『ハワイ・マレー沖海戦』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『ハワイ・マレー沖海戦』


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【出演】
伊東薫、英百合子、原節子、加藤照子、中村彰、藤田進、大河内傳次郎、木村功、花沢徳衛、田中春男、進藤英太郎


【監督】
山本嘉次郎


【特撮】
円谷英二




“映画に再現!真珠湾撃滅!”


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「僕はどうしても飛行機乗りになりたい!そして御国のために戦いたいんです」

田舎に住む平凡な少年・友田義一は、母、姉、妹の家族に別れを告げ、海軍パイロットになるため土浦の予科連に入校する。


団体生活の中、海軍精神を注入され、また厳しい訓練を耐え抜いて、3年後に晴れて念願のパイロットに昇格。


やがて日本は真珠湾攻撃を敢行!


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こうして太平洋戦争へと突入していくのであった。


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ひとりの少年航空兵が軍隊の猛訓練に耐え抜き、真珠湾奇襲に向かうまでをドキュメンタリータッチで描く、太平洋戦争開始1周年を記念し国威向上映画として作られた戦争スペクタクル。


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昭和17年、まさに太平洋戦争の真っ最中に、海軍省の命令によって東宝が製作した戦意昂揚映画。

いきなり……
検閲、後援:海軍省
企画:大本営海軍報道部
とのスーパーが映し出されたのにはビックリ。


前半は海軍のパイロットを目指す少年の予科練の生活を詳細に描き出すことに費やされる。
(その合間に家族とのふれあいを挟みつつ)


後半は真珠湾攻撃に至るまでの航空母艦内の生活が詳細に描かれ、特撮を用いた攻撃シーンへ。

最後は、仏印基地から発進した攻撃機が米軍艦を撃沈し、大本営が米英軍との戦闘状態突入を発表するまでを描いています。


単なる戦意昂揚作品ではなく、そこにリリカルな味わいを醸し出しているあたりに、山本嘉次郎監督の思いが表れている?


そして歴史的史料価値もある貴重な映画だと思います。
何たって戦時中に製作、公開された訳ですから。

リアルタイムで進行しつつある戦争をそのまんま描いているので、どこまでがホンモノで、どこからが演出なのか区別がつかなくなってくる。

予科練のシーンは、実際の土浦航空学校で撮影されており、本物の練習生による訓練風景が挿入されるのも興味深いものが。
ボート、相撲、マラソン、器械体操、はたまたラグビーまで取り入れていたんですね。

教官はやたらとこの訓示を垂れる。
「海軍に大切なものは、攻撃精神、犠牲精神、服従精神だ!そして根性と気合いだ!気合いを入れれば不可能などない!気合いで米国に勝つ!」

こうして当時の若者たちは(延いては日本全体が)洗脳されていったのか!?

ただ戦争映画にありがちな‘鉄拳制裁’シーンは全く出てこない。
教官たちは、厳しい中にも親心的な優しい部分を兼ね備えた人格者ばかりで、予科練の生活は笑いも絶えず意外とほのぼのとした描写。(そう演出せざるを得なかったのでしょうが?)

教官と練習生の関係は良好そのものです。(実際のところはどうだったのか?)

海軍航空隊が、統制が取れていて、規律、団結力も優れている……などとにかく魅力的に描かれているので、これを観た当時の若者は、思わず予科練に志願したくなったのでは?(海軍省の思惑が見え隠れするようです)


真珠湾奇襲攻撃とマレー半島沖の艦隊急襲をクライマックスにした内容で、当時の劇場では興奮した観客の万歳三唱の声まで起こったらしい。
が、その頃の日本は……既に敗北の道を歩み始めていたことを考えると、皮肉であり虚しくもある。


でも興奮するのも納得のマレー沖攻撃のクライマックスだ!

「機長!もう帰りの燃料しかありません!」
と報告する部下に、
「基地へ帰るとは思うな!」

するとその部下は爽やかな笑顔を浮かべ……
「はっ!それならまだ充分に燃料はあります!」
「よし!」

しかも……攻撃時にバックに流れる曲は……なんとワーグナーの「ワルキューレの騎行」なのだ!

『地獄の黙示録』での爆撃シーンで流されたインパクト大のあの曲が、なんとそれよりも遥か昔の日本映画で使用されていたとは!
これには驚きでした。

コッポラがこの映画の影響を受け、自分の作品でも使った……なんてことはなく、ただの偶然でしょうけどあせるあせる

勇壮な曲と共に、日本軍の攻撃で炎を上げながら沈没していく敵艦隊。
こんなの観せられたら当時の観客のテンションは異常に高ぶったことでしょう。

日本軍大勝利の結末の中、エンディングではこれまた勇壮な「軍艦マーチ」がフルバージョンで高らかに鳴り響く!

こりゃあ「万歳三唱」も起きるわなぁ。嫌でも熱い気持ちになりますよ。

では危険なプロパガンダ映画かというと、決してそういう訳でもない。
庶民が楽しめる最高の戦争エンタメ映画とも云える。

名匠・山本嘉次郎監督は誠実な作風を交えて、プロパガンダとエンタメのバランスを見事に保ちつつ、自分の主張もきちんと取り入れています。(少年と家族とのくだりに、それが如実に表れている)



それから、あの円谷英二によるミニチュアの特撮は、60年も前の作品とは信じられないくらいの精巧さ。
部分的に実際の海戦で撮影された映像も挿入しているため臨場感抜群で、特撮と実写の区別がつかない場面もあるほどだ。
(モノクロ映像なので粗が隠れるという利点も)


戦後にこの映画を観たGHQが「攻撃シーンはすべて実戦の実写記録フィルムだ」と勘違いして疑わず、東宝にフィルム提供を強要したエピソードは有名。

それくらい円谷の特撮は優れており、これが後に『ゴジラ』で一気に開花する!



古きよき日本映画の雰囲気を堪能しながら、当時の世相を反映して観ると非常に興味深い作品かと思います。



ちなみに、スタッフ名だけでなく、監督やキャスト陣の名前もノンクレジット。
これはなぜ???

若き日の原節子が清楚で可憐で美しすぎる!

そして藤田進は、やっぱり演技が下手あせるあせる
でもその存在感は秀逸!