
弱小球団のオークランド・アスレチックスを独自の理論により改革し、常勝球団に育てあげたGM、ビリー・ビーンの苦悩と栄光の半生を描いた人間ドラマ。
「このチームで勝てば、野球の世界を変えられる!」
メジャーリーガーからアスレチックスのGMへと転身した実在の人物、ビリー・ビーン。
その風変わりで短気な性格で、自分のチームの試合も観なければ、腹がたったら人やモノに当り散らすという癖のある男。
(チームが負けると聴いていたラジオを思い切りぶっ壊す!)
選手時代に結婚した妻も、仕事に没頭すると家庭を顧みない彼から離れて行き、現在は娘と二人暮らし。
そんなある時、ビリーは、野球はまったく知らないイェール大経済学卒のインテリ・ピーターと出会い、彼が主張するデータ重視の運営論に、高い年俸を選手獲得に積めない貧乏球団が勝つための突破口を見出す。
主力選手が抜けても、必ずその穴は埋められる。
二人は他チームで燻っている選手たちに目を付けるのだ。
アメリカでは珍しいアンダースロー投手。
「彼はメジャーの中で最も‘過少評価’されている。130キロ台のストレートしかなくても抑えられる技術がある」
肩を壊して捕手としては使い物にならない選手。
「捕手はダメでも一塁手として起用すればいい。あの打撃は使える」
「僕は一塁は守ったことはありませんが」
と戸惑うその選手に、
「簡単だ。飛んでくるボールを捕るだけだ。それくらい出来るだろ?」
そしてアスレチックスからヤンキースに移籍したジアンビの弟、ジェレミー・ジアンビをも入団させる。
「奴は、スタジアムより酒とストリップに夢中になっている男だぞ」
と苦言を呈するオーナーに、
「やる気さえ起こせば、兄貴以上に活躍できる素質がある」
こうして、オーナーや監督の反対を無視して、「マネーボール理論」と呼ばれる戦略を次々に実践していく。
そしてチームワークを乱す選手、不振に喘ぐ選手は容赦なく放出するなど、はた目からは無茶なトレードを繰り返す。
「俺に無断で勝手なことをするな!」
と怒る監督にも構うことなく、
「このチームを強くする戦力を作ることが俺の仕事だ」
こう堂々と言い放つのだ。
シーズン当初は理論が活きず、変わり者のビリーといかにもビジネスマン然としたピーターのコンビは、球界にもファンにもバカにされていた。
しかしデータ統計を活用し、打点や本塁打の数値より出塁率や長打率の高さを重視、年棒の安いコストパフォーマンスの優れた選手を集めてチームを編成した独自の経営理論により、高年棒人気選手が他球団より圧倒的に少ない中、2000年から2003年にかけて4年連続でアスレチックスをプレーオフ進出に導くのです。

かつては名門だったアスレチックスも、1990年代以降は低迷し、観客動員も激減。しかも強豪球団の三分の一しか年棒が払えないという弱点をカバーするため、考えた末にマネーボール理論を取り入れ、これまでのやり方にしがみつこうとする抵抗勢力に迎合する事なくチーム変革を見事に成し遂げるビリー。
またセイバーメトリクスを導入したドラフト戦略や若手選手の育成が奏功し、リーグ最低レベルの年俸総額ながらプレーオフの常連となるなど強豪の一角に返り咲かせる!
そんなビリーが最後に……忘れかけていた‘あること’に気付く。
それは……‘野球を楽しむこと’!
冒頭、2002年のヤンキース対アスレチックスの地区優勝決定戦の実際の映像が流れる。
野球ファンにはたまらない導入部です。
それからビリーがアスレチックス対マリナーズのテレビ中継を観ているシーンで、その時に画面にアップで映る選手は……イチローだ!
元野球選手たちが選手役で出演しているだけあって、試合シーンはリアリティたっぷり。
普段は見られない球場の裏側が多く見られるのも、たまらない。

もちろん、アスレチックスの本拠地であるオー・ドットコー・コロシアムも登場するのですが、こんなくだりがありました。
レッドソックスからヘッドハンティングされたビリーが、フェンウェイ・パークに足を運んで交渉を受けた際、ビリーはレッドソックス関係者からこう言われるのです。
「やっぱりコロシアムよりスタジアムの方がいいだろ?」
その瞬間、複雑な表情を浮かべるビリー。
実はアスレチックスの本拠地は野球専用球場ではない。
NFLのオークランド・レイダーズの本拠地でもあるんですね。
つまり野球とアメフトの兼用球場。(野球観戦に適していないとも言われている)
レッドソックス側は、それを皮肉るような表現をしてきたというワケです。
ところで、ビリーは誘われるままレッドソックスに移ったのか?
アスレチックスよりも高額が保証され、且つ優勝の可能性も高いのは明白。
が、彼はアスレチックスに残る決断をするのですね。
そして現在でもアスレチックスのGMとして、チームを支えています。
一方、ビリーを逃したレッドソックスは、マネーボール理論を実践してみた結果……後にワールドシリーズを制覇することとなる。
野球を描いている作品ではあるものの、野球のシーンはそれほど多くはなく、当然ながらチームを支えるフロント陣の姿が中心になっています。
これまでに野球選手を描いた映画はたくさんありましたが、裏方に焦点を当てたものは初めて?
(『メジャーリーグ』のような派手な展開を期待すると肩透かしを喰らうかもです。内容的には地味。でも見応え満点!)
特にトレード交渉での駆け引きを描写したシーンは、興味深いものが。
「○○をやるから、代わりに○○をくれ」
選手はあくまでも‘商品’なのだなと改めて実感させられた。
古い伝統を打ち破り、徹底して自分を貫く男の強さと、チーム低迷に焦るなか、離れて暮らす娘との交流に安らぎを見出す父親のナイーブさを鮮やかに演じ切ったブラッド・ピットが素晴らしい。
生き方に迷いを見せる父へ娘が捧げる歌……それを走る車の中でひとり聴くビリー。この時のブラピの表情がメチャメチャいい!
それから打ち合わせ中でも無造作にナッツを口に放り込む際のワイルドな仕種が超カッコイイです。
オスカー候補にもなるのではと噂されているブラピの演技は必見!
ちなみにビリー・ビーンは、松井のアスレチックス入団会見の時に日本でも有名になりましたね。

膝に爆弾を抱えて守れない松井を獲得したのも、ビリーの鶴の一声からか!?