
【出演】
山田辰夫、小林稔侍、南条弘二、戎谷広、大池雅光、中島陽典、北原美智子、森村明美、緒方明、小水一男、飯島大介、土方鉄人
【監督】
石井聰亙
【アートディレクター・音楽】
泉谷しげる
“全国の爆走少年たちへ”

幻の街・サンダーロードでは、規制の厳しくなる新道交法施行を機に複数の暴走族が休戦協定を結んでエルボー連合を名乗り、「愛される暴走族」への方針転換を図っていた。
「もうちっと大人になってよ、愛される暴走族になるっつう訳だ」
しかし鉄人暴走族・‘魔墓呂死’の特攻隊長である仁と少数の仲間達は、そんな日和ったエルボー連合や魔墓呂死のリーダー・健に反旗を翻し、彼らをボコボコにしてしまう。

「いいか!今日から俺たちが新しい‘魔墓呂死’だ!テメエらはトロトロとチャリみたくタンボの真ん中でも走ってろ、この百○が!」
仁は権力に屈服する暴走族に我慢がならなかったのだ。
こうして連合軍相手に暴走・暴力行為を繰り返し、サンダーロードは仁たちの天下となった。

手を焼いた連合軍は、仁と仲間達を総動員で潰しにかかり、抗争は激化していく。
一方でかつての魔墓呂死を創設した元リーダーであり、今は‘スーパー右翼・国防挺身隊’を率いている岩見剛は、仁のカリスマ性と無軌道さに惚れ込んでおり、多勢のエルボー連合に囲まれ殺されかけていた仁らを救い、スーパー右翼に入団させる。
実は剛は同性愛者であり、恋愛的観点からも「惚れ込んでいた」のだ。

厳しい訓練の毎日が続き……仲間の茂はしっかりした右翼青年になり、剛の‘愛人’にもなり、更には幹部となって順応していくが、仁と忠、英二はスーパー右翼の主義や規律に嫌気が差して脱退する。
根っからのハミダシ者の仁が馴染めるような場所ではなかったのだ。
「人間にはよ、向き不向きってものがあんだよ……やってらんねえよ!もう辞めてやるよ、こんなとこ!」
「ここを出れば、お前を狙っている連中から殺されるかもしれんのだぞ」
「上等だよ!」
街に戻った3人はエルボー連合とスーパー右翼を敵に回すことになり、再び暴走に繰り出すも襲撃され……仁は右手と右足のつま先をチェーンソーで切り落とされてしまう!
忠は仁のバイクを盗んで逃げ出し、英二も襲撃を受けて植物状態にされてしまった。
バイクに乗る手段を絶たれ、孤独になった仁はひたすら憎悪を募らせるが……。
「こんな片○に何ができっかよ」
絶望の中、仁はシャブ中の悪ガキ・小太郎と指名手配中のマッドボンバーのオッサンに出会う。
やがて二人の協力で、仁は全身武装の殺人マシーンとして蘇る!
仁は、オッサン、小太郎とサンダーロードへ向かう。
「街中の奴ら、全員ぶっ殺してやる!」

バズーカ砲が火を吹き、戦いの火蓋は切って落とされた!

幻の街・サンダーロードを舞台に、権力の力に日和った暴走族や右翼に戦いを挑む暴走少年の姿を描くハードバイオレンス・アクション。

元は16ミリで撮影した本編を東映が35ミリ版にブロウアップして劇場公開(1980年)したところ、大絶賛され……今やカルト化し、伝説の映画にもなっている石井監督初期のアナーキズム溢れる痛快作。
低予算で作られた感バリバリの自主映画のノリ……なのは当然で、この映画は当時23歳の石井監督が日芸の卒業制作として作ったものなのだ。
といっても、この作品の2年前には日活の『高校大パニック』でメジャーデビューを果たしており、既にその存在は有名だった訳ですが。
ストーリーはハチャメチャだし、「片○」「キ○○イ」「チ○○ン屋」などの差別用語の台詞がフツーに飛び交うし(この当時は規制が緩かった?)出演者はリーゼントに革ジャン姿のムサくて濃いキャラの野郎ばっかだし、全編にわたって暴力と罵声の嵐だし、12歳くらいの子役がシャブを自ら注射して恍惚に浸るシーンは出てくるし(現在では絶対にNGだろう)「君が代」を「ワケのわかんねえ歌を歌ってんじゃねえよ」とか言っちゃうし、植物人間になってしまった仲間を前にしてギブスにわざわざ‘植物’と書いて説明するし……とにかくやりたい放題のアブない内容。
アブないと言えば、街宣車に向かって「うるせー、日の丸チ○○ン屋!」と罵倒するシーン。
これって、後からクレームとかこなかったのかな?かなりヤバいと思ってしまったのだけど。
女子中学生の売春婦トリオが登場するあたりも今ではNG?
「あれで中学生だもんなぁ。体だけは25歳だよなぁ。スゲーよなぁ」
なんて台詞もある


