
21世紀直前に起こった渋谷区円山町のラブホテル街でひとりの女性の殺人事件を軸に、過酷な仕事と日常の間でバランスを保つため愛人を作り葛藤する刑事、昼は大学で教え子に、夜は街で体を売る大学助教授、些細なことから道を踏み外す平凡な主婦の3人の女の壮絶な生きざまを描くラブサスペンス。
‘東電OL殺人事件’をモチーフにしたオリジナルストーリー。
映画はラブホテルのバスルームでシャワーを浴びながらセックスをする男女の姿で幕を開ける。
バックから激しく突かれて快感に浸る女(本作の主人公、女刑事の吉田和子)……とそこに携帯が鳴り響き、女はセックスを中断して電話に出る。
それは、ある殺人事件が起こったという連絡だった。
フルヌードのまま(ヘアまでくっきり)電話で話すその女こそ……水野美紀!
冒頭からいきなりのインパクト大の映像ですが……最初は誰だか分からず(初っ端から水野美紀があんな過激な姿を見せるとは思ってもいなかったので)途中でやっと‘あれ?もしかして水野美紀?’と気付きました


フルヌードのシーンは全身を映していて、どうしても下半身に目がいってしまい顔をよく見ていなかった(笑)。
これからご覧になる方は、冒頭から気合いを入れてスクリーンを凝視して下さい(笑)。
次のシーンは、殺人現場である渋谷区円山町の片隅にポツンと残されている廃アパートに駆け付ける和子の姿へ。
体は死体、首と脚はマネキンという猟奇的殺人事件。
この時の死体の描写がかなりグロい。
無数のウジ虫が(本物!)うじゃうじゃと這い回り、死体の切断部などもアップで映し出す。
また警察での検屍シーンも相当にグロい。
グロい系が苦手な人は、スクリーンを正視できないかも。
夫の後輩と不倫を続ける和子が、死体が誰のものなのかを探し求めるのがメインストーリー。
一方で、その殺人事件が起こるまでを描いているのがサブストーリー。
そのサブストーリーに登場するのが菊池いずみ(神楽坂恵)と尾沢美津子(冨樫真)。
だが、メインがサブでサブがメインとも言える逆転現象のストーリー展開。
主役の和子はあくまでも狂言回し的存在で、実質的な主役は神楽坂恵演じるいずみです。
人気作家の貞淑な妻であるいずみは、じっと家にいることに耐えられず働きに出るが、騙されてAV出演させられてしまう。
ところが、いずみはその性の虜になってしまい、鬱屈とした日常からも解放された気分になり次第に変貌していく。
彼女はスーパーではソーセージの試食販売の仕事を担当しているのだが、若い客にこう声をかける。
「いかがですか?美味しいですよ」
とソーセージを勧めた後に……
「私の身体も美味しいですよ。食べてみませんか?」
そしてスーパーのトイレで服を着たまま、セックスに耽るのだ。
AVにも定期的に出演し、自宅ではすっ裸で鏡の前に立ってポーズを作ってうっとりとしては、
「いかがですか?美味しいですよ」
と何回も繰り返す。
(かなり不気味)
やがては清楚な仮面をかなぐり捨て、肌を露出しまくった服に身を包んでは渋谷の街を徘徊するほど大胆な女になっていく。
そんな時、ひょんなことから年増の立ちんぼ娼婦兼大学助教授の美津子と出会うのです。
美津子は円山町でわずか5000円で売春行為を繰り返し、大学でも教え子を相手に売春をしている。
「愛がないセックスには必ず金を取れ。愛がない男とは金銭なしではセックスをするな」
そう教育され、徐々に美津子に心酔していくいずみ。
「私がするところをちゃんと見てな」
と、美津子はサラリーマンの二人連れと廃アパートに消えていく。
後からそっと中に入ったいずみは、美津子とサラリーマンとのセックスを覗き見て、その激しさに圧倒されていると……突然、美津子は笑いながら、こう言うのだ。
「そこにいる女は、新入りだよ。そいつも抱いてやんなよ!」
抵抗しようとするいずみに、
「受け止めろ!受け止めるんだよ!」
なすすべもなく犯されるいずみ。
そして……行為が済んで床には男が残していった1000円札が5枚散らばっている。
「拾え!ちゃんと拾え!」
その言葉にいずみは這い蹲りながら、札をかき集める。
「オマエの身体で稼いだ金だ。大事にしな。オマエは私のところまできちっと堕ちてこい!」
