まんせいこうまくけっしゅ

  • にんしょうと似たしょうじょうの病
  • 頭を打った数カ月後にはっしょう

 にんしょうしょうじょうが似ていますが、病名はあまり知られていない「まんせいこうまくけっしゅ」。頭を軽く打った後に、じわじわと進行するというこの病について、広島大学の堀江のぶたか教授(のうしんけい)に聞きました。
 

原因
のうの表面に血がじわじわと流入

 ――どういった病気なのでしょう。

 軽く頭を打ったことを主な原因として、数週間から数カ月後に、次のようなしょうじょうが現れます。
 ・ふらつく、よろける
 ・にん機能が下がる
 ・反応がにぶくなる
 ・尿にょう失禁する
 重い場合は、体のかたがわにまひが出ることもあります。

 ――なぜ長い期間がたってから現れるのでしょう。

 がいこつの下にあるのうは、「こうまく」というまくおおわれています。しかし、頭を打った際にこうまくがれたり、のうの表面との間に“すき”ができたりして、きずついたのうの細い血管からにじむなどの出血が起きます。
 血液がすきにたまっていくと、やがて“けっしゅ”というかたまりとなってのうを表面からあっぱくし、数カ月後にしょうじょうが現れます。

 
かんじゃ
こうけっせん薬の服用者に多い

 ――どのような方に多くはっしょうするのでしょうか。

 この病は、こうれいしゃに多くはっしょうします。理由として、れいによってのうしゅくするために、すでにすきがあったり、できやすかったりするからだと考えられています。
 のうこうそくしんぞうしっかんなどをかかえているため、血液をサラサラにする「こうけっせん薬」を服用している方は、出血が止まりにくいため、はっしょうのリスクが高くなります。

 ――どのように頭を打った時に起こるのでしょう。

 「転んで頭を打った」「家具に頭をぶつけた」などさまざまです。打ったのが数カ月前ということもあり、覚えていなかったり、もんしんで聞かれてやっと思い出したり、あるいは思い出せなかったりといったけいなことがほとんどです。
 なお、酒をよく飲む人にも多く起きるしっかんです。アルコールとの因果関係は明らかではありませんが、酒を飲む人の方が、てんとうなどして頭を打つことが多いからだと考えられています。
 

りょう
けっしゅのぞくとしょうじょうは治まる

 ――しんだんはどのように行いますか。

 CTやMRIなどの画像検査をおこなって、のうこうまくの間にできたすきけっしゅかくにんして、しんだんを確定します。
 しょうじょうけっしゅの大きさなどを判断して、手術を行うかどうかを判断します。
 手術では頭に小さなあなを開け、けっしゅきゅういんして、のうへのあっぱくのぞきます。多くは局所すいで行うかくてきシンプルな手術で、がっぺいしょうなどのリスクはけられないものの、効果はてきめんです。
 ほとんどのかんじゃは、早ければよくじつ、ふらつきやにん機能の低下などのしょうじょうが治まります。そのため、この病気は“治るにんしょう”とばれることもあります。
 なお、すきに入った血液の量が自然に減ったり、量が少ないまま増えなかったりする方には、手術をせずに止血ざいや「れいさん」を使用して経過観察をするケースもあります。
 れいさんは、けっしゅを小さくする効果がある漢方の飲み薬です。
 

再発
はっしょうかえなん性のかんじゃ

 ――再発はありますか。

 約1割のかんじゃに再発が起こります。「こうけっせん薬」を飲んでいるかんじゃの中には、何度もかえはっしょうする“なん性”の方も多くおります。

 ――なん性……。

 近年は、カテーテル(細い管)を使ってのうの血管にぶつを送り、中をめてしまう手術が、なん性のかんじゃに効果があることが分かってきました。まっしょうの細い血管なので、めることによるけんはありません。

 ――にんしょうと見分けがつきますか。

 多くのにんしょうは年単位でしょうじょうが進行しますが、この病は、数週間や数カ月という短期間にしょうじょうが進みます。とはいえ、主なしょうじょうはほぼ変わらないため、いっぱんの方が見分けるのはむずかしいと思います。
 ただ、にん機能が下がると、たいていの方は病院をじゅしんします。病院では、原因をかくにんするために必ずCTなどの画像検査を行いますので、そこでしんだんできます。

 ――頭を打って間もない無しょうじょう期のしんさつの場合は?

 まだけっしゅができる時期ではないため、検査でじょうがなくても、数カ月後に必ずさいしんするようにお伝えします。本人のみならず、ご家族も心配ですから、たいていはさいしんされます。
 こうれいこうけっせん薬を常用する方が増えています。それにともない、なん性をふくまんせいこうまくけっしゅかんじゃも増えております。
 急にものわすれが多くなった方で、頭を打ったこと自体をわすれているケースもあります。気になる方は、神経内科やのうしんけいなどをじゅしんしてはいかがでしょうか。

文中イラストは監修:市立四日市病院 脳神経内科 医長 石原哲郎