『運命じゃない人』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『運命じゃない人』


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【出演】
中村靖日、霧島れいか、山中聡、眞島秀和、山下規介、板谷由夏


【監督】
内田けんじ




“日本一いい人と大金をめぐる……男女5人の一晩の物語”


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〈21:00〉
婚約破棄となり、二人で住む家を出てきた桑田真紀。
婚約指輪を質屋に持って行ったが3500円にしかならず、ひとりで入ったレストランはカップル、家族、友達同士で賑わっている。
寂しさがこみ上げて来て泣きそうになったその時、前のテーブルの男がナンパしてきた。
「一緒にお食事しませんか?」

真紀はためらうことなくすぐに席を移動した。


〈17:00〉
仕事中のサラリーマン・宮田武。
パソコンで別れた彼女・あゆみの写真を見ては深いため息をついている。


〈20:00〉
宮田がマンションに帰宅した途端、携帯が鳴った……親友の神田からだ。

「これから飯を食おうぜ」
が、疲れている宮田は外出するのを渋っていると……
「大事な話がある。あゆみちゃんのことだ」
そう言われた途端、勢いよく家を飛び出して行った。


〈21:00〉
レストランで宮田が待っていると神田が遅れてやって来た。

「あゆみのことって?」
「街で偶然会った。近々結婚するらしい」
「…………」

あゆみはある日、結婚前提で購入したマンションから突然姿を消してしまったままだった。
宮田は、そんなひどい仕打ちをされたのに、あゆみが気がかりで仕方がない様子だ。
「彼女のことなんか忘れて新しい出会いを探せよ」
と、急に後ろのテーブルに座っている女(真紀)に声をかけるのだった。


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「一緒にお食事しませんか?」

こうして3人は一緒に食事をすることに。
自己紹介が終わり、神田がトイレに立つが、なかなか戻ってこない。
宮田が心配して探しに行くも、神田の姿はどこにもなく……携帯に電話をすると「急に仕事が入った」とすぐに切られてしまう。

初対面の真紀との会話に緊張しながらも食事を終え、真紀を送ろうとするが……。

「家はありません」
「え?」

真紀は、一緒に暮らしていた恋人との婚約が破棄になり家を出たため、帰るところがないという。

宮田はそんな真紀を放っておく事ができず、
「僕の家に泊まりますか?」
人の良さそうな宮田に安心した真紀はその申し出を受け入れ、二人は宮田の家に向った。


〈1:00〉
マンションに到着し、宮田は真紀を寝室へ案内する。


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部屋の隅にあるダンボールを真紀が不思議そうに眺めていると、
「それは前の彼女のものです。一週間で出て行っちゃったんですけどね」
と、あゆみとのこれまでの経緯を話す。
宮田に同情し、思わず彼を抱きしめてしまう真紀。

ぎこちない空気が流れるところへ……玄関のチャイムが鳴った。

やってきたのは、なんと行方知れずだったあゆみだった。

「荷物を取りに来ただけだから」
悪びれもせず、ズカズカと上がりこむ。

そんな自分勝手なあゆみの態度に真紀は文句を言うと、
「わたし、帰ります」

宮田はすぐに後を追いかけ、家に戻るように説得するが、それでも真紀はタクシーに乗ってしまう。


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しかし宮田は走り出したタクシーを全速力で追いかけ、真紀に電話番号を教えてほしいとお願いする。
当惑する真紀だったが、真剣な表情の宮田に根負けし、電話番号を書いた紙をそっと差し出す。

タクシーが去った後……ガッツポーズで小躍りする宮田。
その宮田の脇を通り過ぎて行く一台の車。


〈19:00〉
神田が経営する探偵事務所。
入口であゆみが待っていた。
神田は嫌々ながら、あゆみを事務所に入れる。

「相談があるの」
「あんたの正体はわかってるんだよ。宮田の話を聞いて、なんかおかしいと思って、イロイロ調べさせてもらった」

あゆみは、結婚するといっては男を次々と騙し、金をむしり取る詐欺師だったのだ。

「なんで宮田を騙した!?」
「そんなことよりお願いがあるんだけど」

実業家だと思っていた新たなターゲットの浅井という男が、実はヤクザの組長であり、「彼の元から逃がして欲しい」というのだ。
あゆみが持って来たアタッシュケースを開けると……そこには組の金庫から持ち逃げしてきた2,000万円分の札束が入っていた。
「海外へ逃げるから、宮田のマンションに置いて来たパスポートを持ってきて欲しいの」

親友の宮田がトラブルに巻き込まれないようにするために神田は、
「100万円の報酬をもらうこと、そして2,000万円は浅井に返すこと。それを約束すればその依頼を引き受けてもいい」
「嫌、お金は返さない」
「女に逃げられた上に、金まで持っていかれたら、ヤクザは地の果てまで追ってくるぞ。そしたら、あんた逃げ切れないよ」

