〈健康PLUS〉 腸を整えて夏を元気に【生活編】
京都府立医科大学大学院 教授 内藤裕二さん

 間もなく夏本番! 暑さに負けず元気に過ごすため「腸」に気を使った生活習慣を心がけてみませんか。前回(6月15日付)に続き、京都府立医科大学大学院教授の内藤裕二さんに聞いた腸内かんきょうの整え方についてしょうかいします。 

夏バテとのうちょう相関

 暑さが本格化すると、ぐるしくなったり、しょくよくが低下したりし、体調をくずしやすくなります。夏の高温湿しつかんきょうに対応できない体の不調をそうしょうして「夏バテ」といいますが、腸内かんきょうの良しあしに直結する生活習慣が関係しています。 その理由の一つが、のうと腸がそうほうこうえいきょうおよぼし合っている「のうちょう相関」です。 のうからの指令が腸に伝わることは知られていましたが、近年の研究で、腸には独自の神経ネットワークがあり、そこで感知した情報ものうに伝達されていることが分かってきています。 仕事の重要な会議前や学校の入学試験など、きんちょうする場面でおなかがいたくなる経験をしたことがある人は少なくないはず。これはのうで感じたストレスが腸にえいきょうしているからです。 一方、便べんだとゆううつになります。便通が良好であってこそメンタルは安定します。これは腸の不調がのうえいきょうしているからです。 夏バテは「のうちょう相関のじょう」とも言えます。 のうが暑さによってストレスを感じると、腸の働きがにぶってしょくよくしんになったり、気味になったりします。 一方、多量のはっかんなどで腸に通う血流が減ると腸の働きは弱まります。すると、りつ神経はみだれ、私たちはだるさを感じてしまうのです。 

体内時計と腸

 もう一つ、健康をしていく点で大切なのが「体内時計と腸」の関係です。 人間の体は24時間のリズムで変化する外界のかんきょうに合わせ、すいみんや目覚め、りつ神経の働きやホルモンの分泌などの生理機能を一定の周期に調整しています。このリズムをつかさどっているのが体内時計です。 日中は活動的になり、夜はねむくなるという、当たり前のように感じる現象も体内時計のおかげです。 体内時計は、のうにある親時計(ちゅうすう時計)と腸などのぞうにある子時計(まっしょう時計)の2種類あります。そうほうともに、24時間にぴったりと合っているわけではなく、多少ずれています。個人差があるものの、約25時間周期で動いているといわれています。 心身の健康のためには、外界のリズム(24時間)に合わせる必要があり、“体内時計をリセット”する生活習慣が求められます。生活習慣のみだれが体の不調の原因となり、長く続けば、老化やフレイルを加速させることにもつながることは、こうした点からも明らかです。 体内時計のリセット方法は、のうにある親時計と、腸などにある子時計でちがいます。 親時計はしょう時に光を浴びることでリセットされますが、腸にある子時計は光ではリセットされず、朝食を取ることでリセットされます。 前回、しょくもつせんはっこう食品をしっかりとせっしゅすることが、腸内かんきょうかいぜんに重要であることをお伝えしましたが、「何を」食べるのかとともに、「いつ」食べるのかも重要です。朝食にこうした食品を積極的に取るよう心がけることが大切です。 

すいみんの質と運動

 さらに体内時計をくずさないためには「すいみんの質」も重要です。 自然なねむりをさそうホルモン「メラトニン」の分泌量が低下すれば、すいみんの質は落ちてしまいますが、このホルモンの生成に腸内さいきんが関わっています。腸内かんきょうが悪化し、腸内フローラ(さいきんそう)のバランスがくずれると、メラトニン量は減ってしまいます。 そのために「運動」が大切です。近年の研究で運動が腸内さいきんのバランスにいいえいきょうあたえていることが分かっています。 まずは、日常の中で活動量を増やすことを考えてみてください。例えば、スーパーで買い物をする際はカートを利用するのではなく、かごは持って買い物をしたり、つうきん時は1駅分多く歩いたりしてみてはいかがでしょうか。この他、腸内かんきょうかいぜんするための朝夜の生活習慣をしょうかいします。 

●腸によい朝の習慣●

①同じ時間に起きる

 しゅうしん時間がおそい日でも同じ時間に起きることが大切。起きる時間が毎日ちがうと体内時計がずれてすいみんリズムもくるいます。 

②朝日を浴びて1ぱいの水を飲む

 朝の光を浴びると、のうの体内時計はリセットされます。さらにしょう後の1ぱいの水で腸はげきされ、動き出します。冷たい水より、「常温の水」もしくは「さゆ」がおすすめです。 

③朝食は必ず食べる

 朝食も体内時計のリセットを助けます。ぜん動運動をうながし、便意を起こすスイッチになります。 

④決まった時間のトイレタイム

 便意がなくても、決まった時間にトイレに行く習慣をつくりましょう。朝、時間がなくて急いでしまうと、交感神経が一気に高まり、はい便べんにもえいきょうします。ゆうが持てる時間に起きて、朝の副交感神経がゆうなうちにはい便べんして、すっきり一日をスタートしましょう。 

●腸によい夜の習慣●

①夕方以降に軽い運動

 運動によって、適度なろうかんが生まれ、じゅくすいにつながるとともに、幸せホルモン「セロトニン」が増え、良いすいみんにつながります。 

②夕食は就寝3時間前まで

 すいみんに体内で消化活動が活発に行われていると、胃腸は休むことができず、すいみんの質は低下します。 

③入浴は湯船にかる

 リラックスすることでりつ神経は整います。入浴はシャワーでませず、ぬるめの湯船にゆっくりかると、リラックス効果が高まります。 

すいみんかんをしっかり確保

 すいみん不足により腸の働きは低下します。る直前までテレビを見ていたり、スマホをいじっていたりすると、つきが悪くなり、すいみん不足やすいみんの質の低下につながります。一方、る前に、首を温めてほぐすと、副交感神経の働きが高まり、すいみんにいいえいきょうあたえます。 

きん時間が不規則な方が気を付けたいポイント

 しんきんの方や、にっきんきんこうにされている方など、仕事によって生活リズムを一定にできない方もいらっしゃいます。 そういう方に、腸内かんきょうを整えるためにじっせんしていただきたいのが、「しゅうしん3時間前からは飲食をひかえる」ことです。 る時間や起きる時間が一定でなくても、ここを注意するだけで、健康にいいえいきょうあたえます。る前の暴飲暴食はもちろん厳禁です。 また、入浴時に湯船にかるなど、朝夜の「腸に良い習慣」をできるはんで生活に取り入れてください。   

 ないとう・ゆうじ 京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授。腸内微生物学・消化器病学・抗加齢医学が専門。酪酸産生菌と健康長寿の関係などの研究をはじめとした腸内細菌研究の第一人者。日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事。著書に『100年腸』(内外出版社)など多数。