たばこは、絶対に吸わないこと。
〈医療〉 COPD(慢性閉塞性肺疾患)2024年6月24日
- 喫煙で起こる“肺”の生活習慣病
- 禁煙治療で余命を延ばそう
日本人の死因の上位を占める「生活習慣病」。今回は、肺に生じる「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」について長年、研究・啓発に取り組み、診療ガイドラインの作成にも携わった、国立病院機構和歌山病院の南方良章院長に聞きました。
症状
“動いた時”に
息切れや咳が
――COPDとは?
“肺の生活習慣病”といわれます。長年の喫煙を主な原因として、気管支の内側が狭まったり(気流閉塞)、肺胞が壊れて肺の収縮力が低下したりして、通る空気量が減る炎症性疾患です。階段や坂を上る時に「息切れ」「咳」「痰が絡む」などの症状が現れます。多くは体重も減ります。
動かなければ症状は治まるため、患者は次第に運動しなくなります。
――健康寿命が縮まるのではないですか。
はい。それだけでなく、「肺がん」「ぜんそく」「心血管疾患」「糖尿病」「骨粗しょう症」といった合併症のリスクが高まります。循環器の病がCOPDに併発すると、死亡率はかなり高くなります。
――肺以外で、なぜ合併症が起こるのですか。
気管支が閉塞する際に生まれた、炎症を起こすサイトカイン(ホルモンの一種)が、血流を通し、全身に悪影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
――喫煙以外で、COPDの原因はありますか。
海外では暖炉の煙や排気ガスで発症するケースも少なくありませんが、日本ではほぼ喫煙が原因です。受動喫煙が原因だと思われる家族は、まれにいます。
診断
肺機能の検査
吐ける息が減少
――診断は?
肺機能の検査を行います。限界まで吸い込んだ空気のうち、1秒間に吐き出せる量(1秒量)が7割未満なら、COPDが疑われます。その上で、ぜんそくなど他の疾患の有無を確認し、診断します。
また、1秒量を正常値と比較することで、重症度をⅠ期(軽度)、Ⅱ期(中等症)、Ⅲ期(重症)、Ⅳ期(最重症)に分けます。Ⅳ期は、日常生活が極端に制限され、酸素吸入を必要とする場合もあります。
人間の肺の機能は、25歳前後をピークとして“緩やか”に低下します(別掲グラフ)。非喫煙者の1秒量が、生きている間にⅠ期(軽度)より悪くなることは、ぜんそくなどを患った人以外では、ほぼありません。
一方、喫煙者は多くが生きている間にⅠ期に達し、その後も速いペースで肺機能が低下します。なお、発症しない喫煙者もいます。体質の遺伝などが理由として考えられています。
喫煙者の肺機能低下と禁煙の効果
(Fletcher C,Peto R et al:BMJ 1 1645-1648,1977)
治療
禁煙が効果大
気管支拡張薬も
最大の治療法は禁煙です。「手持ち無沙汰」「口寂しい」ために吸ってしまう習慣は、意識を変える認知行動療法でコントロールします。ニコチン中毒に陥っていれば、ニコチンパッチを張って中毒を抑えます。
――禁煙以外の治療は?
薬物療法として気管支拡張薬などを吸入します。軽度でも、苦しかった呼吸が改善された分、QOL(生活の質)は上がります。
「呼吸リハビリ」という治療法もあります。呼吸機能の低下で、肺周囲の筋肉は凝り固まっています。専門医の指導の下、凝りのほぐし方や、姿勢の矯正、呼吸法などを身に付け、息苦しさを軽減します。ただし、外来で実施している施設は多くありません。
散歩などの“身体活動”を日々、行うのも効果的です。筋肉から、炎症を引き起こすサイトカインを抑える物質が分泌されており、歩行が、筋肉の多くを占める下半身を鍛えるからだともいわれています。
患者
高齢喫煙者の
約半数に発症
――喫煙率は下がっていますが、患者数は減っていますか。
いいえ、世界でも日本でも患者は増えており、40代以降の罹患率は約1割です。発症は、20~30年といった“長年”の喫煙の結果です。喫煙実態が発症数に影響を与えるのは約30年後で、今の患者数は、30年前の喫煙実態の反映だと考えられています。
患者数は男性が多く、国内で500万人以上と推測されています。高齢になるほど罹患率は増え、高齢の喫煙者では約半数に発症します。
ただし、治療を受けている人は約22万人。5%にも達していません。
――なぜでしょうか。
息切れや痰などの症状を病でなく、「加齢のせい」と捉えていたり、「肺機能は戻せないから、治療の意味がない」と考えていたりするからだと思われます。
確かに、壊れた肺の機能は戻りません。しかし、気管支拡張薬の服用や運動療法、とりわけ禁煙に取り組むと、生活が改善するだけでなく余命も延ばせます。
――機能が戻らなくても余命が延ばせるのですか。
はい。先のグラフ(別掲)のように、早く治療した分だけ、肺機能の低下ペースは緩くなります。
Ⅲ期、Ⅳ期に達する年齢を、先延ばしできるのです。
〈取材こぼれ話〉CM効果?
COPDの患者が日常的に身体活動を行う治療効果を研究している南方先生。テレビ視聴など、じっとしている時間が長いと、せっかく散歩をしていても効果が下がるという。
「オススメは、CMのたびに立ち上がって足踏みすること。“立ち上がり”という動作は、2~3歩、歩くよりも筋肉への負荷が高いんです」
別の生活習慣病の調査(海外)では、患者がテレビを90分見る中で、CMのたびに立ち上がり、足踏みなどを促すと、30分歩くのと同等の歩数を稼げたという。人は立ち上がると、つい何やかやと歩いてしまうらしい。
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「動くと呼吸が苦しい→動かなくなる→筋肉が落ちる→さらに動かなくなる」という悪循環に陥りがちなCOPD。CMの間に立つことで、その悪循環を断つきっかけにしてはいかがでしょうか。