そんなある日、いずみは美津子の自宅へと招かれるのだが、出迎えた美津子の母親も一見、上品そうでいて実はかなりぶっ壊れている人格。
いずみに平然とこう訊くのだ。
「売春の方はどうですか?順調にやってますか?」
唖然とするいずみに、構いもせず……
「うちの娘は下品で困ります。早く死んでほしいと思ってるんですよ」
「そっちこそ早く死ねよ!」
と美津子。
あまりにも屈折し、精神破綻した母と娘だが、この母親が後半で物語の鍵を握ることになる。
一方、事件を追う和子も、夫に隠れて不倫相手と逢瀬を重ねており……ところがこの男はドSで、和子を心理面で服従させることに快楽を感じている。
和子の方はM気質の持ち主なのか、彼からの命令に抗うそぶりを見せつつも結局は従い、禁断の愛から抜け出せずにいた。
「いまどこにいる?これから会って抱いてやるよ。オマエもやりたくて仕方ないんだろ。自分でしてみろよ」
と電話越しの言葉責めに興奮を抑え切れなくなった和子は、自慰行為を。
ただこの自慰シーンはソフトな描写。
主演女優に自慰シーンを演じさせるのは園監督の特徴でもありますが(?)『愛のむきだし』の満島ひかりの方が数段エロかったかと。
こうして、結婚はしていても夫の後輩との不倫関係を断ち切れない‘堕ちそうな女’・和子、夫を愛するが満たされないでいる‘堕ちていく女’・いずみ、亡き父親を男として愛するも、受け入れられなかった‘堕ちきった女’・美津子の3人が、アイデンティティを求めて彷徨う様がリアル、且つエロチックに描かれていき……衝撃のラストへと突入していく!
日常の渇きから狂気へとラインを大胆に踏み越え、堕ちていく恍惚の中でこそパワフルに光り輝く生命力と甘美さすら感じさせる女の業。
白昼夢を見ているようなリアル・ダーク・ファンタジー。
園監督は、またもや大傑作を送り出した!
猟奇殺人事件の現場、検屍シーンなどは相当グロく、絡みのシーンはもちろんエロいので、Rー18となっており……そのエログロシーンを断続的に挟みつつ、人間の浅ましい欲望や、そこからどうしても逃れられない表の顔と裏の顔の狭間で蠢き合う3人の女の狂おしくも歪んだ恋。
平凡な日常に潜む異常なシチュエーションを本性むきだしの登場人物たちが織り成す壮絶なストーリーというのは、一連の園作品に共通するテーマでもあり、それは今作も同様。(むしろパワーアップしている?)
前作『冷たい熱帯魚』で吹越満が果たした役割を、本作では神楽坂恵が、でんでんが果たした役割は冨樫真が担う形になっていて……平凡だった人間が精神破綻を起こしている人間との出会いから、抜け出したくても抜け出せない闇の世界に引きずり込まれて堕ちていくあたりも共通しています。
『恋の罪』の物語のキーワードとなっているのが‘城’。(殺人現場の壁にも血でこの言葉がなぐり書きされている)
辿り着きたくても辿り着けないものであり、本当の愛の象徴として、或いは理想郷としての‘城’。
「城の周りをぐるぐる回り続ける」
という台詞があったように、みんなが目指すも決して辿り着けない城の入り口がラブホテルで、そこに辿り着くために切り離せない行為がセックスと置き換えているが、これは人間は理想郷を求めてただただ彷徨い続けているという風にも解釈できる。
それから劇中で何度も繰り返される「言葉なんか持つんじゃなかった」という詩からの引用の台詞。
「本物の言葉は、ひとつひとつ体を持っている」
「言葉はみんな肉体を持っている」
「すべての言葉は意味を持っている」
美津子がいずみに話して諭す‘言葉’の持つ意味と重要性。
‘言葉=己の肉体’なのだとの観念をいずみに植え付ける美津子の狂気を含んだ内面が鋭く描写されていて、印象強いものになっています。
また、園監督は3人の女の人物像を以下のように演出している。
和子が登場する場面は、彼女の隠された暗い闇の部分を象徴するかのようにドシャ降りの雨ばかり。
そしてシャワーを浴びたままセックスをし、雨漏りする廃アパートでずぶ濡れになりながら自慰をし、雨の中を外に飛び出して車で待つ不倫相手の元へと向かう……など、和子はいつもビショビショに濡れている。
しかしラストでは早朝の晴れ渡る空の下、ゴミ袋を両手にゴミ収集車を追って走る走る!
