『闇の子供たち』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『闇の子供たち』


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【出演】
江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、佐藤浩市、鈴木砂羽、豊原功補、三浦誠己、塩見三省


【監督・脚本】
阪本順治




“値札のついた命”




日本新聞社バンコク市局の記者・南部浩行が、東京本社の社会部からあるネタの調査を依頼される。


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それは「近いうちに日本人の子供がタイに渡り、臓器移植手術を受けるらしい」との情報だった。


闇社会の事情に通じるタイ人の知人に金を握らせた南部は、臓器移植の元仲介者に接触。

その男から聞きだしたのは、「提供者の子供が生きたまま臓器をえぐり取られる」という衝撃の事実だった!

そのことを東京の社会部に報告した南部は、さらなる取材を決意する。


その頃、若い日本人女性・音羽恵子がバンコクの社会福祉センタ―に到着した。
東京の大学で社会福祉を学んだ彼女は、アジアの子供たちのために何かをしたいという思いで、このセンターにやってきたのだ。


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女性所長・ナパポーンのスラム街の視察に同行した恵子は、そこでバンコクの貧民層の厳しい現実を目の当たりにする。

ナパポーンの気がかりは、読み書きを教えていたアランヤ―という少女が最近センターに姿を見せなくなったことだった。

そのことをアランヤーの親に問い質すものの、彼女は仕事が忙しくてそれどころではないという。


そして……恵子たちは、取材のためセンターを訪れた南部から子供の臓器移植手術の情報を聞かされ、戦慄を覚える。


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実はアランヤーはチェンライの街の一角にある売春宿に売り飛ばされていた。

マフィアが仕切るこの売春宿には大勢の子供たちが劣悪な監禁部屋に閉じ込められ、欧米や日本から来た児童性愛者の相手を強いられている。


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客の要求を拒んだ子供は容赦ない暴力で痛めつけられ、病気で弱りきった子供は、ゴミのように捨てられてしまう。


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ある朝、売春宿からトラックに乗せられた黒いゴミ袋には、エイズを発症したヤイルーンという少女が包まれていた。

ヤイルーンと入れ替わるようにして、彼女の妹のセンラーがマフィアの男に連れられて売春宿にやってきた。
今日からセンラーも外国人客を相手に身を売ることになるのだ。


そんなある日、アランヤーからの助けを求める手紙がセンターに届く。

恵子らはチェンライに向かい、売春宿の場所を探りあてるが、警察は証拠不十分として動こうとしない。

自力でを救い出そうにも、マフィアの監視の目に妨げられてどうすることも出来なかった。


一旦、東京に帰った南部と恵子は、最初に臓器移植手術のネタを掴んだ記者・清水と合流し、梶川という商社マンの自宅を訪ねる。
彼こそはタイで手術を受けようとしてい子供の父親なのだ。


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しかし、その取材は、
「人の命をお金で買うんですか!」
と恵子が叫んだために決裂してしまう。

恵子の願いは、今まさに命の危機にさらされている子供を助けること。
一方、南部は、
「ひとりを救っても新たな犠牲者が出るのだから、それを食い止める方法を見つけるべきだ」

子供を救うという目的は同じでも、ふたりの間には決定的な亀裂が生じていた。


やがてタイに戻った恵子は無力感に打ちのめされながらも、売春宿から新たに捨てられたゴミ袋の中から、病に冒されたアランヤーの救出に成功。


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彼女と別行動をとる南部は、日本人フリーカメラマンの青年・与田を協力者として迎え、臓器移植者の子供が病院に連れてこられる決定的瞬間を撮影しようと試みる。


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が、マフィアに拳銃で脅され、子供たちを救おうともがき苦しむ南部は、人間の内に潜む真の闇と向き合うはめになるが……。


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タイで横行する幼児売春や人身売買という現実に鋭く切り込む社会派ドラマ。



誰もが目を背けたくなる現実を真正面から凝視していく。
何の罪もない無垢な子供たちが、欲望まみれの大人たちのエゴに蹂躙され、虫けらのように扱われる。

売春宿に監禁された彼らは、幼児性愛者の外国人客のセックスの玩具にされて心身共に耐えがたい傷を負い、病気にかかればゴミ同然に捨てられてしまう。

本作は、子供たちの生命のきらめきをすくい取るとともに、マフィアの暴力、性的虐待を犯す観光客の醜さをリアルに描写していきます。


事件を追っていた南部が、タイ人のブローカーから言い放たれる言葉は強烈。

「日本人が買春ツアーで子供を買って楽しんでいるんだ。反吐が出るような日本人どもがな」



全編、重苦しい展開だが、ラストは売春宿が摘発され、少年少女たちは無事に救い出されて……唯一、光明が感じられるシーンで幕が閉じる……かと思いきや、最後の最後に驚愕のとんでもないオチが待っている。

何事にも屈服せずに事件を取材していた正義感あふれる記者・南部の裏に隠されていた衝撃の真実!


救い出された子供を離れた場所から見ていた南部の脳裏にある光景がフラッシュバックする。

暗い廊下を手をつないで歩く南部と少年……。

そして南部はいきなり地面に突っ伏して狂ったように号泣するのだ。


シーンは変わり、南部の部屋を整理する与田と清水の姿を映し出す。
何も説明はされないが、南部は死んだ(自殺?)したと推測できる。

その時、壁を覆っていた布を剥がした与田が目にしたのは……。
鏡の周りに世界中で発生した幼児買春・虐待の新聞記事が所狭しと貼り付けられていたのである。

次に与田は額の中の男の子の写真に着目し、
「これって南部さんの息子さんなんですよね?」
(与田は以前、南部からそう聞かされていた)

ところが清水は、
「いや、あいつには娘しかいないよ」

ではこの写真の男の子は誰?
そして壁の新聞記事の意味は?


この説明も一切されることなく謎を残して映画は終わるのですが、このように解釈できる。

実は南部は児童性愛者で、少年を買春した過去があった。
そんな自分を戒めるために、‘鏡’の周りに記事を貼り付けてあったと。

写真の子供は、おそらく南部がかつて愛してしまった少年。


南部はその罪悪感にずっと苛まれ、闇の世界で苦しんでいたのでしょう。