一旦アイデアが出来てしまえばあとはいつもと同じようにアニメーションを
作ればいいだけですから、淡々と作業をこなして完成を目指すだけです。
一人の作業というのは自分でやらなければ進まない大変さはありますが、
その分予定外の事に振り回されたり、人に気を使ったりすることが少ない
という利点もあります。
撮影や編集、音声などに関しては「いつものみなさん」にお願いして
大過なく出来上がりました。このあたりは特に問題もなかったので
憶えていることもあまりありません。無事完成して期日までにホンダに
フィルムを納品。東京モーターショーの開幕を待つところとなりました。
このころは毎年東京モーターショーが開催されており、私もそれなりに
クルマに興味があったので、クルマ好きの息子を連れて例年モーターショーに
行っていたので、この時も間違いなく息子を連れてモーターショーに出向き、
自分のフィルムが上映されるのを見たと思うのですが、モーターショーに
関しても自分のアニメに関してもいろいろ記憶が混じってしまって
具体的なことはよく思い出せません。
(丈彦記)
昭和42年(1967)に発売になったホンダN360は途中2回ほど大きめの改良を
受けており、前期型・中期型・後期型がありました。このうち後期型は
このアニメーションにでてくるのとはちょっと顔つきが違います。
残りの前期型と中期型はほとんど同じ顔つきをしていますが、誰でも
見分けられる点は、前期型では顔の真ん中のHマークの周りが抜けていて
黒く見えるのが、中期型では板で埋まっていて赤く塗られていたことです。
このアニメーションに出てくるN360はしっかりマークの周りが赤く
塗られていますから中期型ということになります。
中期型のN360が発売になるのは昭和44年(1969)の1月ですが、
このアニメーションが上映されたのはそれが新型として展示された
前年末の「第15回東京モーターショー」(会期:昭和43年10月26日~
11月11日)となります。
さて、そうして東京モーターショーも盛況のうちに終わり、ホンダの件は
一件落着、私も次なる仕事に進もうという頃、ホンダから1本の電話が
入りました。
なんと、本田宗一郎社長が例のアニメをいたく気に入ったので、
テレビCM用として仕立て直したいというのです!
なんでも宗一郎さんからは「こりゃあウチのクルマになっとる!」とのお言葉を
頂いたとのこと。
ついてはテレビCMバージョンとして尺長60秒で再制作を、ということです。
60秒=丸々1分というのはテレビCMとしては異例の長尺ですが、
元のモーターショー版は、一応1本の短編作品という作りなので、それでも
3分50秒もあります。4分の1近くにまで尺を縮めなければなりません。
「ほとんど作り直しになりますけど」
「それは当然構いません」
そんなわけで、基本的に同じキャラクター、同じオハナシで、もう一度N360の
アニメーションを作り直すことになったのでした。
<テレビCM版のカットから>

これはテレビCM版の主人公の男。
モーターショー版と同じ男ですが正ちゃん帽を被っている点が違っています。

なんと、クルマ達の遭難は雪女の仕業だった!
こちら雪女はモーターショー版とほとんど違いません。
いやいや、ホンダなら大丈夫。

凍らない空冷エンジンなのでブルンと造作もなく始動して走り去ります。

雪女は追いかけますがFFのホンダはぐいぐいと走って行ってしまいます。

ホンダには雪女も追いつけない様子。
(丈彦記)
オーナー方面からは「N360のヒーターはこんなに効かない」という声も
あるようですが、まあ、雪女を融かすために必要なカロリー数はJISにも
規定がないでしょうから問題ないでしょうw
モーターショー版の時から台詞はない無言劇だったのですが、擬音などは
普通に入っていましたし、音楽も場面に合わせたいわゆる劇伴音楽を
付けて貰っていました。最後にはダメ押しで「この先雪女が出ますから
自動車はムリです。」という看板に「ホンダなら大丈夫」と
書き込むシーンまでありました。
しかし、テレビCM版では尺を切り詰めるためなくても分かるシーンは
全面カットです。雪女にやられて凍ってしまったクルマのドライバーや
最後に出てきた、男とスキー場で待ち合わせしていたらしい女の子も
カットしたので、登場人物はN360オーナーの男と雪女の二人だけに。
擬音も雪女の笑い声と凍らせたN360が難なく始動する時のブルン!という
音だけにしました。この辺はシンプルになってむしろ引き締まった感じ
かもしれません。
音楽は「W3(ワンダースリー)」のオープニングもやっていただいた
宇野誠一郎さんにお願いしたのですが、テレビCM版では
モーターショー版の劇伴調から一転、ジャズ調の口笛とスキャットが
印象的なムーディーな曲を付けて下さり、雪女の不気味さも強調された
大人っぽい雰囲気になりました。
(丈彦記)
クルマのCMなんだからある意味当然なんですが、この始動の時、
ちゃんとホンダ空冷エンジン特有の音が鳴るのがクルマ好きにはたまりませんw
結局このCM、丸々1分も尺があるのに、無言劇なので台詞の類は一切なし、
コピーやキャプションもナレーションも一切なしで、文字も最後に出てくる字幕の
「HONDA N360」というロゴだけという実にスカした感じのものとなりました。
なにしろ1回完成させた作品なので、あとの作業はスムーズでした。
予定通り完成させてホンダに納品。無事、テレビCMとして放映される
ところとなったのです。








