〈健康PLUS〉 各種の話題から2024年7月13日
今回は、小児がん経験者の成人後の継続受診をサポートする取り組みや、小魚を食べることによる女性の死亡リスク低減など、健康に関する各種の話題について紹介します。
◆小児がん経験者 成人後の継続受診をサポート
小児がん患者の生存率は急速に向上し、今では約8割になった一方、成人後には「晩期合併症」と呼ばれる症状や、化学療法や放射線照射の影響による「二次がん」の恐れがあり、定期受診が求められます。最初のがんの治療に当たった医師がカバーしきれない小児がん経験者のその後をどうフォローしていくのか。専門家は、成人を診る専門医との密接な協力が必要だと指摘しています。
小児がん経験者のフォローアップ診療の重要性を語る国立成育医療研究センターの松本公一小児がんセンター長=東京都世田谷区
晩期合併症
小児がん経験者は治療後も、がんの種類や治療経過、使った薬の種類や量などにより、循環器や内分泌などに多様な晩期合併症や二次がんが現れる恐れがあります。
厚生労働省研究班が2013年度にまとめた小児がん生存者の研究では、668人の生存者の41%、277人に何らかの晩期合併症があり、そのうちの88人には治療の必要がありました。
二次がんも2・2%の生存者で確認されました。海外からは、45歳の時点で、小児がん経験者の95%に何らかの慢性疾患が見つかったとの報告もあります。
今年5月に東京で開かれた「AYAがんの医療と支援のあり方研究会」の学術集会では、こうした小児がん経験者に対する「フォローアップ診療」のあり方を巡り、シンポジウムが開かれました。
席上、国立成育医療研究センターの松本公一小児がんセンター長は、小児・若年層のがんの5分類を私案として示しました。
「白血病やリンパ腫など小児科と内科で共通の疾患」「骨軟部腫瘍や脳腫瘍など外科系が主として対応する疾患」「成人に多くみられるがん」「希少がん」「二次がん」の五つです。
「この大別により、対応するべき診療科や、関与すべき職種などチーム医療のあり方が患者ごとに定まり、医療を円滑に移行できる」と訴えました。
頼り切りでなく
「小児がん経験者ネットワーク シェイクハンズ!」副代表で、がんの子どもを守る会の舛本大輔理事(35)は、12歳で筋肉の腫瘍が見つかり、約1年間の入院治療を経験しました。
その後は親の勧めで通院を続けましたが、その意義は分かっていませんでした。
「“病気は治った”“管理は先生がしてくれる”という、頼り切りの認識だった」と、当時を振り返ります。
健康について考えたのは、年長の小児がん経験者との交流がきっかけでした。日頃の悩みや不安、その対策を話し合いました。婚約を機に自らの不妊の可能性に気付いたことも、自発的な受診を後押ししました。
舛本さんは「がん経験者であることをしっかり受け止め、晩期合併症の可能性があることを理解し、自分に必要な医療にアクセスすることが大切」と話します。若い小児がん経験者には「引っ越しても医療につながるために、治療経過の記録は必ず持っていて」とアドバイスしました。
人間ドック
最初のがんを診た医師とフォローアップ医師の連携とひと口に言っても、患者が進学や就職で転居すれば難しくなります。個々の疾患の患者数が限られる小児・若年層のがんでは、治療の根拠となるデータも不十分です。
松本さんは、小児がん経験者独自の“人間ドック”の必要性を説きます。
「がんの種類や治療の経過、使われた薬剤の種類や量などにより、どのような晩期合併症に注意が要るかが明らかになってきた。患者ごとにそれを考慮した検査を定期的に受ければ、早期の診断、治療に結びつくはずだ」と指摘しました。
小児・若年層のがん経験者のサポートについては、このテーマに取り組む医師が『AYA世代がんサポートガイド』(金原出版、3080円)を刊行。教育や福祉、就労支援の関係者、ソーシャルワーカーなどに広く活用を呼びかけています。
◆小児のADHD、ASD オンライン診療は有効
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注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもを対象に、症状の頻度や程度をオンライン診療と対面でそれぞれ評価したところ、結果がほぼ一致したとの研究成果を慶応大学などのチームが発表しました。オンライン診療を活用できれば、小児を診る精神科医が不足し受診まで時間がかかる現状を改善できるとしています。
文部科学省が2022年に発表した調査結果によると、小中学生の8・8%にADHDやASDなど発達障害の可能性があります。ただ、厚生労働省の調査では専門的な診断や治療ができる小児のための精神科医が不足し、初診までの待機期間は平均2・6カ月、長いと5年近くになるといいます。
待機期間を縮め、通院の負担も減らすにはオンライン診療が有用と考えられてきましたが、対面診療とその有用性を比べた研究はあまりありませんでした。
今回研究の対象としたのは、既にADHDやASDと診断されている6~17歳の74人。小児精神科医から指導を受けた臨床心理士が、診断に使われる基準に沿って評価に当たりました。
対面とオンラインでそれぞれ別の臨床心理士が症状の頻度や程度を評価した結果、ADHD、ASDともに対面とオンラインで評価がほぼ一致。また、通院時間と病院での待ち時間を計97分程度短縮できるとの推計結果も出ました。
保護者から「通院が大変なので、オンラインで診てもらえたら非常に助かる」との声が多かったといいます。研究に当たった慶応大学の岸本泰士郎特任教授は「小児のADHDやASDは、なかなか専門医にかかれないのが大きな問題だ。オンライン診療が保険で認められれば、医師や保護者が安心して活用できる」と話しました。
◆小魚食べて死亡リスク減
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シシャモやシラスといった小魚を食べる女性は、ほとんど食べない人に比べ、死亡リスクが低いとの研究結果を名古屋大学、佐賀大学などのチームが専門誌「パブリック・ヘルス・ニュートリション」(5月3日付)に発表しました。
チームは国内に住む約8万人を平均9年間追跡したところ約2500人が死亡したとの疫学調査から、小魚の摂取頻度と死亡との関係を分析しました。その結果、ほとんど食べない女性に比べ、月に1~3回以上食べる女性は死亡リスクが約3割低かったのです。男性は顕著な差が見られませんでした。
一般的な魚の影響を除外しても同様の結果だったとして、チームは「頭や内臓、骨を丸ごと食べる小魚の栄養素が死亡リスクの低減に関係している可能性がある」と指摘しています。