バイクで暴走、ケンカ、カチコミ、リンチ、クスリ、サービスカットの女優のヌード、同じくサービスカットの(?)稔侍さんの‘男’とのベッドイン、挙げ句の果てにはチェーンソーによる手足切断……こんなシーンを挟みつつ、最凶、最悪の街の吹き溜まりのアウトロー連中が流血の抗争を繰り広げる(有無を言わせぬ強引すぎる展開の)それだけの映画。
でも、スゲー面白いんですって、これが!
仁の復讐劇がクライマックスだ!
失った手足を超合金化した最強の人造人間として(?)甦る仁。
こう書くと‘ロボコップ’みたいなのを想像するかと思いますが……その姿は何とも超チープ


フルフェースのメットにアメフトの(?)プロテクター、切断された右手には包帯を巻いたところに‘錨’のようなモノが装着されている……ま、簡単にコスプレできちゃうような格好です(笑)。
が、これが全身黒ずくめで(左手にはライフル銃を持つ)不思議とカッコイイのだ。
ラストは泣けに泣けます!
敵を全員ぶっ殺したものの自分もかなりの痛手を負った仁は、道路にダウンした状態で小太郎にこう言う。
「バイク……俺のバイク持ってきてくれ」
次のカットでは仁はバイクに跨がっている。
「そんな身体でバイクに乗れんのかよ?ブレーキどうすんだよ?」
と小太郎。
すると仁はここで爽やかな笑みを浮かべる。劇中で初めて見せるサイコーの笑顔だ!
そして小太郎に見送られながら……仁は‘最後の暴走‘に繰り出す。
ブレーキのきかないバイクは、やがて雪景色の中をどこまでもどこまでも走り抜けていき……エンディングとなる。
痺れる!カッコよすぎる、山田辰夫!
主人公の仁を演じる山田辰夫。
当時は‘劇団GAYA’の座長でこれが映画デビュー作。(同じ劇団の中島陽典もデビュー作となる)
また唯一の主演映画でもある。(その後は亡くなるまでずっと名脇役だった)
背は低いし、体つきも貧弱、決してルックスがいいワケでもないし、どう贔屓目に見てもケンカが強そうには映らない……が、なぜだか超カッコよくて凄く魅力的で、ちょっと哀しげな雰囲気を醸し出しているところもいい!
一度聞いたら忘れないあの独特のダミ声で、全編の7割くらいは怒鳴り台詞です。(語尾にやたらと「この百○!」と付け足す)
片手片足を失って、バイクに乗れない体になってからの荒んだヤケクソ自暴自棄演技は強烈の一言。
こんな尖んがりまくりの演技が似合う役者は、そうそういないかと。
当時、無名キャストばかりの本作で、唯一の有名役者で出演しているのが小林稔侍。
と言っても、まだ売れる前か?東映専属の頃ですね。
(もうひとり、南条弘二も『続・愛と誠』に主演していたので、名前は知られていたかもしれないが?)
この稔侍さんが怪演です。
右翼のリーダー役で、「君が代」を口ずさみながら颯爽と登場し、硬派キャラ全開かと思わせておいて実は男色家。
若い部下とベッドインして、優しく腕枕をして上げてうっとり~~なんて衝撃的な(?)シーンも披露。
今では貴重な稔侍さんの姿だ(笑)。
また、泉谷しげる、パンタ&ハル、THE MODSの楽曲が劇中で流れまくるのも嬉しい。
観る人を極端に選ぶ映画です。
おもいっきり嫌悪感を感じるか、はたまたおもいっきり痛快感を感じるか?!
‘映画秘宝’がプッシュするような映画が好きな人には超オススメ!
絶対、観てほしい……ていうか、‘映画秘宝’愛読者ならとっくにチェック済みの映画ですかね


ちなみにクエンティン・タランティーノは石井監督も敬愛しており、『キル・ビル Vol.1』の中で登場する‘オーレン・イシイ’は「石井輝男、石井聰亙、石井隆、石井克人と好きな日本人監督がイシイばっかり」だったからだということから名付けたとか。
ここしばらく新作を発表していない石井監督ですが、今年からは石井岳龍の名前ですべての活動を行うと発表しています。