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エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『タカダワタル的ゼロ』


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【出演】
高田渡、泉谷しげる、柄本明、ベンガル、綾田俊樹、角替和枝


【監督】
白石晃士




“フォーク界の遺産、高田渡が、帰ってきた”




1972年、23歳の若かりし頃の高田渡……。


2003年。高田渡は、お気に入りの焼き鳥屋‘吉祥寺・いせや’に今日もいる。


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いつものように焼酎を片手に語り尽くした。
唄のこと、お酒のこと、好きな風景のこと、そして仲間やお客さんのこと。

「ライブの中には僕がほとんど集約されてる。飲んでる時は、オマケだ」

そして、うたた寝をした……。


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2001年の大晦日、下北沢ザ・スズナリ。

東京乾電池の舞台を借りてのコンサート。


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「仕事さがし」でステージの幕があがる。

いつも唄い続けてきた歌と、落語家も舌を巻くステージトークで客席は温かい拍手と爆笑に包まれる。


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そして‘高田渡VS泉谷しげる’これが最後の競演!

フォーク界の双璧、高田渡と泉谷しげるの本格共演が実現。


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高田を「国宝」とリスぺクトする泉谷。

「楽屋では静かでいい人なんですけどね」
と挑発する高田。

泉谷は、「おー脳」「春夏秋冬」を絶唱。


二人が繰り広げる打々発止のやり取りに客席のボルテージも絶好調。

観客を挑発し、時には毒づく泉谷の熱いステージに対し高田は、飄々となにくわぬ顔で……
「ホントはいい人なんですよ。でも表現方法が独特と言いますか……泉谷さんがいたことは、忘れて下さい」

果てることなく続くふたりの舌戦のゆくえは……。

「うるせー、バカ、この野郎!」
「その言葉しか知らないんですか?もうマイク切っちゃってください」




高田渡と泉谷しげるの最初で最後の貴重な競演ライブを記録するとともに、彼らが愛した吉祥寺の焼き鳥屋での高田渡の口から語られる言葉の数々、彼らが残した音楽や生き様を最後のメッセージとしてフィルムに刻み込んだ音楽ドキュメンタリー。


2005年に56歳で急逝した高田渡とは何者なのか?!
自分の世代ではほとんど知りません。
吉田拓郎や井上陽水らより以前に活躍した伝説のフォークシンガーというイメージしかない。


ところが、この人……凄く魅力的で愛すべき人物というのが、この作品からビンビン伝わってくる!

酔っ払って喋る姿は妙に可愛いし(ただ酩酊状態でレロレロしているため言葉がよく聞き取れないあせるあせる)ステージ上でのトークは大爆笑もの。朴訥とした雰囲気がとにかく可笑しい!


歌は初めて聴くものばかりでしたが、その歌詞はなにげにアナーキー。

まるで仙人のような風貌からは想像もできない毒のあるプロテストソングを歌う。
(特に原爆をおもいっきり皮肉った歌なんか、いま聴くと痛烈に感じることができる)


かと思えば甘いラブソングあり、コミカルソングありと結構、幅広くもある。

‘♪つけといてよかった。シーツも汚れない僕の岡本理研ゴム♪’
……って歌詞の歌には笑った。



高田渡は‘歌手の命である喉を大切にする’なんて考えは、これっぽっちもないようで……酒はガバガバ飲むしタバコもプカプカ吸いまくる。

そして歌もそんなに上手いワケでもない。

でも妙な味があって思わず聴き入ってしまう不思議な魅力がある。



また惚けたトークは抱腹絶倒の面白さ。
天然なのか、計算なのか……多分、天然なんでしょう(笑)。

一生懸命フィンガーピックを指に嵌めながらその繋ぎで取り留めのない話をしていて……「じゃ、歌います」と言うや、なぜかせっかく嵌めたピックを外しだして歌う。
何のためにわざわざピックを(笑)。


「あれ……歌詞を書いた紙がどっかにいっちゃいましたね……ええと……まあ、覚えてるから大丈夫なんですけどね」

もうワケが分からない(笑)。


それからゲスト出演した泉谷しげるとのやり取りも最高の一言!

「じゃあ、後は頼むよ」
「おお、任しとけよ」
「ホントに頼むよ」
「うるせーな、この野郎!早く引っ込めよ、歌えねえじゃねえか!」
「楽屋ではおとなしくて、いい人なんですけどね」
「うるせーよ、バカ野郎!」


過激なパフォーマンスの泉谷とあくまでマイペースの高田、このあまりにも対照的なコントラストが可笑しいのなんの。

二人のボケとツッコミの絡みは、下手な漫才コンビなんかよりも全然面白い?!


