〈SDGs×SEIKYO〉はいぶつしょから考える地球

8:35

 香川県あやがわちょうに本社を置き、さんぎょうはいぶつしょぎょうで県内トップクラスの事業ほこる「かぶしきがいしゃ富士クリーン」。代表とりしまりやくいちろうさん(41)=男子地区リーダー=は、SDGsエスディージーズかかげるさまざまな目標にこうけんする事業の中でも、「廃棄物」を通じて伝えたいものがありました。(今回はSDGsの7番目の目標「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」について考えます。取材=石塚哲也、綿谷満久)

この記事のテーマは「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」

 ごみ、だいごみ、がらでい、ふん尿にょう――こうしたものは全て「はいぶつ」に分類される。馬場さんが経営する「富士クリーン」では、2018年、廃棄物からバイオガスを生成するさいしんえいせつを、国内で初めてどうさせた。生成したバイオガスを電気とじょうへんかんし、しゃおくで活用するとともに、しき内にある水しょ施設のだいたい燃料として利用している。

 これまでに5000人以上の業界関係者が見学におとずれた。馬場さんは教育機関や社員の家族、地域住民にも来てほしいと、いっぱんからの見学も受け付け、自ら説明に立つこともある。

 「かんきょうについて学ぶ機会は増えましたが、それに比べると、産業廃棄物処理について教えているところは少ない。だからこそ、地域の未来をになっていく子どもたちに、いの一番に見てもらいたいと思っています」

産業廃棄物処理の流れなどを解説したパネル。従業員の有志らが作成した

産業廃棄物処理の流れなどを解説したパネル。従業員の有志らが作成した

 「富士クリーン」は、農家を営んでいた父・かずさん(72)=支部壮年長=が1975年にそうぎょうした。仕事で地域にくす父と、家族のように身近なじゅうぎょういんたちに囲まれて育った。

 大学卒業後、貿易会社を経て、同社にしゅうしょくしたが、2代目という「約束されたレール」の上を歩むことに、いつしかもうわけなさを感じるようになった。仕事にりょくを感じる一方で、このまま年を重ねても“役に立てない気”がした。

 「会社にこうけんできるちからを付けたい。その一心で留学を決意しました」

県内から収集された廃棄物の前に立つ馬場さん

県内から収集された廃棄物の前に立つ馬場さん

 26歳でべい。留学先のサンフランシスコで語学学校にかよい、ビジネススクールに進学する。文化のちがいや言葉のかべに直面。差別を受けたこともあった。

 げき的な毎日の出来事一つ一つに“意味”を見いだすきっかけをつくってくれたのが創価学会の活動だった。

 会合ではなやみや目標、その結果を共有した。一人一人の考えにみみかたむけ、“どうすればゴールに近づけるか”と意見こうかんすることが、馬場さんにとって「学びと成長」につながった。

 2年後にはMBA(経営学修士)を取得し、米国資本のメガバンクの銀行員として世界中を飛び回るようになった。いつかは日本に戻ろうと思っていたが、けいとなったのは思わぬ出来事だった。

 真冬のニューヨーク。
 きん先の本社ビルの入り口で意識のないホームレスが横たわっていた。自分もふくめて、だれも手をべようとはしない。不意にだつりょく感におそわれ、きょうの会社のじゅうぎょういんたちの顔がかんだ。

 “アメリカでやるべきことは終わった”

 身に付けた力で、父やかつてのどうりょうに恩返しをしようと決めた。
  

 2016年、香川に戻り、経営かいかくに着手した。父のことを心からそんけいしつつも、トップダウンの手法は時代にそぐわないと感じた。

 広く社員の声を聞き、さくに生かした。ある女性社員は、こう語った。
 「瀬戸内海から香川を見るたびに“私はこの景色を守っているんだ”というほこりがいてくるんです」

 その声を聞いた時、馬場さんは大きな確信と自信を持つことができた。

 産業廃棄物処理業は人間が生活する上で、なくてはならないそんざい。しかし、かつては“ごみをあつかきたない仕事”というへんけんがあった。

 そんな仕事を“地域のため”“みんなのため”にと地域住民をたずね、理解を得てきた父。そしてその仕事をさらに香川のため、日本のためにとはってんさせてきた馬場さん。

 「今ちょうせんしていることは、『環境教育』です。地球のために、廃棄物のことを考えるきっかけとして、人の心に“環境を守る”という種をまきたい。それを世界平和を願う仏法者としての私の使命としていきたいんです」

 21年、だいひょうとりしまりやくとなり、2代目として、馬場さんは力強く歩みを進める。

 SDGsエスディージーズの達成のためには「0から1をつくり出し、増やし続けてきたこれまでの生活を見直すことが必要なのかもしれない」。それは増えてしまったモノの“て方”を考えることでもある。

 「目の前の“1”がおよぼすえいきょうまえて、現状を知ることから始まると思うんです」

 常に一歩先を見つめる、馬場さんの挑戦は続く。