天国へ届け  「ベルセルク」他  漫画界を変えたダーク・ファンタジーの帝王  三浦建太郎さん死去 | 20世紀漫画少年記

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2021年5月20日に白泉社の公式サイトと『ベルセルク』公式Twitterで『ベルセルク』などの人気作品で知られる漫画家の三浦建太郎氏が、5月6日14時48分に急性大動脈解離で亡くなられたことが伝えられた。享年54歳。あまりにも早すぎる死だった。

 

 

 

 

 

三浦建太郎氏は1966年7月11日生まれ。千葉県出身。三浦建太郎はペンネームであり、本名は未公表。

 

日本大学芸術学部入学後、少年マガジン第34回新人漫画賞入選作となった『再び』(『』週刊少年マガジン1985年8月21日号/第36号掲載)とNOA』(『フレッシュマガジン』1985年第3号掲載)で商業誌デビューを果たした。

漫画家の技来静也氏(「セスタス」シリーズ)と森恒二氏(「ホーリーランド」他)とは高校の同級生であり、森氏とは大学も同じ学科だった。

1984年、漫画家の森川ジョージ氏(「はじめの一歩」)の元に臨時のアシスタントとして入るも既に実力を備えていると判断され1日で帰らされたという逸話もあった。

 

その森川氏は三浦氏の訃報に公式ツイッターでのツイートで追悼した。

 

 

 

 

1988年、大学在学中にプロトタイプの短編『ベルセルク』を『コミコミ』(白泉社)11月号に投稿し(『ベルセルク』単行本14巻に収録)、翌年の卒業後に本格的に漫画家として活動を始める。現在の『ヤングアニマル』(白泉社)の前身である『月刊アニマルハウス』にて『王狼』(原作・武論尊)『王狼伝』『ジャパン』を、並行して『ベルセルク』を連載開始した。

 

1992年以降は『ベルセルク』を『ヤングアニマル』で不定期に連載していた。同作品は1997年に『剣風伝奇ベルセルク』と題してテレビアニメ化された。他にもゲーム化、トレーディングカード化、劇場アニメ映画化、登場人物のフィギア化、登場物品などを含むグッズ販売などが行われている。2011年、本作のすべての物語を映像化することを目的とした「ベルセルク・サーガプロジェクト」の一環で「黄金時代編」を3部構成の劇場アニメとして製作することが発表され、2012年から2013年にかけて随時公開された。

映画3部作完結後はしばらく動きがなかったが、2015年12月25日にアニメ新プロジェクト」が立ち上がり、2016年7月から同年9月までテレビアニメ第2作が放送され、、2017年4月から6月までその第2期「次篇」が放送された。

 

緻密にして荘厳、繊細にして圧倒的な迫力のある画に加え、一大サーガと呼ぶにふさわしいスケール感のあるストーリーと壮大な世界観は日本国内のみならず世界中の漫画ファンの支持を集め、2002年には第6回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞。2018年でシリーズ累計発行部数は4000万部を記録した。

 

名作RPG『ドラゴンクエスト』シリーズのメガヒットから漫画界では「ファンタジー物はメジャーなジャンルとなった。それ以前にも『ピグマリオ』(和田慎二)等の作品があるようにジャンルとしては存在していたが人気ジャンルと言えなかった。

それが『ドラゴンクエスト』シリーズのメガヒットにより、「ファンタジー」は、それまで漫画界で人気ジャンルだった「SF作品」にとって代わるようになり、今では「ファンタジー」がメジャーになり、「SF作品」は逆にマイナーなジャンルになっていった。

 

どこの少年誌、児童誌にも「ファンタジー」作品が載るようになり、各出版社はファンタジー小説専用の文庫を創刊したり、ファンタジーを主力にした専門誌も創刊されるようになった。そして『BASTARD!!―暗黒の破壊神―』(萩原一至)のような名作も生まれていった。

 

しかし人間の心の奥深い闇に触れたようなダーク・ファンタジーは『ベルセルク』が初めてだった。

 

『ドラゴンクエスト』シリーズのメガヒットから人気ジャンルとなった為か、「ファンタジー」は明るいイメージの「ヒロイック・ファンタジー」が大半で、シリアスな作品でも人間の「負」の面に触れたようなものは無かった。掲載誌が青年誌ということを差し引いても、これは異色なことだった。作品をヒットさせたい出版社としては、どうしてもヒットさせるのが難しい暗い作品は敬遠する傾向があるからだ。それが『ベルセルク』のヒットにより、「ファンタジー」というジャンルには「ダーク・ファンタジー」が加わるようになった。

 

『ベルセルク』の成功が現在の『進撃の巨人』に代表されるダーク・ファンタジーの隆盛の礎になったと言っても過言ではないだろう。

 

また『ベルセルク』が他のファンタジー漫画と一線を画すのは、その圧倒的な画力から生みだされる「実物感」だった。中世ヨーロッパのような街並みと背景。剣を中心とした武器。騎士や傭兵が着る甲冑。その世界にある日用品にいたるまで、あちこちにあるファンタジー漫画と同じものを描きながら、『ベルセルク』に出てくる物は実際に存在したかのような「実物感」があった。

 

「アニマルハウス」休刊に伴い、掲載誌を「ヤングアニマル」に移行してから不定期ながらも連載は続いていたが長い休載が相次ぐようになっていた。元々、緻密な絵で執筆に時間がかかる上に近年はメディア展開で多忙になってしまったことが災いしたのかもしれない。

 

その為、三浦氏本人も「死ぬまでに頭の中の全てを出せるのか」と語っており(「ヤングアニマル」1999年12号)ファンからも「本当に完結できるのか」と危惧されていた。哀しいことにそれが現実の物となってしまった。2021年4月の「アニメイトタイム」で技来静也と対談した際に「これから畳もうかな」と、ストーリーが終盤に差し掛かっていることを示唆した発言をしていた矢先のことだった。

 

 

 

 

『ベルセルク』は永遠の「未完の大作」となってしまった。

 

アニマルハウス」時代から読んでいた私としても本当に残念でならない。

 

何よりも無念だったのは三浦氏本人だったろう。

 

ガッツとグリフィスはどのように決着をつけたのか。

  

絶望的な壁であるゴッド・ハンドを倒す手段は果たしてあったのか。  

 

そして髑髏の騎士の正体は。

 

それらはまさに永遠の謎になってしまった。

 

だが生前、三浦氏は「ベルセルクはハッピーエンドで終わる」と公言されていた。

 

主人公のガッツは死体となった女性から生まれ、その瞬間から苦痛と苦難に満ちた人生を送り続け、ようやく大事な存在を得たかと思えば、その存在を奪われ絶望し続けてきた。

 

そのガッツが最後は幸せになる予定だったのが唯一の救いかもしれない。

 

「絶望の中にも希望はある」

 

それが三浦氏が私たち読者に作品を通して教えてくれたメッセージのような気がしてならない。

 

 

三浦建太郎先生のご冥福を心よりお祈りいたします。