映画のラストでは、高田がこよなく愛し、行きつけの店でもあった‘いせや’(旧店舗)が閉店し取り壊される場面が映し出される。
この時点では高田は既に亡くなっていたことにもなり……画面からは悲哀が漂ってきます。


高田渡のことを全く知らない自分でもメチャ楽しめた最高のドキュメンタリーでした。




『海炭市叙景』


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【出演】
谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、三浦誠己、山中崇、南果歩、小林薫、渡辺真起子、大森立嗣、あがた森魚、伊藤裕子、村上淳


【監督】
熊切和嘉




“わたしたちは、あの場所に戻るのだ”




冬の海炭市。
造船所に勤める兄妹、井川颯太と帆波は、リストラに伴い職を失う。


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元旦、二人は初日の出を見ようと、なけなしの小銭を持って山に登るが、帰りのロープウェイ代が足りず、颯太だけが歩いて山を下りる。

帆波は閉店時間の過ぎた麓の売店の前で独り待ち続けるが、颯太はいつまでも帰って来ない。


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街の開発のために立ち退きを迫られている老婆・トキの元には、市役所に勤めるまことが説得に訪れる。


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家畜たちと共に昔からこの土地に暮らすトキは、頑として立ち退きに応じない。
そんなある日、トキの飼い猫のグレが姿を消してしまった。


プラネタリウムの職員、比嘉隆三の妻は派手な服に身を包んで夜の仕事に出かけてゆく。

中学生の息子は口をきかなくなり、夫婦の仲も家庭も冷え切っていた。


そのプラネタリウムに通う少年・アキラの父の目黒晴夫はガス屋の若社長であり、新規事業として浄水器を扱うがうまくいかない。


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先代である父から経営の不備をなじられ苛立つ晴夫は、妻・勝子のアキラに対する虐待に気づき、彼女に暴力を振るうが、同級生だった千恵子との不倫を逆に責められる。


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路面電車の運転士・達一郎は、運転席から息子の博の姿を見かける。

東京から晴夫のガス屋に浄水器の営業に来た博は、海炭市の出身だったが、父と会う事を避けていた。

故郷のバーの女たち、男たちのやりとりを眺める博。


新年の夜、達一郎の運転する路面電車で、海炭市に生きる人々はすれ違う。


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年が明け、博は墓参りの際に達一郎と再会し、ぎこちなく会話を交わす。

博は海炭市から東京へ向かう連絡船で颯太の遺体が山で発見されたというニュースを聞き、デッキに出てその山を眺める。


家周辺で工事の始まったトキの元にはグレが帰ってきた。
トキは妊娠しているらしいグレを「産め、産め。みんな育ててやる」と声をかけながら優しく撫でてやるのだった……。




函館がモデルの架空の街・海炭市を舞台に、そこに生きる人々の暮らしを描いた群像人間ドラマ。


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5話から成るオムニバス形式の映画で、登場人物たちがささやかに関わりあう構成。

ひとつのエピソードは30分ほどですが、それが5話なのでトータルでは152分とかなり長いです。

そして、とても暗い作品です。
海炭市に住んでいる普通の人たちそれぞれの日常の物語が淡々と綴られていく。


海炭市の雰囲気も暗ければ、そこに住む人たちも異様に暗い。

どれもが救いようのない話だし、何らかの問題を残したまま、登場人物たちは幸福を見つけられない状態で各エピソードは幕を閉じてしまう。


故に観る者は、彼らはその後、どうなっていくのか……と考えさせられてしまう。


パズルを組み合わせるように物語が紡がれ、函館山や路面電車、造船所など象徴的な場所が登場するも、決して観光都市としての街が描かれているワケではなく、そこには移ろいゆく地方都市の寂しい姿があるだけだ。



ここで各エピソードを振り返ってみよう。

1話目は二人暮らしの兄妹が主人公。
造船所をリストラされた兄は、将来の希望をなくしている。
そんな兄を健気に支える妹。
大晦日の夜、二人は山に初日の出を見に行く……しかし帰りのロープウェイ代が足りない。
兄は一枚だけのチケットを妹に手渡す。
彼女は「私も一緒歩いて下りる」と主張するも、兄は、
「帰りは競争だ」
「私が普通に勝つから」
ロープウェイに向かう妹は何度も何度も見送る兄を振り返って見遣る。

そして……彼女は麓の待合室で兄が下山してくるのを延々と待ち続けるのだ。

映画のラストでこの兄が遭難死したニュースがテレビで流れる。
将来を悲観した兄は、妹を残して自殺したのか?
はたまた単なる事故だったのか?


