さて、試験的放送で終わってしまった「ドルフィン王子」ですが、もちろんこれでこの企画が
終わってしまったわけではありません。
テレビ動画(株)としては最初の目玉商品ですからなんとか本格的な番組として成立させなければなりません。

結局、翌年の昭和41年(1966)、「ドルフィン王子」の続編新作1クール(13回)がなんとTBS系で
放送されましたが、このときタイトルは「がんばれ!マリンキッド」と変わり、主人公の名前も
「ドルフィン王子」から「マリンキッド」に、お供のイルカは「シロ」から「ホワイティ」に
変わりました。もっとも内容や絵柄は全く変わっていません。

近年はアニメのテレビ放送は1クール単位になってしまっていますが、

当時は4クール(1年間)が基本単位でしたので「がんばれ!マリンキッド」も

やはり当時としては短命番組でした。

会社はなおもあきらめず、更に3年後の昭和44年(1969)、局を再びフジに戻し、

タイトルも再度「海底少年マリン」と改めて放送しました。主人公も再度「マリン」と改名です。
ここで今度は無事、長期番組となり翌年までに全78話が放送されたということです。

「海底少年マリン」が最終タイトルであり、放映期間も1年半に及んだだけでなく、
カラー作品であることが幸いして後年まで再放送の機会が多くありましたから
この作品は結局「海底少年マリン」として多くの方に親しまれる作品となったようです。

テレビ動画(株)がここまで一つの作品で粘ることができたのには理由がありました。
それは同社が最初から海外展開に力を入れており、「マリン」の場合も海外での展開が

先行していたからなのです。

日本のアニメーションの国際展開は、東映の大川社長が東映動画の設立と「白蛇伝」の

製作を決断した時から意識していることを明言されていましたし、テレビアニメの輸出も

「鉄腕アトム」の段階から行われていましたが、テレビ動画(株)はこの点を初めから

特に意識していた様子で「ドルフィン王子」が最初からカラーで企画されたのも

カラーテレビの普及が日本に先行していたアメリカ市場を意識してのことだったようです。

「マリン」の場合、「がんばれ!マリンキッド」の段階では倍の2クール26話が完成していたとの
ことで、「ドルフィン王子」以降海外向け英語版の方が製作が先行していた事情が伺えます。

記述がだんだん伝聞調になってきていますが、それには理由がありまして、実は私は
「がんばれ!マリンキッド」「海底少年マリン」のアニメーション製作にはほとんど

関わっていないのです。

私は「ドルフィン王子」放送前の昭和40年(1965)初春に、ひょんなことから

虫プロダクション入りすることになりまして、それに関しましてはのちに詳しく記すところと

しますが、「がんばれ!マリンキッド」製作当時にはもう虫プロで「W3(ワンダースリー)」を

作っている真っ最中でしたから「がんばれ!マリンキッド」「海底少年マリン」の実製作には
全く関わっていないのです。

息子が調べてきた「海底少年マリン」のスタッフ表を見ると、演出に石黒昇さんや
トミノ(富野喜幸)君の名前が見えたりしてなかなか面白いメンバーです。
「ドルフィン王子」の脚本は3本とも北川幸比古さんが書かれましたが、「海底少年マリン」の
脚本執筆陣の表には、辻真先さんやトヨダユーコー(豊田有恒)君などの名前も見えるものの
北川さんの名前がはっきりと記された回はありません。
そして裏ではまだ関わり合いがあった可能性もあるものの岡部一彦さんの名前も

見当たらない。
結局「海底少年マリン」は最初に「ドルフィン王子」をわいわいと作った3人の手からは
離れたところで完成した作品になったような格好で、作品1本1本にも運命の数奇というものが
あるようです。

私とテレビ動画(株)との関係は虫プロ入り後も残っており、昭和43年(1968)の海外提携作品
「ジョニーサイファー」などにも参加しておりますが、
テレビ動画(株)は「海底少年マリン」の製作と相前後する頃にフジテレビ・エンタプライズに
改組され、徐々に動画制作会社としての色を薄めていきました。
最終的には昭和48年(1973)にフジ系の制作会社共同テレビジョンに吸収されてしまった

そうです。

聞くところによると「がんばれ!マリンキッド」全26話(放送分13話+英語版のみの13話)は

修正の上「海底少年マリン」の78話の中に組み込まれているそうですが、

「ドルフィン王子」3話については、フィルムが行方不明で「マリン」の中にも入っていない

とのこと。
もしかしたら「ドルフィン王子」なら我が家のどこかにプリント(複製フィルム)があったような
気がしないでもないので、いま、探してみているところです。
もし、なにかまた「マリン」関係のものが見つかったらご報告申し上げたいと思っています。