〈健康PLUS〉
保健学博士 島田恭子さん
春は入社や異動など、さまざまな変化が訪れる時季。新たな日々に期待が膨らむ一方、不安や緊張を感じることもあるでしょう。今回は、保健学博士で、ココロバランス研究所代表理事の島田恭子さんに、環境の変化に対して不安になる理由や、その対策について聞きました。
〈ポイント〉
① 過去や未来でなく「今」を意識
② “休息モード”でリラックス
③ 違う視点で自分自身を見つめる
予測できない怖さ
環境が変わる時、人はなぜ不安になるのでしょうか。
原因の一つは、「分からない」「知らない」ことに対する怖さがあるからです。予測可能性という言葉がありますが、箱の中に入っている見えないものを触るのは、見えているものよりも、格段に大きな抵抗を感じるものです。これは予測できないものに対してより大きなストレスを感じているんですね。
そんな、先の見えない不安を感じる時、オススメしたいのは気持ちを、「今」に向けることです。
今この瞬間の自分の体や心に意識を向けることをマインドフルネスと呼びます。「今の自分の心を観察し、気付く」といった意味で、最近よく耳にするようになりました。呼吸や瞑想のイメージがあるマインドフルネスですが、食べ物を味わうことや、運動、読書、料理など日常生活の中でも、一つ一つ“今ここ”に集中するクセをつけることで、心を落ち着かせることができます。
また、現代社会はどうしても、友人や同僚を競争相手と捉えたり、SNSで他人と自分を比べたりしがち。常に周りを気にして、疲れてしまう方も増えています。だからこそ、外ばかりでなく、自分の内(体や気持ち)に目を向けてあげることも大切です。
心のバランスが崩れると、心身にさまざまな影響が出てきます。別掲のチェックリストを参考に、“いつもの自分と違うな”と感じられることが、心身の健康を取り戻す第一歩になりますよ。
○●チェックリスト●○
こんな時は要注意
□楽しんでいたことができなくなる
□なんとなくうつうつとする
□イライラや不安感がある
□たばこやアルコールが増える
□食べ過ぎや食欲不振がある
□買い物し過ぎる
□ギャンブルにのめり込む
□よく眠れない
□頭が重い。頭痛がする
□体の節々が痛む
□便秘や下痢、腹痛がよくある
(米国国立労働安全衛生研究所「職業性ストレスモデル」を基に作成)
自律神経を整える
私たちの体内にある自律神経には、体を“活動モード”にする交感神経と、“休息モード”にする副交感神経があり、通常は両方がバランスよく保たれています。しかし、人間関係の悩みや不安による精神的ストレスなどが過剰になると、バランスが乱れてしまいます。とかく現代は交感神経優位の活動モードが続く環境になりがちです。スマホの普及による過活動、満員電車や渋滞、時間に追われた生活。そんな日々には“休息モード”が必要でしょう。
仕事の合間などに温かいお茶を飲んで一息つく。休憩時間に仮眠を取ったり、体操したりしてリフレッシュする。帰宅したらお風呂に漬かるなど、副交感神経が優位になるような行動から始めてみましょう。
規則正しい生活を
寝不足や不規則な食生活など、身体的ストレスも心の不調につながります。規則正しい生活――食事、睡眠、運動を心がけましょう。
中でも、栄養バランスの良い食事は大切です。ストレスが多くなると暴飲暴食になったり、落ち込んだ時に食欲不振になったり、食事とメンタルの関係は密接です。
適度な運動はセロトニン(幸せホルモン)を増やし、脳を活性化させるので、ぜひ生活の中に取り入れたいものです。オススメは朝散歩。毎朝、同じ時間に起きて朝日を浴びることで、体内時計がリセットされ、良質な睡眠の確保にもつながります。通勤時にほとんど歩かない方や、在宅ワークなどで一日家にいる方は朝散歩、ぜひ試してみてください。
アーシングの効果
心の安定にとって、自然との触れ合いも大切です。
例えば、リラックス状態を示す副交感神経の活動が、森林の中では都市部に比べて、1・5倍程度まで増加することが分かっています。また、ストレスホルモンも都市部に比べ、10%以上も下がるとの結果もあります。
素足や素肌で芝生や土などに触れたり、海や川の水に手足を浸したりする「アーシング」にも、リラックスして、心が安定する効果があるとされています。
私がアドバイザリーを務める企業では、5人以上集まって自然の中でランチをしたら、昼食代の助成金が出るという取り組みをしています。自然の中で心も解放でき、仲間とのコミュニケーションも生まれ、散歩にもなる“一石三鳥”の取り組みです。
楽観的に捉える
新たな環境では、「頑張るぞ!」と意気込む人が多いと思います。一方、周りからの評価や視線が気になり、“完璧主義”になりがちです。完璧を目指して理想通りにいかないと、自己嫌悪に陥ったり、うつうつとしてしまったりするものです。
そんな時、大切なのは楽観性です。ここで、考え方をプラスに変える「リフレーミング」を紹介します。考え方、捉え方のフレーム(枠)を変えて別の視点を持つことが「リフレーミング」。「半分の水を『半分しかない』か、『半分もある』と思うかで全く違う」という例えは、よく耳にしますね。
やり方は簡単です。試しに、自分の特徴でネガティブな部分を書き出し、それらを言い換えてみましょう(別掲)。
ただ、“いつでも何でもポジティブに!”を推奨しているわけではありません。何事にも、“バランス”が必要であるように、怒りや悲しみをありのまま感じることが必要な時もあります。家で閉じこもりたいこともあるでしょう。ただ、環境の変化など不安で心が押しつぶされそうになった時にこそ、こんな簡単な手法が解決の糸口になり得るということを、知っていただければ幸いです。
◇◆リフレーミングしてみよう◆◇
下記を参考に、リフレーミングしてみましょう。
まず、左側に自分の苦手なことや短所など、ネガティブな要素を書き出します。右側には、ポジティブに言い換えた言葉を書き出してみましょう。
一人で考えるだけでなく、家族や友人とお互いに出し合ってみてもいいかもしれません。
自信がない → 謙虚である
偉そう → 自分に自信がある
遅刻しがち → 自由人。よく寝て健康
友達に頼りがち → 信頼できる友達が多い
金遣いが荒い → 経済に貢献している
モテない → 見えない魅力。個性的
すぐ怒る → 反応がいい
しまだ・きょうこ 保健学博士。一般社団法人ココロバランス研究所代表理事。東洋大学非常勤講師・客員研究員。企業での人材育成の経験から、心の健康・予防の重要性を感じ、東京大学大学院医学系研究科で、予防医学・メンタルへルスを研究。病気になってしまう前に、心の元気を取り戻すさまざまな取り組みを行っている。
イメージ写真:PIXTA