2話目は、ひとり暮らしの孤独な老婆の話。

市から要請されている立ち退きを頑として拒否する彼女は、しょっちゅうタバコを吹かしては「どうせもうすぐ死ぬんだから」と自暴自棄になっている。

そんな彼女の唯一の拠り所は、ペットの猫。
だがその猫が突然いなくなってしまう。
「トキ!トキ!」と猫の名前を連呼して探し続ける姿があまりにも切ない。

ラストでこの猫は妊娠してひょっこり帰って来て……老婆は大きくなった猫のお腹を愛おしげに優しく撫でて、
「産めよ、しっかり産めよ」

救いが感じられる結末かと思いきや……次のシーンでは、彼女の家が無惨にも取り壊されているところを映し出す。

彼女はどこに行ったのか?
猫と暮らせているのだろうか?


3話目は、寂れたプラネタリウムに勤務する無口な男が主人公。
妻は派手な格好をして夜の仕事に出てゆき、夫婦関係は完全に冷え切っている。
頼みのひとり息子も父親とのふれあいを疎んじており、幸福な家族のカケラすらない。

しかも妻は浮気をしており、それに気付いて激しい嫉妬心に襲われていても、面と向かって詰め寄ることすらできない夫。

「偽物の星ばっかり見てるから、そんな風になっちゃったのよ」
妻はこう冷たく言い放つ。

だが回想シーンでは、家族三人が夜中に森を抜けて星空を見に行く描写がある。
とても幸福そうな三人の顔……いつからこの家族は歯車が狂ってしまったのだろうか?


4話目は、ガス屋の若社長の男の話。

ガスの仕事だけでは苦しいのか慣れない浄水器のセールスにも励むが、全く契約が取れない。
その鬱憤を晴らすかのように社員には当たり散らし、妻には暴力を振るい、学生時代の同級生とは不倫を。(その相手は妻とも同級生だった)

一方の妻は、その恨みを息子にぶつけていて、激しい虐待をする日々。(夫は再婚で、彼女にとっては義理の息子である)

それを知った夫から殴る蹴るの暴行を受けても妻はめげない。

「あんたが浮気してるの知ってるんだからね。私、幸せにしてもらうから!何があってもあんたに幸せにしてもらうから!」

自分を幸せにすることが夫の贖罪だということなのか?


5話目は、東京から故郷である海炭市に仕事で一時的に帰ってきたサラリーマンとその父親で路面電車の運転士の話が描かれる。

息子は実家に顔を出そうとはせず疎遠になっているようだ。
そんな二人が母親の墓で偶然に再会。

「帰ってきてたのか……」
「仕事で来ただけだから」
「家に寄ってくか?」
「いや、いい……また今度」
「……そうか」

歪だった親子関係が修復するきっかけになるかと思いきや、息子は拒否する。

息子が実家に帰る日は果たしてくるのだろうか?



なぜ、この映画の登場人物たちの歯車は狂ってしまったのか?

それはこの街の重要な産業であった造船業の衰退が大きな要因になっている。

地域密集型の大規模な産業が衰退すると同時に、それが地域経済にも大きな影響を与え、街全体が重苦しい雰囲気に沈み、そこに住む市井の人々にもじわじわと暗い影を落としていく。


そのような中で、あえぎもがき苦しみながらも、黙々と生活を維持しようとする海炭市の人々の静かなパワーとエネルギッシュさに心を打たれた。



陰のある儚い雰囲気の役がピッタリと似合う谷村美月。
伏し目がちの暗い表情が秀逸!

ちなみに長さが中途半端な髪型は『オニイチャンの花火』でスキンヘッドにした後の撮影で伸びかけだったからか?

その野暮ったさが、この映画のキャラとハマっていて好効果となっています。



森田芳光監督が亡くなってしまった。


来年公開の『僕達急行』がまさか遺作になってしまうとは……。


森田監督といえば、何といっても松田優作との『家族ゲーム』が印象深い。

優作とは「森田」「優作」と呼び合う盟友だったんですよね。


『の・ようなもの』『おいしい結婚』『それから』『(ハル)』『黒い家』『間宮兄弟』『わたし出すわ』『武士の家計簿』等々の作品も好きでした。


まだ61歳……森田監督の急逝は日本映画界にとって大損失かと。


しかし惜しいなぁ……。