あゆみは、渋々承知するが……。


〈19:45〉
神田の持つ合鍵で宮田のマンションに侵入する二人。
あゆみが寝室でパスポートを探している間、神田はトイレへ。
するとその時、宮田が帰宅してきた!
困った神田はトイレから携帯で宮田へ電話し、「飯を食おう」と外へ誘い出そうとするが、なかなか宮田は承知しない。

「大事な話がある。あゆみちゃんのことだ」
その言葉を聞いた宮田は、慌てて家を飛び出して行った。


〈20:40〉
パスポートを無事に手に入れ、今度は神田がバイク便に変装し、金を浅井の組事務所へ戻しに行くことにする。
アタッシュケースを事務所の前に置いて立ち去ろうとしたその時、不審に思った組員から追いかけられるがなんとか逃げることに成功。


〈21:30〉
神田はすべてを無事に成し遂げ、先ほど誘い出した宮田の待つレストランに。
何事もなかったかのように宮田と会い、そして真紀をナンパし、三人で自己紹介をしているところに……先ほどの組員たちが入って来た。
神田はトイレへ隠れようとするが、捕まってしまい、浅井の組事務所へと連れて行かれてしまう。


〈3:00〉
拘束されている神田の前に、浅井があゆみを連れてやってくる。
神田が先ほど事務所へ届けたアタッシュケースを開けて見せると……その中には、なんと大量の女性用の下着と神田の名刺が入っていた!

「いくら何でも、ここまでヤクザをコケにはしないよなぁ」

驚く神田を見て浅井は、「神田もあゆみに騙されていた」と確信し、神田を解放するのだった。


〈7:00〉
ヘトヘトになって神田は家路に着くが……はっと思い立ち、宮田のマンションへ向う。
寝ている宮田を起こし、慌ててあゆみの荷物の元へ急ぐ。

‘あゆみがここでアタッシュケースの中身を入れ替えたとすれば、荷物の入ったダンボールの中に大金があるはずだ’と思ったのだ。
が、部屋にはすでに荷物はなかった。

宮田は真紀との出会いにより過去を忘れようと決め、「あゆみの荷物は今朝、捨てたよ」

神田は呆然と腰が抜けたように力なく座り込むしかなかった。


〈18:00〉
浅井の組事務所。
浅井は、組員たちにアタッシュケースに入った札束を見せつけている。
ところが、実はこの大金は、組の経営が苦しいことから、一番上と下だけが本物で後はただの紙切れという偽札束だった。

そこへあゆみが入ってくる。
浅井はあゆみに「食事でも行こう」と連れ出すが、店へと向う途中、あゆみは、
「忘れ物をしたから先にお店に行ってて」
そう告げると、ひとり事務所へ引き返す。

浅井はなかなかあゆみが来ないことを不審に思い、事務所へ戻ると……偽札束は全て盗まれていた。
組員総出であゆみを探していると、不審な男(神田)がアタッシュケースを事務所の前に置いていった。

偽札束がばれたら大変だと浅井がこっそり開けると……中には女性の下着と神田という探偵の名刺が入っていた。
浅井はその名刺を頼りに、神田の事務所へと急ぐ。


〈21:20〉
浅井が探偵事務所の鍵をこじ開け中を探っていると、あゆみに関する資料が見つかる。
そこには、浅井の知らない顔のあゆみの写真、あゆみが騙してきた男たち、その被害額などが細かくファイルされていた。
最新の被害者となっている男、宮田の写真と住所もあった。
そこへ組員から「神田を捕まえた」との連絡が入る。

「よし、いいか、何も喋らせるなよ。俺が戻るまで一言も喋らせるな」
そう指示し、浅井は宮田のマンションへと向い……。


〈24:30〉
宮田の家の鍵もこじ開け中に入った浅井は、寝室のダンボールの中に偽札束を発見するが……そこへ真紀を連れた宮田が帰宅してきてしまう。
慌ててベッドの下に隠れる浅井。
その目の前で話し込む宮田と真紀。
そして玄関のチャイムが鳴り、あゆみがやって来るアタッシュケースからこっそり移した金を取りに来たのだ。

二人が押し問答をしている間、寝室にいた真紀はふとしたことから偽札束を見つけてしまう!
少し考えてから札束を自分のカバンに入れると……寝室を出て行った。

真紀を追いかけて宮田が出ていくと、あゆみは寝室へと入って行く。

「おい!」
「……え!?え?なんで、ここに?」
「咄嗟だと上手い嘘も出てこねえってか?話は事務所でじっくりと聞こうか」

浅井はあゆみを連れ、神田が拘束されている組事務所へと帰って行く。


〈8:00〉
何も知らない幸せそうな宮田と疲れ果てた神田。
二人で朝食を取りながら、宮田は早速、昨日教えてもらった真紀の携帯番号にかけてみるが……繋がらない。


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「あれ?書き間違えたのかな?」
「んな訳ないだろ。それは嘘の番号!お前は騙されたんだよ」
「真紀さんは、そんな女性じゃないよ」
「そういう女性なの!女なんて、みんなそうなんだって」
「これ6じゃなくて8なのかなぁ?」
「騙されたって気付けよ!」
「だから、そんな女性じゃないんだってば」


