天国へ届け  「奴隷戦士マヤ」他 成年漫画の金字塔 このどんど(鴨下幸久)さん死去 | 20世紀漫画少年記

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 2019年4月13日、ツイッターで 1ROO”イチロ” 氏のツイートが反響を呼んだ。

 

https://twitter.com/1ROO_/status/1117075459496275969

 

「友達の漫画家が亡くなりました...。このどんとさん。10日から連絡つかなくて心配していたのですが、今日家まで行き、応答がなかったので、お隣さんに聞いた所、4月頭頃の夜に 警察が来て、亡くなったと、言ったそうです。今頃になって何で もっと遊びに行かなかったんだろう....と、後悔しています。 」

 

 このどんと 別PN 鴨下幸久  代表作「奴隷戦士マヤ」「トラブルトライアングル」「銀河英雄伝説(挿絵)」 

本名 非公開 生年月日 非公開 享年 不明

 

 2つのPNで多くの作品を描いてきた氏であるが、その名を知らしめたのはやはり代表作「奴隷戦士マヤ」であろう。

 

 

 1987年、大陸書房の「コミックチューリップ」にて連載されたこの作品は同誌の休刊に伴い単行本で一旦、終了するも、1990年代前半には掲載誌を渡り歩く形で「 雌伏編 」「 放浪編 」とシリーズが続いていくことになる。2000年に三和出版の「コミックアイラ」の創刊号にて新シリーズとして再スタートする予告が掲載されるも同誌に本作品が掲載されることはなかった。それ以降は同人誌にて「奴隷戦士マヤ 暗闘編」と題した新作が散発的に発表されていた。

 

 「奴隷戦士マヤ」ストーリー

「ヴァリゼリウス共和国連邦とゾル=ディアック帝国とが二分する異世界・ヴァルゼリウス銀河。普通の女子高生だったマヤは突然、共和国側の辺境にある惑星・エストリーダに飛ばされてしまう。奴隷にされた彼女は脱走を試み、その途中、謎の声に導かれて「ドルイドの剣」と呼ばれる剣を手にし、追っ手を撃退する。どうやら彼女は、共和国側からは伝説の救世主、帝国側からは大いなる脅威とされる「ドルイドの戦士」であるらしい。エストリーダは帝国にも内通しており、奴隷商人は領主や帝国に取り入るべく、マヤを再度捕え、「ドルイドの戦士」の力を封じるために両性具有の肉奴隷へと改造してしまう。 一方、共和国側も「ドルイドの戦士」の出現を察知し、ランスフォートの聖騎士・ゼオンと、「ドルイドの戦士」を見極められる唯一の存在である巫女のミランを、エストリーダへと派遣する。 日々、様々な調教を受け、肉奴隷としての完成に近づいていくマヤ。果たして、彼女は「ドルイドの戦士」として覚醒し世界を救うのか、それとも……。」

コミックスペース(https://comicspace.jp/title/49164)より

 

 主人公のマヤが異世界の惑星に飛ばされる設定は現在、流行りの異世界転生モノの走りと言えるし、奴隷となったマヤが「ふたなり」に改造されるのは現在、成年漫画でそれぞれ独自のジャンルとなっている「ふたなり」「肉体改造」の先駆けとも言えるだろう。「奴隷戦士マヤ」の連載が始まったのは1987年。30年も前に「異世界転生」「ふたなり」「肉体改造」という設定をしかも同時に使っていたのは驚愕に値する。このどんと氏が先を行き過ぎていたのか、それとも時代がやっとこのどんと氏に追いついたのかはわからないが、いずれにせよこのジャンルにおいて、このどんと氏がパイオニアだったのは間違いないだろう。

 

 自分は正直、凌辱ものはあまり好きではないし、肉体改造みたいなものも苦手なのだが、「奴隷戦士マヤ」にはなぜか魅かれるものがあった。今にして思えば絵も魅力的だったが何より作品自体がエネルギッシュだった。「奴隷戦士マヤ」のあまりのインパクトの為かその後、鴨下幸久名義の作品を読んで「この人こんな漫画も描けるんだ」と驚いたものだった。

 

 

 

1ROO”イチロ” 氏のツイート後、ツイッターのみならずネット上でSNS・各サイトに、このどんと氏への追悼のメッセージが寄せられた。pixivでも追悼として「奴隷戦士マヤ」のイラストが投稿されていた。

 

 本名も生年月日も非公開の為、享年は不明だが漫画家の真鍋譲治氏が「また同年代の漫画家が亡くなられた」というツイートをしていたことからおそらく50代半ばくらいだったのではと推測される(真鍋氏は現在54歳)。いずれにせよ漫画家としても人間としてもそれはあまりにも早すぎる死だった。

 

 「奴隷戦士マヤ」は「コミックアイラ」の創刊号の新シリーズ予告では主人公のマヤが地球に戻ってきた話として再スタートするとされていた。 ということはマヤは最終的には地球に帰還できたのかもしれない。しかし前述したように同作品が同誌に連載されることは無かった。その事情はわからないが以降は同人誌にて「 暗闘編」と題した 新作が散発的に発表されていた。そして氏の逝去により絶筆となった。

 

 マヤは最後にはどうなったのか。戦士として覚醒したのか。地球に帰還してそれからどういう人生を歩んだのか。その結末を見る事ができなかったのが残念でならない。一番、心残りなのは作者である、このどんと氏であろうが・・・。

 

 訃報を知らせる 1ROO”イチロ” 氏のツイート以降、このどんと(鴨下幸久)氏への追悼のコメントがネット上で溢れた。中でも「最も影響を受けた」「自分の性嗜好を決定づけた」といったコメントが目立った。それぐらい「奴隷戦士マヤ」はインパクトのある作品だったのだ。(余談であるが追悼のコメントで成年漫画家の水無月十三氏がアシスタントだったことが明らかになった)

 

 1ROO”イチロ” 氏のツイートから推測するに、その死は孤独死だった可能性が高い。自分も独身であるため他人事ではないが、しかし未完に終わったとはいえ成年漫画の金字塔である「奴隷戦士マヤ」を残したこのどんと氏の人生は決して孤独ではなかったと思う。 

 

 「奴隷戦士マヤ」は今も読者の心に残っている。

 

 流れる星は生きている。このどんと氏は今も読者の胸の中で生きている。

 

 心よりご冥福をお祈りいたします。