そうして辿り着いた先は……円山町にあるあの廃アパート。
と、そこに携帯が鳴る。
不倫相手からである。
「今、どこにいる?」
「……わからん」
必ず今いる場所を不倫相手に伝えていた和子が初めてそれを明かさなかった。
これは、不倫相手との決別を意味しているのでしょう。
美津子は昼は大学助教授として普通人を装ってはいるものの、夜になると派手な化粧と服で立ちんぼをする。
彼女にとっては、夜が表の顔なのだ。
格安で身体を売り、それに自分のアイデンティティを構築している異常性。
彼女はとことん堕ちることによって、実の父親をひとりの男として愛してしまった暗い過去を清算しているかのように映る。
いずみは、夫に健気に尽くす清楚な妻だが……内面では不満を溜めに溜めていて……が、その捌け口が見つからないでいた。
そんないずみもAV出演を皮切りに、美津子との出会いから売春、デリヘル嬢へと身を崩していく……と同時に鬱屈した日常からは解放されて大胆にもなっていく。
この過程を如実に、且つユニークに表現しているくだりがある。
スーパーでソーセージの試食販売のアルバイトもしているいずみ。
最初はオドオドとか細い声で、小さく切った一口大のソーセージを手に、
「美味しいですよ、いかがですか?」
ところが‘性’に目覚めて大胆になっていくに連れて、輝いた笑顔を浮かべ堂々と元気よく、且つ男を誘惑するような色気も漂わせながら、
「美味しいですよ!いかがですか?」
それと並行して手にするソーセージの大きさも‘一口大→三分の一→半分’へと変化していき……最後には丸ごと一本を手にしている。
このソーセージが形状からして男性のシンボルを象徴しているのは言うまでもない。
いずみの性の目覚めをソーセージの大きさで表現するというアイディアは、何とも可笑しい。

水野美紀、冨樫真、神楽坂恵が、役者生命を懸けた渾身の演技で難役に立ち向かっていて圧倒された。
充満する激しいエロス、過激なSEX描写、そして3人の女優の身も心も剥き出しの演技バトルが最大の見どころ。

水野美紀のヘア露出も厭わないフルヌードが話題になっていて、一応は主演扱いになっているけれど、実際は助演といった方が正しいか?
それよりも神楽坂恵と冨樫真、この二人の存在感が圧巻!
美津子役の冨樫は、とにかく強烈すぎて怖い。
社会的な地位がありながら狂ったように体を売る女をその役柄に憑依した如くの怪演に、グイグイ引き込まれる。
肋骨が浮き出るガリガリの裸で、獣のようなファックシーンをするその姿は、まさに牝そのものだ。
園監督はまたまた凄い女優を発掘した!
そして何といってもこの作品の本当の主役である神楽坂恵の女優魂全開の演技に脱帽。
今や園作品には欠かせない女優ですが、驚くくらい演技が上手くなっている。
特に‘泣き’の演技は、観ているこちらの胸が揺すぶられるほどの素晴らしさ。
劇中で何度も流す彼女の涙は痛々しくも美しい。
貞淑なセレブ妻の変貌を体を張って見事に表現し、過激なシーンにも果敢に大胆に挑戦。
AV撮影シーンをはじめ過激な濡れ場も多く、全編に渡って惜し気もなく脱ぎまくっている。
その裸身は非常にエロチック。
ベビーフェイスに超ド迫力の胸、ちょっとポチャっとした体形が淫靡すぎて、かなりヤバいです。
(園監督が惚れて奥さんにしてしまったのも分かる!)
神楽坂恵に最優秀主演女優賞を捧げたい!