大金の入ったカバンを抱え、駅前に座り込み物思いにふけっている真紀だったが……意を決したように、その場から立ち去る。

そして……真紀が向った先は……。




一晩の物語を5人の登場人物それぞれの視点で、時間も縦横に行き来しながら描いていくタイム・スパイラル・ムービー。


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疑うことを知らない日本一いい人・宮田。
宮田の親友の探偵・神田。
お金大好き女詐欺師・あゆみ。
婚約破棄で自暴自棄・真紀。
組織の経営に悩むヤクザ組長・浅井。

この5人がそれぞれの場面での主人公となる。


どこにでもいる気弱そうなサラリーマンの宮田は、人から頼みごとをされても断れず、どんなに騙されても疑うことを知らない日本一のいい人。
彼女にふられてへこむ彼が、親友である探偵の神田にレストランに呼び出され、婚約を破棄されたばかりの見知らぬ女性の真紀と意気投合。
その裏では、ヤクザの組長・浅井と女詐欺師のあゆみが絡む……もうひとつの事件が進行していた!

宮田がふられた彼女を忘れるため、ほんのちょっとの勇気を出した一晩のほのぼのとしたラブコメ……の様相から一変、物語は予想もつかない展開を見せます。

繰り広げられる様々なエピソードを、それぞれの視点から描いていくことにより、まったく違う夜に変わっていく。
お互いの意外な関係性、そして彼らを翻弄する2,000万円の行方が明らかになっていき、まるでパズルのピースがどんどんはまっていくようなカタルシスをもたらす。
すべての謎が解けた時、宮田の純情が起こす小さな奇跡?!



5人の核に位置する宮田の物語が終わりそうになると、別の人物によって同じ夜の物語がリスタートされ、見えなかった部分でシンクロしていく。

イロイロな要素が絡み合って展開されるストーリー、練りに練り上げられた脚本と構成はお見事の一言!
(時間軸に沿って展開されれば何てことのない話なのですが?)



結局、真紀とは連絡が取れず、宮田は可哀相なままで物語の幕は閉じ、エンドロールが映し出され……と突然、画面が止まり(一瞬、DVDの故障かと勘違いして焦ったあせる)……もう一度物語に戻って、真紀の姿が映し出されます。

駅前のベンチで大金をじっと見つめる真紀は、意を決したように立ち上がると歩きだす。
彼女が向かった先は……宮田のマンション。
ドアの前に佇む真紀。とそこに、メモを見ながらひとりの男がやって来て、その隣に立つ。
ここでエンドロールとなるのですが、後からやって来た男は誰なんだ???……としばし考え込んでしまい……やっと冒頭のシーンを思い出した。

「彼女と過ごすのにお前の部屋を貸してくれ」と強引に頼んでいた(『アパートの鍵貸します』へのオマージュ風な?)宮田の会社の同僚だったんですね。(完全に忘れてましたあせる

実はこの同僚、24歳の看護師と付き合っているという設定。
そして、女詐欺師であるあゆみの看護師姿の資料写真も出てくるので「もしや、この男もあゆみに?」と思ったら、オーディオコメンタリーの内田監督の話によると全く関係ないらしい。

でもそんな風に深読みしちゃうくらい、いろんな解釈ができてしまうのもこの作品の面白いとこ。

例えば、真紀が婚約破棄をした理由としてこんな台詞がある。
「彼氏の車の中で赤い口紅がついたタバコの吸い殻を見つけたんです。メンソールの。あぁ、これは浮気してるなぁって」

メンソールのタバコ……劇中では真っ赤な口紅のあゆみがメンソールの(たぶん)タバコを吹かすシーンが何度か登場する。
ということは……真紀の彼氏の浮気(騙されていた)相手は、あゆみだった???……なんて推測も成り立つ訳です。


さりげなく伏線が張られているし、ちょっとした違和感の残る台詞や微妙に不自然な仕草などが、後に重要な意味を持っていたりもするので、油断しつつ観ているとついていけなくなるかも?!



映画が終わってからも「あれはこうなのか?」「実はこう繋がっているのか?」と、観客に想像の余韻を残す内田監督の演出も秀逸。

話の筋としては単純なのに、深読みすればいくらでもできてしまう……そんな映画。



宮田役の中村靖日の自然体ですっ惚けた味わいが、何とも可笑しい。

いきなり真紀に抱き着かれた際の‘足の演技’は大爆笑ものです。
あの爪先立ちがサイコーに可笑しい(笑)。


あと便利屋山ちゃんとタクシーの運転手にも注目を~~メッチャいい味出してます!



脚本と役者が良ければ、これだけ面白いものができるという見本のような大傑作!

一度だけではこの作品の本当の面白さは分からない。
ていうか、絶対にもう一度観ないと気が済まなくなること間違いなし!