバゲバ90分!」という今は伝説となっている超人気の
高視聴率番組です。[昭和44年(1969)10月7日~45年3月31日第1期放送]
ホンダはこの1時間半もある長尺番組の3社しかいないスポンサーの1社だったのです。

「巨泉」とは「昭和のテレビの顔」とも言える有名司会者の大橋巨泉さん。「前武」は
テレビ動画(株)時代「怪盗プライド」で脚本家としてご一緒し、これまた

この頃には著名テレビ司会者となっていた前田武彦さんです。
しかし、お二人の生司会部分はこの番組の本体ではなく、番組の大部分は数秒から
数十秒のショートコントのスキットがパッパパッパといつまでも続き、その数

毎回150本というバケモノのような番組でした。

なぜ「ゲバゲバ90分」の話を延々とするかというと、実は私は「ゲバゲバ90分」にも
係わっていたからです。と言ってももちろんコントに出演していたわけでは

ありません。
続けて「コントの台本を書いていたわけでもない」と書こうかと思いましたが、

これはよく考えると全く合っていないわけでもない。そう、「ゲバゲバ」の

スキットには実写コントのスキットに混じってアニメーションによるスキットも

あったのです。

ゲバゲバ90分のアニメーションというと「ゲバゲバ、ピー!」というアイキャッチと
それに登場する「ゲバゲバおじさん」が有名ですが、あれは一時虫プロにも
いらっしゃった木下蓮三さんのアニメーションです。

ゲバゲバおじさんのアイキャッチは毎回同じものではなく1回ごとにパターンの

違うものだったようですが、それだけではなく実写コントに混じって

アニメーションによるスキットも描かれていたようなのです。で、私もその

スキット製作に加わった格好です。
更に他にもスキットを描いていたアニメーターもいたのかも知れませんが、なにしろ机を並べて描いている訳ではないですから、その辺のことはよく分かりません。

コントと同じようにアニメーションスキットも数秒から数十秒。多くはワンカットの
一発ネタです。絵柄もゲバゲバおしさんと同じように白バックの線画が

ほとんどだったと思います。
随時、ネタを思いつくと、サッと動画に描いてしまい、自分でトレスしたら

タイムシートを
付けて撮影所へ入れる、ラッシュが上がってきたら、もうほとんど編集なんて

いらない短さですから、確認だけしてどんどん納品してしまう。

…というような流れだったと思うんですが…。ほとんど何も憶えていない(笑)

私は手元に残った動画とかは捨てないタチなので、動画の絵などももしかしたら

どこかにとってあるのかもしれないが、なにしろ総量も少なく、描いてある

キャラクターもその場限り、タイトルも付いていないといった感じなので、

万一発見されても何の動画なのかさっぱり判らない可能性もあります。

何と言っても多勢に無勢。150本という圧倒的な本数のコントの前では例え数人の
アニメーターがしこしこがんばったところで、ゲバゲバという強烈な番組の中に
アニメーションのスキットが混ざっていたことを憶えていて下さる人も少ない様です。


しかし今考えてみるとこれは貴重な体験だったのかもしれません。テレビの

アニメーションというと普通は手塚さんが「鉄腕アトム」で確立したいわゆる

テレビアニメのフォーマットになります。もっとも「アトム」もテレビ番組としてのフォーマット自体がオリジナルだった訳ではなく、既に子供番組の

フォーマットとして確立していた30分番組のフォーマットで
アニメーションを成立させたのが「アトム」の歴史的意義になりましょう。

一方、この「ゲバゲバ」では実写コントに比べれば比重的には少ないですが、単に
オープニングやエンディング、アイキャッチ等にアニメーションが使われるだけでなく
アニメスキットもコントと同様、お笑い番組のメインディッシュの一翼を

担っていた点が貴重だといえるかもしれません。しかし結局こうした形の

アニメーションのあり方は
テレビという舞台ではあまり大きく発展することなく、ほとんど「ゲバゲバ」限り

という感じになってしまいました。

今にして思えば、このゲバゲバという番組はその後のテレビのお笑い番組とは

ちょっと違う方向性の番組であったのかも知れない。一口で言えばそれは

喜劇映画のお笑い、全てが計算、仕込みの笑い。だからこそそこへアニメーションも加わることが出来たと思うのです。とにかくこの後のテレビのお笑いは

テレビジョンというメディアの最高の強み、現場でのハプニング性を織り込んだ

方向性へ向かっていったので、アニメーションとは縁の薄い方向へ発展して行ったと言ってよいでしょうか。

 (丈彦記)
 コントとアニメーションの融合した番組としては、海外ではイギリスの

「空飛ぶモンティ・パイソン」"Monty Python's Flying Circus" なども有名ですね。