〈健康PLUS〉 食後の強いねむ、「とうしつろう」かも

北里研究所病院 とう尿にょう病センター長
山田さとるさん

 食事の後、強いねむやだるさにおそわれていませんか。それはとうしつの取り過ぎが原因かもしれません。ゆるやかなとうしつ制限「ロカボ」という言葉の生みの親であり、『とうしつろう』(サンマーク出版)のちょしゃである北里研究所病院・副院長、とう尿にょう病センター長の山田さとるさんに聞きました。
 
 

《こんなしょうじょうありませんか》

・食後にねむい、だるい、集中力が持たない、イライラする
・食べた量のわりにはすぐばらがすく
・上記のしょうじょうを自覚せずとも周囲からてきされる
・食後けっとうが140㎎/㎗以上
 
 
 

けっとうらんこう

 昼食後、仕事のパフォーマンスが低下するほどの強いねむけんたい感におそわれる。イライラする。しっかり食べたはずなのにすぐばらがすく。首の後ろが重くなる――社会人やアスリートの方で、このようなしょうじょうが増えていることに気付き、不快しょうじょうをまとめて「とうしつろう」と名付けました。
 当然、食後のねむおそわれるのは、過労やすいみん不足などが原因の場合もありえます。しかし、食後2~3時間にはげしいねむけんたい感などが続く場合、「とうしつろう」におちいっている可能性があります。
 この原因は、とうしつの取り過ぎによる「食後こうけっとう」と「けっとうスパイク」です。
 食後1~2時間のけっとうが140㎎/㎗以上になると「食後こうけっとう」と判断します。けっとうが急じょうしょうすると、反動でインスリンというホルモンがじょうに分泌され、けっとうが急こうします。急じょうしょう・急こうする様を「けっとうスパイク」とびます。
 急こうする時、「このままだとていけっとうになるかもしれない」ということがけん信号としてのうに伝わります。するとのうは、実際にはていけっとうでないにもかかわらず、体を休めさせようとしてねむを感じさせたり、くうふく感を自覚させたりするのです。これが「とうしつろう」の正体です。
 けんこうしんだんで「くうふくけっとう」が110㎎/㎗以上となると、けっとうじょうてきされます。その10年ほど前から食後こうけっとうけっとうスパイクが生じているといわれています。
 「とうしつろう」を放置しておくと、ドミノたおしのようにとう尿にょう病、高血圧しょうしつじょうしょう、肥満などにいたおそれがあります。

 食後こうけっとうで血液中にあふれたとうしつがタンパク質と結合(とう)すると、はだのシミやしわなどの全身の老化、はくないしょうなどの目の病気、じんのうの低下などにつながると考えられています。
 けっとうスパイクがくり返されることで、体内で活性酸素が発生し、血管がきずけられて動脈こうが進行し、しんきんこうそくのうこうそくはっしょうするリスクが高まります。また、にん機能が低下することも報告されているのです。
 
 

食生活をふうする

 「とうしつろう」をかいぜんするには、食生活をふうすることが重要です。具体的には、とうしつひかえめにして、しつとタンパク質をまんぷくになるまで食べましょう。
 しつとタンパク質は、とうしつ以上にまんぷくちゅうすうげきするため、満足感が得られやすいといわれます。そのため、いっぱん的なカロリー制限よりもけいぞくしやすくなります。私は、このゆるやかなとうしつ制限を「ロカボ」と名付け、すいしょうしています(べっけいに食事例)。
 しつけっとうじょうしょうよくせいする働きがあり、しつせっしゅする量が多い人ほど、血中の中性ぼうが低いという報告もあります。マヨネーズや、バター(できれば無塩)は何にでも使いやすいのでオススメです。個人的にはごま油やオリーブ油、ラー油も好きです。ただし、古い油やトランスぼう酸などの人工的な油はけてください。油が苦手な方は、肉や魚、ナッツやチーズなど、食品から取るようにしましょう。
 タンパク質も、食後のけっとうじょうしょうにブレーキをかける効果があります。きんにく量をして元気で長生きするためにも、積極的に取ってほしいと思います。
 食べる順番も大切です。先にしつとタンパク質を食べ、最後にとうしつを食べる「カーボラスト」を心がけましょう。とうしつに手を付けるのは、一口目から20分後こうすいしょうしています。一食だけでも意識してみてください。また、運動を行うことで、体内でとうさいぼうに取りまれ、けっとうが低下します。食後15分散歩することから始めてみましょう。
 とうしつろうになりやすい人は、いわゆる“とう尿にょうけい”の方だけではありません。運動習慣があってスリムな体形でも、35歳以上で、だんからしつひかえ、スポーツドリンクやスムージーなどとうしつが多い物を好む方は要注意です。
 「とうしつろう」を感じている方は、一日も早くかいぜんに取り組んでほしいと思います。
 
