突発性難聴
- 「前触れなく聞こえが悪くなる」
- 発症したら早めに受診を
朝起きたら、耳の聞こえが悪くなっていた……。代表的な難聴疾患である「突発性難聴」について、信州大学の工穣教授(耳鼻咽喉科頭頸部外科)に聞きました。
(PIXTA)
〈症状〉
耳の穴がふさがれたよう
――どのような病ですか。
病名の通り突然、聞こえが悪くなる疾患です。
耳の奥に異常が起きて発症する難聴で、多くは耳の穴がふさがれたように感じます。予兆もなく、突然発症するため、「朝、目が覚めて気付くような難聴」などといわれます。高音域の聞こえが悪くなるケースや、全音域の聞こえが悪くなるケースなどがあります。
片耳に起きることがほとんどで、両耳のケースは1%程度です。
「耳鳴り」「耳の違和感」を伴ったり、難聴の程度が軽く始まったりするケースもあります。
めまいを伴う場合もありますが、たいてい数日でめまいは治まります。痛みを伴うことはまれです。
――原因は何でしょうか。
原因は「循環不全説」「ウイルス感染説」など幾つかの説がありますが、確定したものはありません。
他の多くの病もそうですが、心身の「ストレス」は要因の一つだと考えられています。
〈診断〉
突然の難聴以外 特徴が少ない病
――診断は、どのようにするのでしょうか。
聴力検査と問診を行います。MRIなどの画像検査も行い、異常がない場合に、突発性難聴の可能性が高まります。
――どういうことですか。
実は突発性難聴は、「特徴がないことが特徴」とも言える病です。
例えば、MRIなどの画像検査で“異常”が見つかれば聴神経腫瘍などを疑います。症状に“強い痛み”があれば中耳炎、“両耳”に起これば髄膜炎というように、「特徴」があれば他の疾患の可能性が高くなります。
多くは、“突然、内耳に起こる難聴”という症状以外に大きな特徴がみられなかった場合に、「突発性難聴」の診断に至ります。
なお、片耳の聞こえが悪くなる病のうち、約半数が突発性難聴と報告されています。
――患者はどれくらいいるのでしょうか。
2001年の調査では、全国で約3万5000人の患者がいると推定されています。
50~60代に比較的多く発症しますが、10代以前や80代以降でも発症します。
男女差はありません。
近年、若い年代の患者も増えています。一因として、イヤホンによる“耳のストレス”の増加が挙げられることもあります。
〈治療〉
ステロイド薬を内服や点滴で
――どのように治療するのでしょう。
ステロイド薬を全身投与します。内服と点滴が基本ですが、効果が低い場合は、耳の奥(鼓室)に注射で注入します。投与期間は、重症度によって差はありますが、たいてい1週間ほどです。重い副作用はほぼ起こりません。血管拡張薬などを投与する場合もあります。他に「高気圧酸素療法」などもありますが、効果がそこまであるとは言えません。
――入院もありますか。
治療中は安静が望ましいため、入院ができれば、それに越したことはありませんが、通院で治療する方も多いと思います。
治療による効果については、3分の1は治り、3分の1は軽くなった上で症状が残り、3分の1が治らないという報告があります。
〈予防〉
免疫力向上は抑止力に
――予防はできますか。
原因も、発症しやすい人の傾向も明らかでないため、明確な予防法はありません。
他の多くの病にも言えますが、「ストレスの減少」「免疫力の向上」は、ある程度の抑止力につながると考えられます。その上で、突発性難聴は、発症から治療の“開始”までに期間が空いてしまうと、その後の治療効果が上がらないため、早期治療が望まれます。
また、「耳の違和感」といった軽症から始まり、数日かけて症状が悪化するケースもあります。
耳の聞こえなどが“おかしいな”と感じたら、軽視せずに耳鼻咽喉科を受診してください。
〈取材こぼれ話〉 耳のストレス
突発性難聴とは別の、“音”が原因で発症する難聴がある。
例えば「騒音性難聴」。工場など、日頃から浴びる騒音でじわじわ進行する。「その多くは仕事環境が原因の、いわば“職業病”です」
他にも、コンサートのスピーカー近くで受ける大音響や、爆発音を浴びて起こる急性の「音響外傷」。「ドーン!と大きな音を聞くと、1回でかかってしまいます」
その上で、と工先生が警鐘を鳴らした。「いわゆる“ヘッドホン(イヤホン)難聴”が、若い人を中心に増えています」。大音量をイヤホンで聞くことでかかる難聴を指す俗称だ。世界保健機関(WHO)も、若者(※)の半数近くが、危険なレベルの音にさらされていると警告している。
これは、「騒音性難聴」「音響外傷」のどちらの難聴に当たるのだろうか。
「両方です。日常的に大きな音を聞き続ける『騒音性難聴』の方が多いと思いますが、一度に爆音を浴びる『音響外傷』の難聴も起きています」「耳にストレスを与える危険性を、特に若い人に知ってほしいですね」
◇
ヘッドホン難聴は、聴力を支える耳奥の「有毛細胞」が、騒音で傷付くことで引き起こされる。一度傷付いたヒトの有毛細胞は、再生しないという。
人知れず、QOL(生活の質)を下支えする聴力。耳のストレスを減らそうという耳の痛い警鐘に、ぜひ耳を傾けてほしい。(聡)
※中・高所得国の12~35歳