 
 

食後けっとうを調べよう

 食後けっとういっぱん的なけんこうしんだんでは分かりません。自分で測定する方法を二つしょうかいします。
 一つは、薬局やドラッグストアで測定する方法です。検体測定室(ゆびさきセルフ測定室)が設置されていて、検査こうもくに「けっとう」があるてんで検査できます。料金は500円程度。測定前の食事は、おにぎり2個と野菜ジュース1本で、一口目から1時間後に測定してください。ただし、混み合ってすぐ検査できない場合もあります。事前にてんに問い合わせてください。140㎎/㎗以上だと食後こうけっとう、200㎎/㎗以上はとう尿にょう病の基準を満たすため、りょう機関をじゅしんしましょう。
 もう一つは、けっとう測定器を使用する方法です。高度管理りょう機器はんばい資格のある薬局やドラッグストアでこうにゅうできます。最近では、血液を採らずに測定できるりょう機器も出ています。「とうしつろうかも」と感じる方は測定してみてください。
 
 
 

●検体測定室(ゆびさきセルフ測定室)はこちらから
https://navi.yubisaki.org/map/
 
 
 

 けっとう測定器「Free Style リブレ」(Abbott)。じょうわんうらがわに小さなはりの付いたセンサーをけ、スマートフォンのアプリでけっとうを2週間調べることができる。いたみは全くない。付けたまま入浴や運動もできる。価格は7000円程度。

《ロカボの食事例》

 とうしつは毎食20~40g、おやつで1日10gせっしゅする。とうしつ40gは、半ぜんのご飯、おにぎりなら1個程度に相当。実際の食事では、めんなら半玉、食パンは8まい切り1まいだと、おかず(野菜)のとうしつ量をふくめてもとうしつ40gにおさまる。
 みそやしょうゆの味付けがいと、ご飯などのとうしつを食べ過ぎるため、できるだけえんぶんひかえめに。マヨネーズやごま油など油での味付けを意識する。
 外食の際は、ご飯半ぜんにして冷ややっこやからげといった低とうしつばちを1品、2品追加する。
 
 
 

〈朝食〉

 ・8まい切りの食パン1まい(バターたっぷり)、チーズオムレツ、とうヨーグルト、ナッツ、コーヒー

 ・焼き魚、ご飯半ぜん、オイルをしっかりらしたみそしるなっとう、ツナサラダ(ドレッシングたっぷり。ノンオイルはNG)

 朝は最もけっとうが上がりやすい。しつとタンパク質をしっかり取ることで、一日中けっとうが上がりにくくなる。果物のスムージーのみはNG。
 
 
 

〈昼食・夕食〉

からげ定食(マヨネーズたっぷり)、ご飯半ぜんばち1品追加

・牛皿、たまご、ご飯半ぜん、冷ややっこ、みそしる

・ハンバーガー(パテとチーズを2倍)、とうのドリンク、チキンナゲット(ポテトはける)
 
・ステーキ、サラダ(ドレッシングたっぷり)、ご飯半ぜん、みそしる

・お好み焼き(ぶたにく、チーズ、マヨネーズたっぷり、ソースひかえめ)

・カルボナーラ(チーズたっぷり)

 とろろそば、ラーメン・ライスセット、おにぎりと野菜ジュースなど、とうしつかぶせのメニューはNG。カレーライスは、ご飯・ルー・ジャガイモのとうしつトリプルになるので要注意。
 
 
 

〈おやつ〉

・ミックスナッツやチーズ
・板チョコ1/3まい
・ファミリーパックのアイス1個
・「ロカボ」マークの入ったお

 商品の成分表示の「とうしつ」量をかくにんする。とうしつさいがない場合は、「炭水化物」量が指標になる。
 
 
 

 やまだ・さとる 医学博士。慶應義塾大学医学部卒業。北里大学北里研究所病院・副院長、糖尿病センター長。糖質制限のトップドクターとして糖質制限食を積極的に糖尿病治療に取り入れている。糖質制限「ロカボ」の提唱者。『図解 炭水化物の話』(日本文芸社)など著書多数。
 
 
 

山田さん近著『糖質疲労』
 
 
 

イメージ写真はPIXTA